日本のAI医療機器はいま何があるか——承認SaMDの全体像と読み方
「AI搭載」を謳う製品のうち薬機法承認済みの医療機器はどれか——PMDA承認SaMDの全体像を領域別に整理し、「承認と保険適用は別物」の構造、二段階承認で今後どう増えるかまで一次資料で解説します。
執筆・監修 クリニックAIラボ 編集長(現役内科医 / 医療AI研究者)

- 公開
- 2026-07-12
- 更新
- 2026-07-12
- 引用
- PMID 3 件
はじめに——「AI 医療機器って、結局いま何が使えるの?」と聞かれたら
学会の機器展示もベンダーの営業資料も「AI 搭載」だらけになりました。同業の先生方からよく聞かれるのが、「で、結局どれが承認されている医療機器なの?」という素朴な質問です。答えは意外に簡単で、日本で承認されたプログラム医療機器 (SaMD) の一覧は PMDA (医薬品医療機器総合機構) が公開しています。2025 年 12 月 31 日時点で 178 品目、うち AI 活用とフラグが付くものは 59 品目。米国 FDA (米国食品医薬品局) の AI 関連医療機器リストが累計 1,000 件を超える規模になっているのと比べると 1 桁小さい、というのが日本の現在地です。
ただ、一覧をダウンロードするだけでは院長の意思決定には足りません。この一覧には載らない有名 AI 機器があり (nodoca はここに出てきません)、承認されていても保険点数がつく品目はごく一部です。そして承認の仕組み自体が 2023-2025 年に大きく作り替えられ、これから品目が増えるフェーズに入っています。つまり必要なのは一覧そのものではなく「読み方」です。
この記事では、①いま何があるか (数と領域別マップ) → ②なぜ「承認されたのに点数がつかない」のか (承認と保険適用の二重ゲート) → ③自院で使えるかの 3 段判定 → ④点数がつく例外の試算 → ⑤実務の落とし穴 → ⑥今後どう増えるか、の順でお伝えします。本記事は半期ごとに数値を更新する定点観測記事として運用します。
いま何があるか——承認済み AI 医療機器は「一覧」で公開されている
結論から言うと、日本で薬機法上の承認を得た AI 医療機器の一覧は、PMDA が Excel で公開しています。「プログラム医療機器の承認等情報」ページにある製造販売承認品目一覧です [1]。単体のプログラム (ソフトウェア) が医療機器として規制対象になったのは、2014 年 11 月 25 日施行の医薬品医療機器等法 (薬機法) からです。PMDA はこう説明しています。
「2014年11月25日に施行された『医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律』では、国際整合性等を踏まえて、疾病の診断・治療等を目的とした単体プログラム(ソフトウェア)についても医療機器としての規制対象としており、多くのプログラム医療機器が開発され、製造販売承認等されています。」(PMDA「プログラム医療機器」, 2026-07-11 取得) [2]
この一覧 (2025 年 12 月 31 日時点版) を集計すると、プログラム医療機器の製造販売承認品目は 178 品目。うち「AI活用医療機器」欄に○が付くのは 59 品目 です [1]。2020 年時点の承認 AI-SaMD を系統的に調べた研究では 11 品目と報告されていたので [3]、5 年で 5 倍以上に増えた計算になります。

推移を見ると、AI 活用品目の承認は 2018 年の EndoBRAIN (大腸内視鏡の超拡大画像から腫瘍性ポリープの鑑別を支援するプログラム、サイバネットシステム) が最初で、2024 年 12 件・2025 年 18 件と直近 2 年で急増しています [1]。累計 59 品目のうち半数がこの 2 年に承認された計算です。
領域別に見る——画像系に 7 割が集中している
AI 活用 59 品目を一般的名称ベースで領域分けすると、X 線・CT・MRI・超音波・眼底などの画像診断支援が 27 品目、内視鏡の病変検出・疾患鑑別が 14 品目。この 2 つで約 7 割を占めます [1]。残りは心音・心電・脈波などの循環器・生理検査系が 9 品目、手術画像の認識支援が 4 品目、歯科 2 品目などです。「AI 医療機器 = 画像の機器」という直感は、承認データの上でも当たっています。

中身も、大学病院の話だけではありません。たとえばエルピクセルの EIRL シリーズは胸部 X 線の肺結節検出や脳 MRI の動脈瘤検出など、クリニックや健診の読影動線に近いところに複数品目があります [1]。2025 年 11 月には Apple の「高血圧パターンの通知プログラム」(Apple Watch の脈波データから高血圧の可能性があるパターンを検出して通知する家庭用プログラム) が改良医療機器として承認され、AI 活用欄に○が付いています [1]。患者の腕時計の上で動くプログラムが承認医療機器になる時代が、一覧の上ではすでに始まっています。
