電子的診療情報連携体制整備加算を「設計思想」から理解する
医療情報取得加算と医療DX推進体制整備加算が消え、電子的診療情報連携体制整備加算に一本化。なぜ国は統合したのか——財政審から中医協までの設計思想と、自院の区分判定・収益試算・再届出の実務を一次資料で解説します。
執筆・監修 クリニックAIラボ 編集長(現役内科医 / 医療AI研究者)

- 公開
- 2026-07-12
- 更新
- 2026-07-12
- 引用
- PMID 0 件
はじめに——「また加算の名前が変わるのか」と思った院長へ
また医療 DX 系の加算が組み替わるのか、届出はどうなるのか——2026 年に入ってから、同業の先生方に一番聞かれる改定項目がこれです。令和 8 年度診療報酬改定 (本体は 2026 年 6 月施行) で、初診・再診の医療情報取得加算と、初診の医療DX推進体制整備加算が廃止され、電子的診療情報連携体制整備加算という 1 本の加算に再編されました。点数は初診 15/9/4 点の 3 区分と再診 2 点。しかもこの加算は「新設」扱いのため、旧加算の届出は引き継がれず、算定には新たな届出が必要です。
点数と要件だけなら、レセコンベンダーの改定案内で足ります。この記事が扱うのは、その一段下にある設計思想です。国はなぜ 3 年ごとに DX 系加算を組み替え続けるのか。なぜマイナ保険証利用率 30% が全区分共通の前提に置かれ、電子処方箋と電子カルテ情報共有サービスだけが 15 点の条件に残ったのか。2023 年の医療DX工程表から 2026 年の答申までの政府文書を縦に読むと、この加算は単発の改定項目ではなく、3 年がかりの政策の終端であり、次の改定の予告でもあることが見えてきます。
この記事では、①何が変わるか (条文と点数) → ②設計思想の縦串 → ③自院の区分判定チェックリスト → ④収益インパクト試算 (検算式つき) → ⑤届出・併算定の落とし穴 → ⑥次の改定への布石、の順でお伝えします。
何が変わるか——2 つの加算が消え、1 つの加算が生まれた
まず事実関係を条文で確認します。2026 年 2 月 13 日に中医協が答申した「個別改定項目」は、こう書いています。
医療情報取得加算及び医療 DX 推進体制整備加算を廃止し、診療録管理体制加算におけるサイバーセキュリティ対策に係る要件を見直した上で、初診料、再診料、外来診療料及び入院料加算として、電子的診療情報連携体制整備加算を新設する。(第 2 具体的な内容、印字 p.510) [1]
(編集部注: 本記事のページ番号は、PDF ビューアの通し番号ではなく資料の印字ページを指します)
正確な構図は「廃止 2 + 再編 1」です。廃止されるのは医療情報取得加算 (オンライン資格確認への初診 1 点・再診 3 月に 1 回 1 点) と医療DX推進体制整備加算 (初診時 8〜12 点・6 区分)。診療録管理体制加算そのものは残りますが、加算 1 が 140 点から 100 点、加算 2 が 100 点から 30 点へ引き下げられ、加算 3 は廃止されます。そこにあったサイバーセキュリティ対策の評価は、新加算の入院側 (A207-5) に移設されます (印字 p.516 以下) [1]。答申の「基本的な考え方」はこの 3 つの加算——診療録管理体制加算、医療情報取得加算、医療DX推進体制整備加算——をまとめて見直し対象に名指ししています [1]。つまり、3 つの加算に散らばっていた医療 DX の評価が、1 本の新加算に束ね直されたのが今回の再編です。

新しい点数 (最終告示ベース)
点数の最終形は、令和 8 年厚生労働省告示第 69 号 (別表第一 医科診療報酬点数表) で次のとおり確定しています [2]。
| 場面 | 区分番号・注 | 点数 | 算定頻度 |
|---|---|---|---|
| 初診時 | A000 注 16 イ (加算 1) | 15 点 | 月 1 回 |
| 初診時 | A000 注 16 ロ (加算 2) | 9 点 | 月 1 回 |
| 初診時 | A000 注 16 ハ (加算 3) | 4 点 | 月 1 回 |
| 再診時 | A001 注 19 | 2 点 | 月 1 回 |
| 外来診療料 | A002 注 10 | 2 点 | 月 1 回 |
| 入院初日 | A207-5 (加算 1 / 加算 2) | 160 点 / 80 点 | 入院初日 |
歯科は電子的歯科診療情報連携体制整備加算 (初診 9 点/4 点) の別建てです (本記事は以降、医科の外来を中心に扱います) [1]。