——ここまでを自院に置き換えると、やることは 1 つです。ベンダーの「AI 搭載」という説明を聞いたら、PMDA のこの一覧 (と添付文書検索) で販売名を引いてみる。載っていれば承認番号・一般的名称・承認年月日まで 1 分で確認できます。ただし、この一覧には「載らない承認 AI 機器」もあります (カメラなどのハードウェア一体型)。その読み方の注意は⑤で扱うとして、まず「一次データの置き場所」を押さえるのが第一歩です。
なぜ「承認されたのに点数がつかない」のか——承認と保険適用は別のゲート
①で見た 178 品目・AI 活用 59 品目は、あくまで「薬機法上の承認を得た医療機器」の数です。院長がその次に確認したいのは「では、それを使うと保険点数がつくのか」でしょう。ここで多くの方が引っかかるのが、承認と保険適用はまったく別のプロセスだという点です。結論から言うと、PMDA の承認は「売ってよい・使ってよい」の許可であって、「保険で算定できる」の保証ではありません。
制度の建て付けを一次資料で確認します。薬機法上の承認・認証を得た医療機器を保険診療で使うには、別途「保険適用希望書」を出し、保険適用上の区分を決める手続きが要ります。厚生労働省保険局の「医療機器の保険適用等に関する取扱い」は、その区分を次のように定義しています。新しい技術料の設定が必要なものは、中央社会保険医療協議会 (中医協) の審議を経てはじめて点数がつきます。
「C2(新機能・新技術) 当該医療機器(改良がなされた医療機器を含む。)を用いた技術が算定方法告示において、新たな技術料を設定し評価すべきものであって、中医協において保険適用の可否について審議が必要なもの。」(医療機器の保険適用等に関する取扱いについて, 2026-07-11 取得) [4]
区分は A1(包括)から C2(新機能・新技術)、そして F(保険適用に馴染まないもの)まで並んでいます [4]。ここが承認との分かれ目です。承認された AI 医療機器の多くは、A1・A2 のように既存の技術料の範囲で使われる——つまり、その機器を使ったからといって新しい点数が生まれるわけではありません。胸部 X 線や眼底画像の読影を支援する AI を入れても、算定するのは従来どおりの画像診断料であって、「AI 加算」という独立した点数が付くわけではない、というのが原則です。新しい技術料が生まれるのは、C1・C2 として中医協で個別に審議された、ごく一部の品目だけです [4]。

「点数がつく側」に回った実例——nodoca の C2
この構図がはっきり見えるのが、①の一覧には載っていない AI 医療機器、アイリス株式会社の nodoca(ノドカ)です。咽頭を撮影して画像から所見を解析し、インフルエンザ感染症の診断を補助するプログラムで、中医協総会(令和 4 年 9 月 14 日)の資料は決定区分をこう記しています。
「販売名 nodoca(ノドカ) / 決定区分 C2(新機能・新技術)」「特定保険医療材料としては設定せず、新規技術料にて評価する。」(中医協 総-1-1(令和4年9月14日), 2026-07-11 取得) [5]
nodoca は C2 として中医協で審議され、特定保険医療材料(モノの値段)ではなく新しい技術料で評価する扱いになりました [5]。同じ資料は準用技術料の内訳も明記しています。鼻咽腔直達鏡検査(D296-2)の 220 点に内視鏡検査通則 3 の 70 点・通則 4 の 15 点を足した 305 点相当が、令和 4 年 12 月の収載時点の評価でした [5]。その後、令和 6 年度改定で正式な技術料区分「D296-3 内視鏡用テレスコープを用いた咽頭画像等解析(インフルエンザの診断の補助に用いるもの)305 点」が新設され、準用から独立した点数へと格上げされています(現行の診療報酬算定方法告示で条文を確認)[7]。承認から保険点数の確立まで、ここまでのステップを踏んで、はじめて「AI 機器で算定できる」状態になったわけです。
一方で、①で数えた画像診断支援 27 品目・内視鏡 14 品目の大半は、この C2 のような独立点数を持っていません。承認はされていても、算定上は既存の画像診断料・内視鏡検査料の枠内で使う機器——「承認されたが、専用の点数はつかなかった」側が多数派だ、というのが日本の現在地です(見立て。個別品目の算定可否は各機器の使用目的と告示・通知で要確認)。
——ここまでを自院に置き換えると、判断の物差しが 1 つ増えます。ベンダーが「承認済みです」と言ったとき、それは第 1 のゲート(薬機法)を通ったという話にすぎません。院長が本当に知りたい「使うと点数がつくのか」は、第 2 のゲート(保険適用区分)の話です。この 2 つを分けて聞くだけで、「承認 = 増収」という誤解に基づく投資判断を避けられます。次の③では、この 2 つのゲートに「そもそも医療機器か」という手前のゲートを足した、3 段の判定手順に落とします。
自院で使えるか——「該当性 → 承認 → 保険」の 3 段で判定する
②で承認と保険適用が別ゲートだと分かると、院長の実務的な問いは 1 つに整理できます。「目の前のこの AI 製品は、どの段階まで来ているのか」。これは 3 段のフローで判定できます。手前から順に、①そもそも医療機器か(該当性)→ ②承認されているか → ③保険点数がつくか、です。この順番で確認すれば、ベンダーの説明がどのゲートの話をしているのかを取り違えません。
第 1 段: そもそも医療機器か(該当性)。 ①②の前に、実はもう 1 つゲートがあります。すべての医療系ソフトが医療機器なのではありません。プログラムが薬機法上の「医療機器」に当たるかどうかは、該当性ガイドラインが 2 つの要素で判断すると定めています。
「①…治療、診断等にどの程度寄与するのか。 ②医療機器プログラムの機能の障害等が生じた場合において人の生命及び健康に影響を与えるおそれ(不具合があった場合のリスク)を含めた総合的なリスクの蓋然性がどの程度あるか。」(プログラムの医療機器該当性に関するガイドライン(令和5年3月31日一部改正), 2026-07-11 取得) [8]
判断は、診断・治療への寄与の程度(①)と、不具合が起きたときのリスクの蓋然性(②)の 2 軸です [8]。人の生命・健康への影響がほとんどないクラス I 相当のプログラムは、医療機器の範囲から外れます [8]。つまり「AI が入っている」ことと「医療機器である」ことは別で、寄与とリスクの 2 軸で線が引かれています。院内業務の効率化だけを目的としたソフトが医療機器に当たらないことがあるのは、この線引きによるものです(個別製品の該当性の断定は本記事では行いません。判断は使用目的とガイドラインに沿って行われます)。
第 2 段: 承認されているか。 該当性のゲートを越えて医療機器と位置づけられたプログラムは、クラスに応じて承認・認証・届出のいずれかの規制を受けます。院長の実務では、①で紹介した PMDA の承認品目一覧と、独立行政法人の医療機器の添付文書検索で販売名を引くのが最短です。載っていれば、承認番号・一般的名称・承認年月日・そして最重要の「使用目的」を確認できます [1]。
第 3 段: 保険点数がつくか。 ②で見たとおり、承認されていても専用の技術料がつくとは限りません。C1・C2 として中医協で審議され、新技術料が設定された品目(nodoca など)は算定できますが、多くの画像診断支援 AI は既存の技術料の範囲で使う扱いです [4][5]。この段は「承認とは別に確認する」と決めておくのが安全です。

——ここまでを自院に置き換えると、次にベンダーの営業を受けるときの質問は 3 つで足ります。「これは薬機法上の医療機器ですか(該当性)」「承認番号と一般的名称、使用目的を教えてください(承認)」「保険で算定できる区分はありますか(保険)」。3 つとも即答できる製品は、少なくとも自分の立ち位置を正確に説明できるベンダーです。逆に第 1 段で言葉に詰まる製品は、医療機器ではない「AI 機能付きソフト」である可能性を念頭に置いて、契約条件を読み込むのが安全です。
自院の数字でいくらになるか——点数がつく「例外」の試算
②③で「承認 = 増収ではない」と分かると気が滅入りますが、ここで数少ない朗報があります。それでも点数がつく例外は確かにあり、そこは院長の関心事です。ここでは、独立した技術料が設定された数少ない例として nodoca を、治療用アプリの管理料を例として、実際の金額感を前提を開いて試算します。多数派の画像診断支援 AI には専用点数がつかない一方、これらの例外は「AI 機器が直接、点数を生む」数少ないケースだからです。
例: nodoca(C2 → D296-3)。 ②で見たとおり、令和 6 年度改定で「D296-3 内視鏡用テレスコープを用いた咽頭画像等解析(インフルエンザの診断の補助に用いるもの)305 点」が正式区分になりました [7]。1 回 305 点 = 3,050 円です。ここから先は自院の実数で検算してください。前提を開きます。
試算の前提(すべて仮置き):
- インフルエンザ流行期に、この検査を 1 日あたり 5 / 10 / 20 件算定する 3 シナリオ
- 月間の診療日数 20 日
- 1 点 = 10 円、算定は 305 点のみで計算(時間外・休日・深夜加算や画像記録用フィルムは含めない。流行期の夜間・休日診療ではさらに上振れします)