1 つ、資料を読み比べる方のための注記です。答申「個別改定項目」の改定案では初診料の新加算は注 15 と表記されていましたが [1]、最終告示では注 16 に置かれました [2] (施設基準通知も注 16 表記 [8])。答申 PDF だけを見てレセコン設定や届出書類を作ると注番号がずれるので、実務では告示・通知の注 16 系で確認してください。
施行は「6 月」——そして旧加算より点数は上がった
施行時期は、2025 年 12 月 24 日の予算大臣折衝文書が明記するとおり診療報酬本体は令和 8 年 6 月施行 (薬価は 4 月施行) です [3]。改定率は 2 年度平均 +3.09%——単年度では令和 8 年度 +2.41%、令和 9 年度 +3.77% の 2 段構えで、資料によって数字が違って見えるのは平均と単年度の違いです [3]。
旧加算との水準感も見ておきます。旧・医療情報取得加算は初診 1 点、旧・医療DX推進体制整備加算は初診で最大 12 点 (2025 年 4 月以降の 6 区分) でした [7]。新加算は初診で最大 15 点。再診側も「3 月に 1 回 1 点」から「月 1 回 2 点」へ変わり、名目の上限は上がっています。ただし後述 (③) のとおり、上位区分の要件は電子処方箋と電子カルテ情報共有サービスの実装まで踏み込んでおり、「同じ体制のまま点数だけ上がる」改定ではありません。
——ここまでを自院に置き換えると、5 月 31 日までは何も変わりません。やることは 1 つ、この新旧対応 (旧 2 加算 → 新加算・注 16・6 月施行) を 1 枚にして、受付とレセコン担当に共有しておくことです。区分がどこに落ちるかは、次の②③を読んでから判定すれば間に合います。
なぜ国は加算を 1 つにしたのか——工程表から答申までの縦串
「点数が変わった」だけを追うと、次の改定でまた振り回されます。この加算がどこから来たのかを、政府文書の時系列で 3 年分さかのぼってみます。
出発点は 2023 年 6 月 2 日、医療DX推進本部 (本部長: 内閣総理大臣) が決定した「医療DXの推進に関する工程表」です [4]。工程表は電子処方箋について「2025 年3月までに、オンライン資格確認を導入した概ねすべての医療機関・薬局に導入することを目指して必要な支援を行う」と明記しました [4]。電子カルテについても「遅くとも 2030 年には概ねすべての医療機関において必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指す」と、期限つきの目標を置いています [4]。今回の新加算の上位要件 (電子処方箋・電子カルテ情報共有サービス) は、この工程表の目標そのものです。
次の結節点が骨太方針 2025 (2025 年 6 月 13 日閣議決定) です。「医療DX工程表に基づき……政府を挙げて強力に推進する」とした上で、クラウド型の病院情報システムについて「規制的手法や財政的手法など必要なインセンティブ措置の在り方を含め、検討を進める」と書いています [5]。診療報酬の加算は、閣議決定文書の language では「財政的手法」——つまり、国が普及させたい設備投資を点数で誘導する道具として明確に位置づけられています。
そこに財政側の圧力が重なります。財政制度等審議会の資料 (2025 年 11 月 5 日) は、2026 年度改定に向けて「各セクターの経営状況に基づいた大胆かつメリハリのある対応が不可欠」としました [6]。さらに「政策的役割を終えた報酬項目については、整理・適正化をするべき」とも求めています [6]。さらに加算という仕組みそのものについて「社会環境や診療実態の変化等により、別途の評価が不要となれば、基本的な評価項目に包括化されるのが自然な対応」という原則論まで書いています [6]。オンライン資格確認は 2023 年 4 月に原則義務化され、ほぼ全施設に行き渡りました [4]。その時点で、「オンライン資格確認をしていること」への 1 点 (旧・医療情報取得加算) は「政策的役割を終えた報酬項目」の典型に見える——財政当局の目線はそう読めます (見立て)。

旧加算 3 年間の「ラチェット」が示すもの