- 機器本体・ランニングコストは控除していない保険収入の粗計算。導入判断では機器費用・消耗品費との差引で評価してください
計算式は「1 日件数 × 3,050 円 × 20 日」です。1 日 5 件で月 305,000 円、10 件で月 610,000 円、20 件で月 1,220,000 円。流行のピークが 2〜3 か月続く前提なら、シーズン合計はこの 2〜3 倍になります。もちろん、これは「検査機会が十分にある内科・小児科・耳鼻科」でのモデルであって、算定はインフルエンザの診断補助という使用目的の範囲に限られます [5]。

補足として、nodoca の性能は臨床研究でも報告されています。開発元の関係者が著者に含まれる研究では、咽頭画像からインフルエンザを判別する AI モデルの精度が AUC(判別性能の指標で、1 に近いほど高精度)0.90(95%CI 0.87-0.93。95%の確からしさでこの範囲という意味)、感度 76%・特異度 88% と報告されました [6]。これは開発元による研究であり、性能を保証するものとして読むのではなく「そういう水準が報告されている」という程度に受け止めるのが妥当です。診断の最終責任が医師にあることは、承認上の使用目的にも「解析結果のみで確定診断を行うことは目的としない」と明記されています [5]。
例: 治療用アプリの指導管理料。 もう一つの「点数がつく例外」が、疾病治療用のプログラム医療機器(いわゆる治療用アプリ)です。これらを処方して指導管理を行うと、プログラム医療機器等指導管理料(B005-14)を算定できます。令和 8 年度改定では、この管理料に情報通信機器を用いた場合の規定(注 3、所定点数に代えて 78 点)が新設されました [9]。答申資料は、その趣旨をこう説明しています。
「プログラム医療機器等指導管理料が併算定できるニコチン依存症管理料や生活習慣病管理料(Ⅱ)に情報通信機器を用いた場合の規定があることを踏まえ、プログラム医療機器等指導管理料に情報通信機器を用いた場合の規定を設ける。」(令和8年度改定 個別改定項目(答申、令和8年2月13日)印字p.545, 2026-07-10 取得) [9]
オンライン診療で治療用アプリの管理を行う場面が制度に組み込まれた、ということです。届出制で、注 3 用の施設基準(情報通信機器を用いた診療の体制)が別に定められています [9]。
——ここまでを自院に置き換えると、電卓を叩く順番は 2 段です。まず、自院で使おうとしている AI 機器が「点数がつく例外」に当たるか(③の第 3 段で確認)。当たるなら、上の nodoca モデルのように「単価 × 想定件数」で自院の数字に置き換える。当たらない多数派の画像診断支援 AI なら、増収ではなく「読影の質・時間」への投資として評価する——この切り分けを最初にやると、ベンダーの ROI 資料を鵜呑みにせずに判断できます。
実務の落とし穴——「AI 搭載」の看板と、承認一覧・承認範囲のずれ
一覧の読み方と 3 段判定が分かっても、実務では独特のずれでつまずきます。院長・事務長と共有しておきたい落とし穴を、起きやすい順に並べます。いずれも「一覧をそのまま鵜呑みにする」ことから生まれます。
落とし穴 1: 有名な承認 AI 機器が、①の一覧に「載らない」。 直感に反しますが、②で扱った nodoca は PMDA の承認品目一覧(178 品目)には出てきません。理由は集計の定義にあります。この一覧は「主たる一般的名称がプログラムの品目」だけを収載しており、カメラなどの有体物と一体で承認された機器のプログラムは含まれない、と PMDA 自身が注記しています。
「本一覧は、主たる一般的名称にプログラムの名称を有する品目の一覧であり、有体物の医療機器として承認された品目の構成品にアプリやプログラムが含まれる場合、主たる一般的名称にプログラムの名称が含まれないため、本一覧には含まれていません。」(PMDA 製造販売承認品目一覧 留意点①, 2026-07-11 取得) [1]
nodoca は専用カメラ(有体物)と一体の機器なので、この一覧の外にいます。同じ理屈で、禁煙治療用アプリ CureApp SC のように装置と組み合わせて承認された品目も、この一覧では捕まえきれません。「①の一覧にないから未承認」と早合点しない——承認 AI 機器の全体像は、この一覧に、医療機器の添付文書検索や中医協の保険適用資料を重ねてはじめて見えてきます。
落とし穴 2: 「AI 活用○」がない = AI 非搭載、ではない。 ①で数えた「AI 活用 59 品目」も網羅的な数ではありません。一覧の注記は、業務量の負担軽減などだけを目的とした機能は AI 活用欄の集計から除外している、と明記しています [1]。したがって「○が付いていない = AI を積んでいない」とは読めません。数字はあくまで「診断・治療への寄与を意図した AI 機能」に絞った目安として扱うのが正確です。