中医協側の議論を見ると、統合前の医療DX推進体制整備加算が 3 年間でどう運用されたかに、国のやり方がはっきり出ています。中医協総会資料 (総-2-1、2025 年 7 月 23 日) によれば、この加算は 2024 年 6 月に一律 8 点で新設されました [7]。その後、同年 10 月に 3 区分 (11/10/8 点)、2025 年 4 月には 6 区分 (12/11/10/10/9/8 点) へと細分化されます [7]。区分を分ける物差しであるマイナ保険証利用率の実績要件も、最上位区分で 15% (2024 年 10 月) → 30% (2025 年 1 月) → 45% (2025 年 4 月) と引き上げられました [7]。同資料はさらに、60% (2025 年 10 月〜)・70% (2026 年 3 月〜) へ引き上げる見直し案を示しています [7]。およそ半年ごとの引き上げが 3 年間続いた形です。
一度取れた加算の要件が、据え置かれずに上がり続ける。ラチェット (逆戻りしない歯車) のようなこの運用は、加算が「恒久的な収入源」ではなく「期限つきの誘導装置」として設計されていることを示しています。同資料は電子カルテ情報共有サービスの経過措置を「令和8年5月 31 日まで延長する」とも記しており [7]、旧加算の枠組み自体が 2026 年 5 月末で一区切りになることは、この時点で輪郭が見えていました。
答申の一文に出てくる「設計思想」
そして 2026 年 2 月 13 日の答申「個別改定項目」は、見直しの理由をこう書きます。
医療 DX 関連施策の進捗状況を踏まえ、普及した関連サービスの活用を基本としつつ、更なる関連サービスの活用による質の高い医療の提供を評価する観点から、診療録管理体制加算、医療情報取得加算及び医療DX 推進体制整備加算の評価を見直す。(第 1 基本的な考え方、印字 p.510) [1]
この一文が、今回の統合の設計思想の全部だと私は読んでいます (見立て)。「普及した関連サービスの活用を基本と」する——つまり、オンライン資格確認のように行き渡った設備は、加算の対象から土台 (前提条件) へ降格させる。その上で、「更なる関連サービスの活用」——電子処方箋と電子カルテ情報共有サービスという次の未普及サービス——に点数を付け替える。体制を「整備したこと」への評価から、「使っていること」を前提に次を促す評価へ。私はこれを「整備から利活用への重心移動」と呼んでいます (見立て)。

——ここまでを自院に置き換えると、読み方は 1 つです。この加算の要件表は「今年の収入の話」であると同時に「国が次に普及させたい設備の予告リスト」でもある。要件のどこに電子処方箋と電子カルテ情報共有サービスが座っているかを見れば、次の 3 年で国がクリニックに求めてくる投資の順番が読めます。点数の増減だけでなく、要件の並びを読む——それがこの種の加算とのつき合い方だと考えています (見立て)。
自院はどの区分か——判定は「入場券 → 共通土台 → 上乗せ 2 要件」の 3 段で
区分判定は施設基準通知 (保医発 0305 第 7 号「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」第 1 の 8) を読めば、3 段構造に整理できます [8]。
第 1 段: 入場券 (全区分共通のマイナ保険証利用率 30%)。 通知の原文はこうです。
電子的診療情報連携体制整備加算を算定する月の3月前のレセプト件数ベースマイナ保険証利用率(同月におけるマイナ保険証利用者数を、同月の患者数で除した割合であって、社会保険診療報酬支払基金から報告されるものをいう。以下同じ。)が、30%以上であること。(第 1 の 8・1 の (4)) [8]
この 30% は加算 1 だけの要件ではありません。加算 2 は「1 の (1) から (8) まで」を、加算 3 も「1 の (1) から (8) まで」を包含する構造なので、30% を下回ると加算 1・2・3 のどれも算定できません [8]。判定に使う利用率は算定月の 3 月前の実績で、その月の代わりに 4 月前・5 月前 (「その前月又は前々月」) の値を使うこともできます (1 の (5)) [8]。数字は自院で計算するものではなく、社会保険診療報酬支払基金から報告される値を使います。
高い壁に見えますが、全国平均はすでに大きく超えています。社会保障審議会医療保険部会の資料 (2026 年 6 月 18 日) によれば、2026 年 4 月のマイナ保険証利用率 (マイナ保険証利用人数/レセプト件数) は全国 68.15% [10]。2025 年 12 月に旧保険証の経過措置が終了した後、利用率は大きく伸びました。ただし要件はあくまで自院単位の実績です。支払基金から報告される自院の利用率を、届出の前にまず確認してください。