落とし穴 3: 「AI 搭載」の広告と、承認された使用目的のずれ。 これが院長に一番効いてくる落とし穴です。承認は「使用目的」の範囲に対して与えられるものであり、その範囲を超えた効能をベンダーが謳っていないかを、承認情報の側から確認する必要があります。②で見た nodoca の承認上の位置づけも、あくまで「診断の補助」で、資料には「本品の解析結果のみで確定診断を行うことは目的としない」と明記されています [5]。AI 性能を「医師を上回る」といった調子で語る営業トークを聞いたら、その主張が承認された使用目的の中にあるのかを、添付文書の使用目的欄で照らし合わせるのが安全です。
落とし穴 4: 「検出・鑑別の支援」と「診断」を混同しない。 AI 活用○の初出である EndoBRAIN 系(大腸内視鏡の画像から腫瘍性ポリープの鑑別を支援するプログラム、2018 年承認)のように [1]、承認された多くの画像系 AI は「医師の読影・鑑別を支援する」位置づけです。診断や治療方針の最終判断は医師が負う、という前提は、そもそもプログラムの医療機器該当性が「治療・診断等への寄与の程度」で判断されている構造とも整合します [8]。院内で運用ルールを作るときは、「AI が出した結果を誰がどう確認して確定させるか」を、承認範囲に沿って先に決めておくべきです。
——ここまでを自院に置き換えると、防御策は 1 つの習慣に集約できます。ベンダー資料の「AI 搭載」「精度◯%」という言葉を、承認情報の 3 点——一般的名称・使用目的・(あれば)保険区分——に翻訳してから評価する。この翻訳を挟むだけで、看板と中身のずれ、一覧の見落とし、性能表現の行き過ぎの多くは、契約前に気づけます。
今後どう増えるか——二段階承認・優先審査と、日米の規模差
最後に、この一覧が半年後・1 年後にどう動くかを制度側から読みます。ここは事実(一次資料付き)と編集部の見立てを分けて書きます。結論の方向は 1 つ、承認側の蛇口はこれから緩む——ただし、②で見た保険適用という第 2 のゲートは別に残る、という構図です。
事実 1: 国は「SaMD を増やす」制度整備を続けてきた。 出発点は 2020 年 11 月 24 日策定の DASH for SaMD(プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略)で、2023 年 9 月 6 日には厚労省・経産省がその第 2 弾を公表しました。第 2 弾は施策の柱をこう書いています。
「薬事部局と保険部局が連携して製品化までの多様な道筋(2段階承認、一般向けSaMD)を明確化し、薬事承認・保険適用までの予見可能性の確保につなげる。」(DASH for SaMD 2(2023年9月6日), 2026-07-11 取得) [12]
二段階承認の考え方の整理、一般向け SaMD の指針、優先審査、審査部門の体制強化(プログラム医療機器審査部への改組)が、この一枚に束ねられています [12]。①で見た AI 活用品目が直近 2 年で急増した背景には、この制度整備の助走があります(見立て)。
事実 2: 二段階承認は「通知ベースの運用」として動き始めた。 DASH for SaMD 2 を受け、厚労省は令和 5 年 11 月 16 日付けの課長通知で二段階承認の取扱いを明確化しました。第 1 段階で早期に市場導入し、市販後にエビデンスを集めて第 2 段階の承認につなげる、という枠組みです。ただし通知は、これがあくまで選択肢の一つだと念を押しています。
「なお、二段階承認の考え方は選択肢の一つであり、当該アプローチを適用せずに薬事承認を取得できることを念のため申し添えます。」(二段階承認通知(医薬機審発1116第2号、令和5年11月16日), 2026-07-11 取得) [13]
実際の活用は限定的で、①の承認品目一覧で「二段階承認の考え方の活用事例」に○が付くのは 3 品目にとどまります [1][13]。仕組みはできたが、これから使われていくフェーズ、というのが現在地です。
ここで 1 つ、誤解の多い点を正しておきます。この二段階承認は、法律で新設された制度ではなく、通知に基づく運用です。 2025 年に薬機法等の改正(令和 7 年法律第 37 号、令和 7 年 5 月 21 日公布)がありましたが、その概要資料に「二段階承認」「プログラム医療機器」という語は登場しません(本文を確認)[14]。改正のうち SaMD に最も近いのは「条件付き承認制度の見直し」で、その施行は公布後 1 年以内(令和 8 年 5 月 1 日施行分)とされています [14]。制度部会のとりまとめは、その見直しの理由をこう説明しています。
「現行の条件付き承認制度は、承認の取消し規定がないため……欧米の類似の仕組みと比べて、制度創設後の承認件数が少ない。」(医薬品医療機器制度部会とりまとめ(令和7年1月10日), 2026-07-11 取得) [11]
つまり「2025 年の法改正で二段階承認が法制化された」わけではありません。二段階承認は令和 5 年通知ベースの運用として続き、法改正では条件付き承認制度(医薬品・医療機器・体外診断用医薬品が対象)が早期承認の方向で見直された——ここは分けて理解しておくのが正確です。
事実 3: 審査を速める仕組みも続いていく。 革新的なプログラム医療機器を指定して優先的に審査する試行的実施は、令和 8 年 6 月 15 日付けの通知で「当該取組を継続的に実施する観点から」要件が再設定され、対象品目を随時募集する現行運用になりました [15]。指定されると優先的な相談・審査に加え、コンシェルジュ対応が受けられます。ただしこの優先審査と二段階承認通知は併用不可で、二段階承認の活用を希望する品目は優先審査の対象から除かれます [15]。制度が複数用意され、開発者が道筋を選べるようになってきた、ということです。あわせて制度部会は、クラス II に該当する SaMD の簡略・迅速な審査体制の構築や、SaMD を含む医家向け医療機器の広告のあり方の検討を「速やかに必要な措置」として挙げています [11]。
一方で、審査側にはまだ整理中の論点も残ります。業界団体(医機連)と PMDA が 2 年間かけて審査論点を検討した報告書は、市販後に自動学習する AI について「自動学習した内容に対して誰が責任をもつのか、医療機関・医師と製造販売業者との責任分界の考え方の整理が必要になる」と、未解決の課題を明記しています [10]。承認の蛇口が緩む一方で、運用のルールはまだ書かれている途中だ、という状態です。
事実 4: 米国とは 1 桁の規模差がある。 日本の AI 活用 59 品目に対し、米国 FDA の AI/ML 搭載医療機器の認可は、二次集計によれば 2025 年末で累計 1,451 件に達しています。うち放射線領域が約 76%(1,104 件)を占めます [16]。日本の系統的分析でも、集計時点で FDA 45 件に対し PMDA 12 件と、日米の承認数と評価手法(standalone〔単体〕評価か読影者を交えた評価か)の差が報告されています [17]。ただし、この 2 つの数字は単純比較できません。日本の 178 品目(AI 活用 59)は「主たる一般的名称がプログラム」の承認品目に限った数で、認証品目や有体物一体型(nodoca 等)を含みません [1]。一方 FDA の 1,451 件は 510(k)(米国の市販前届出制度)等の認可ベースで、有体物も含みます [16]。母集団が違う以上、この対比は「桁の違い」を掴む目安にとどめるべきです(なお FDA 公式リストは取得時に不具合があり、本記事の 1,451 件は二次集計であることを申し添えます [16])。

編集部の先読み — 日本の承認 AI-SaMD は、二段階承認・優先審査の運用が本格化する 2026-2028 年にかけて、承認件数の増加ペースがさらに上がるとみる。ただし、増えるのは主に画像系の「検出・鑑別支援」であって、②で見た独立点数(保険適用)がつく品目は引き続き少数にとどまる可能性が高いとみる。根拠: DASH for SaMD 2 が二段階承認・優先審査・審査部強化を政策パッケージとして明示し [12]、直近 2 年で AI 活用承認が累計の半数に達した実績があること [1]。一方、保険適用は薬機法承認とは別に中医協審議を要する構造が維持されていること [4]。
——ここまでを自院に置き換えると、半期ごとにやることは 1 つです。次の更新でこのページに戻り、①の承認件数(増えているか)、②の点数がつく品目(増えているか)、⑥の制度(二段階承認・条件付き承認見直しの施行)の 3 点だけを差分で見る。承認の数と保険点数の数は別々に動くので、両方を分けて追うのが、この分野の情報とのつき合い方だと考えています(見立て)。
おわりに——一覧は国が持っている。読み方だけ持ち帰ってください
整理します。承認 SaMD の一次データは PMDA の公開一覧にあり (178 品目・AI 活用 59 品目)、承認と保険適用は別のゲートで、点数がつくのは例外です。そして二段階承認と優先審査で、承認側の蛇口はこれから緩むとみています (見立て)。
次のアクションは 3 つ。ベンダーに「承認番号と一般的名称」を聞く習慣をつける (聞いて即答できない製品は医療機器ではない可能性が高い)。「点数はつくか」を承認とは別の問いとして検算する (④の考え方)。そして半期に一度、このページに戻ってきてください——次回更新時に、承認件数・保険適用・制度の 3 点で何が動いたかを差分でお見せします。