第 2 段: 共通土台 (8 項目)。 告示の施設基準 (三の七 (1) のイ〜チ) [1] を、自院でチェックできる形にすると次の 8 項目です。
- オンライン請求を行っている
- 明細書を患者に無償で交付している
- オンライン資格確認 (電子資格確認) を行う体制がある
- 取得した診療情報を診察室・処置室等で医師が閲覧・活用できる
- マイナ保険証利用率 30% 以上 (前述の「入場券」)
- マイナポータルの医療情報等に基づく健康管理相談に応じる体制がある
- 医療 DX 推進体制等について院内の見やすい場所に掲示している
- 掲示事項を原則ウェブサイトに掲載している
第 3 段: 上乗せ 2 系統で区分が決まる。 差がつくのは、告示でいう「リ」(電子処方箋を発行する体制等) と「ヌ」(電磁的方法により診療情報を共有し、活用する体制 = 電子カルテ情報共有サービス等) の 2 系統だけです。加算 1 は「イからヌまでの全部」、加算 2 は「イからチまで + リ又はヌのいずれか」、加算 3 は「イからチまで」です [1][8]。つまり電子処方箋と診療情報共有の両方をやっていれば 15 点、片方なら 9 点、土台だけなら 4 点という構造です。再診 (2 点)・外来診療料 (2 点) は加算 3 と同じ「イからチまで」で算定できます [1]。

1 つ注意点があります。加算 1 の電子カルテ側の要件のうち、電子カルテ情報共有サービスの接続インターフェース要件 (通知 1 の (10) ウ) は「当面の間に限り、当該基準を満たしているものとみなす」とされています [8]。共有サービスの全国運用が始まるまでの間、この 1 項目は事実上ハードルが下がっている——逆に言えば、全国運用が始まれば「みなし」は外れうる、暫定的な状態です。
——自院に落とすと、今月の事務長との打ち合わせでやることは 2 つです。1 つ、支払基金から報告される自院のマイナ保険証利用率を確認して入場券の有無を確定させる。2 つ、上の 8 項目チェックリストを埋めて、自院が「4 点の土台」まで来ているか、リ・ヌのどちらかに手が届く位置にいるかを地図に落とす。電子処方箋を入れるかどうかの投資判断は、次の④の数字を見てからで間に合います。
自院の数字でいくらになるか——前提を開いた試算
結論から言うと、無床診療所のモデルケースで加算 1 と加算 3 の差は年間およそ 13 万円です。まず前提を開きます。ここが違えば結果も変わるので、必ず自院の実数で検算してください。
試算の前提 (すべて仮置き):
- 月間 初診 100 人 / 再診 600 人
- 加算は「月 1 回/患者」だが、簡易化のため「のべ人数 = 算定回数」とみなす (同一患者の同月再来は無視。再来が多い院では過大方向に振れます)
- 1 点 = 10 円。患者一部負担と保険給付の按分は考慮しない (総請求点数ベース)
- 点数は初診 15/9/4 点・再診 2 点 [1]
初診分 (区分でここだけ差がつく):
| 区分 | 初診点数 | 月間 (100 人) | 年間 (×12) |
|---|---|---|---|
| 加算 1 | 15 点 | 1,500 点 = 15,000 円 | 18,000 点 = 180,000 円 |
| 加算 2 | 9 点 | 900 点 = 9,000 円 | 10,800 点 = 108,000 円 |
| 加算 3 | 4 点 | 400 点 = 4,000 円 | 4,800 点 = 48,000 円 |
再診分 (区分によらず一律 2 点): 600 人 × 2 点 × 12 か月 = 14,400 点 = 年 144,000 円。
合計すると、加算 1 = 年 324,000 円、加算 2 = 252,000 円、加算 3 = 192,000 円。リ・ヌ 2 要件の充足で動くのは初診分の年 132,000 円 (= 180,000 − 48,000 円) です。検算式は単純で、「自院の月間初診数 × (15 − 4) 点 × 12 × 10 円」が自院の加算 1 と加算 3 の年間差になります。月初診 50 人なら 6.6 万円、200 人なら 26.4 万円です。

コスト側——「年 13 万円」で電子処方箋を入れるのか
加算 1 に届くための追加投資は、主に電子処方箋 (リ) と電子カルテ情報共有サービス対応 (ヌ) です。導入・保守の費用はレセコン・電子カルテのベンダーと契約形態によって大きく異なるため、ここに一般化した金額は書きません。見積を取るときは数字を鵜呑みにせず、必ず初期費・月額保守・HPKI カード (医療従事者向け電子署名用の IC カード) 等の運用費に分解してもらってください。ここでは判断の枠組みだけ示します。