なお、本記事は公開資料に基づく情報提供であり、個別製品の導入判断・算定可否の最終確認は、添付文書・製造販売業者・管轄の地方厚生 (支) 局等にご確認ください。
更新履歴
- 2026-07-12: 初版公開。承認 SaMD 178 品目・AI 活用 59 品目(2025 年 12 月 31 日時点)を基準に作成。
参考文献
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 (PMDA). (2026). プログラム医療機器の承認等情報(製造販売承認品目一覧、2025年12月31日時点). https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/about-reviews/devices/0052.html(2026-07-11 取得)(承認178品目・AI活用59品目・年次推移・区分内訳の一次データ源)
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 (PMDA). プログラム医療機器(総合案内). https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/about-reviews/devices/0048.html(2026-07-11 取得)(2014年11月25日に単体プログラムが医療機器の規制対象化された経緯とSaMD定義)
- Aisu N, Miyake M, et al. (2022). Regulatory-approved deep learning/machine learning-based medical devices in Japan as of 2020: A systematic review. PLOS Digital Health, 1(1), e0000001. PMID: 36812514.(2020年時点の承認AI-SaMDを11品目と同定した系統的レビュー)
- 厚生労働省保険局医療課. 医療機器の保険適用等に関する取扱いについて(保険医療機器の区分 A1〜C2/F). https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000478353.pdf(2026-07-11 取得)(承認と保険適用が別プロセスであることを示す区分定義の一次資料)
- 中央社会保険医療協議会総会. (2022). 医療機器の保険適用について(総-1-1、令和4年9月14日). https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000989561.pdf(2026-07-11 取得)(AI機器nodocaがC2で保険適用、準用技術料305点相当と決定した原資料)
- Okiyama S, Fukuda M, et al. (2022). Examining the Use of an Artificial Intelligence Model to Diagnose Influenza: Development and Validation Study. Journal of Medical Internet Research, 24(12), e38751. PMID: 36374004.(咽頭画像AIのインフル診断精度AUC0.90等を報告、開発元関係者による研究)
- 厚生労働省. 診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号、現行版)別表第一 D296-3. https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84aa9729&dataType=0&pageNo=10(2026-07-11 取得)(nodocaの正式技術料区分D296-3 305点を定めた現行告示条文)
- 厚生労働省医薬局. (2023). プログラムの医療機器該当性に関するガイドライン(薬生機審発0331第1号・薬生監麻発0331第4号、令和5年3月31日一部改正). https://www.pmda.go.jp/files/000252002.pdf(2026-07-11 取得)(ソフトが医療機器に当たるかを寄与とリスクの2要素で判断する基準)
- 厚生労働省. (2026). 個別改定項目について(令和8年度診療報酬改定、中医協答申 令和8年2月13日). https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001655176.pdf(2026-07-10 取得)(プログラム医療機器等指導管理料に情報通信機器78点を新設した答申本文)
- 日本医療機器産業連合会 (医機連). (2025). AI活用プログラム医療機器における審査に関する検討 ― 研究結果の報告 ―(最終報告、2025年8月). https://www.jfmda.gr.jp/wp/wp-content/uploads/2025/08/AI%E6%B4%BB%E7%94%A8%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0%E5%8C%BB%E7%99%82%E6%A9%9F%E5%99%A8%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%AF%A9%E6%9F%BB%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%A4%9C%E8%A8%8EWG_%E6%9C%80%E7%B5%82%E5%A0%B1%E5%91%8A-.pdf(2026-07-11 取得)(承認申請記載・市販後変更・Adaptive AI責任分界の審査論点を医機連×PMDAで整理)
- 厚生科学審議会 医薬品医療機器制度部会. (2025). 薬機法等制度改正に関するとりまとめ(令和7年1月10日). https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001371285.pdf(2026-07-11 取得)(条件付き承認の見直しとクラスII SaMD迅速審査等を提言した立法趣旨文書)
- 厚生労働省医薬局・経済産業省. (2023). プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略2(DASH for SaMD 2、2023年9月6日). https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001142990.pdf(2026-07-11 取得)(二段階承認・一般向けSaMD・優先審査・審査部強化を束ねたSaMD振興戦略)
- 厚生労働省医薬局医療機器審査管理課. (2023). プログラム医療機器の特性を踏まえた二段階承認に係る取扱いについて(医薬機審発1116第2号、令和5年11月16日). https://www.pmda.go.jp/files/000265514.pdf(2026-07-11 取得)(二段階承認を通知ベースで運用開始、選択肢の一つと明記した課長通知)
- 厚生労働省. (2025). 令和7年の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部改正について(令和7年法律第37号). https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_58083.html(2026-07-11 取得)(条件付き承認見直し等を含む改正法。概要資料に二段階承認の語は無い)
- 厚生労働省医薬局医療機器審査管理課. (2026). プログラム医療機器等に係る優先的な審査等の試行的実施について(医薬機審発0615第1号、令和8年6月15日). https://www.pmda.go.jp/files/000281325.pdf(2026-07-11 取得)(優先審査の試行を継続的に実施する観点から要件を再設定した現行通知。二段階承認の活用希望品は対象外)
- IntuitionLabs. (2026). FDA's AI Medical Device List: Stats, Trends & Regulation. https://intuitionlabs.ai/articles/fda-ai-medical-device-tracker(2026-07-11 取得)(FDA認可AI/ML機器を累計1,451件・放射線76%と集計した二次資料、要目視確認)
- Yuba M, Iwasaki K. (2022). Systematic analysis of the test design and performance of AI/ML-based medical devices approved for triage/detection/diagnosis in the USA and Japan. Scientific Reports, 12, 16874. PMID: 36207474.(日米のAI/ML医療機器の承認数と評価手法の差を分析した系統的研究)