- 加算だけで回収を考えるなら、比較すべきは「初診分の年間差 (上の検算式)」と「導入初期費の償却 + 月額保守の年額」
- 月間初診 100 人の院でも年 13.2 万円 (加算 1 と 3 の差)。月額保守が 1 万円を超える構成なら、加算単体では回収できない計算になります
- したがって電子処方箋投資は「加算で元を取る」話ではなく、②で見た国の設計思想——次の改定でどちらの要件が標準側に降りてくるか——と、院の業務効率 (処方箋の紙運用コスト) を合わせた判断になります
現状のデータも判断材料になります。電子処方箋推進会議の資料 (2025 年 9 月 29 日) によれば、電子処方箋の運用を開始済みの医科診療所は 22.1% (2025 年 9 月 21 日現在)。一方で薬局は 85.5% が運用済みです [9]。発行側 (診療所) が 2 割台、受け側 (薬局) はほぼ完備という非対称の中で、加算 1 (15 点) は「先に動いた 2 割の診療所」に厚く配点する設計になっている——裏を返せば、大半の診療所は施行日時点で加算 1 を取れない構造です。慌てて 6 月 1 日に間に合わせる必要はなく、加算 2 (9 点) を取りながら判断する時間はあります。
——ここまでを自院に置き換えると、電卓を叩く順番は 3 つです。1 つ、自院の月間初診数で初診分の年間差を出す (検算式は上記)。2 つ、ベンダーから電子処方箋の見積を初期費・月額・運用費に分解して取る。3 つ、差額がマイナスでも、②の設計思想を踏まえて「いずれ標準要件側に降りてくる投資を先にやるか、要件になってからやるか」を院の方針として決める。数字と方針を分けて考えると、ベンダーの営業トークに流されません。
実務の落とし穴——再届出・二者択一・「6 月施行」
制度の中身が分かっても、手続きでつまずくと算定は 1 か月単位で漏れます。事務長と共有しておきたい落とし穴を、優先度の高い順に並べます。
落とし穴 1: 旧加算の届出は引き継がれない (要再届出)。 施設基準通知の経過措置 (第 4) は、既存項目の継続算定なら再届出不要としています [8]。しかし令和 8 年度改定で「新設された又は施設基準が創設された」項目は、「令和8年6月1日以降の算定に当たり届出を行う必要がある」と定められています [8]。その表 1 には、電子的診療情報連携体制整備加算 (初診料・再診料・外来診療料の各加算) が明記されています [8]。旧・医療DX推進体制整備加算の届出をしていても、この加算は新設扱いなので届出ゼロからのスタートです (旧・医療情報取得加算はそもそも届出不要の加算でした)。届出様式は外来が様式 1 の 6、入院 (A207-5) が様式 18 の 4 [8]。6 月 1 日から算定するつもりで届出を忘れていた——が最も起きやすい事故です。
落とし穴 2: 利用率 30% は「届出項目」ではなく「常時充足すべき基準」。 通知は、マイナ保険証利用率 (1 の (4)) とマイナポータル相談体制 (1 の (6)) について「当該基準を満たしていればよく、特に地方厚生(支)局長への届出を行う必要はない」としています [8]。届出書に書かない = 審査されないではなく、算定月ごとに 3 月前実績で満たし続ける必要がある基準です。利用率が 30% を挟んで上下する院は、支払基金からの報告値を毎月確認する運用を決めておくのが安全です。
落とし穴 3: 再診では明細書発行体制等加算との二者択一。 答申の条文は両方向から併算定不可を明記しています。
注 19 …電子的診療情報連携体制整備加算として、月に1回に限り2点を所定点数に加算する。この場合において、注 11 に規定する明細書発行体制等加算は別に算定できない。(A001 再診料、印字 p.511) [1]
再診時に取れるのは「明細書発行体制等加算 1 点」か「この加算 2 点」のどちらか一方。どちらも月 1 回算定なので、同一患者では月 2 点側が大きくなりますが、レセコンの算定設定をどちらに寄せるかは 6 月 1 日までに決めて設定変更まで済ませておく必要があります。
落とし穴 4: 「4 月改定」ではない。 令和 8 年度改定は薬価が 2026 年 4 月施行、診療報酬本体は 6 月施行です [3]。旧加算 (医療情報取得加算・医療DX推進体制整備加算) は 5 月 31 日まで従来どおり算定し、6 月 1 日から新加算に切り替わります。4 月に切り替わる前提でレセコン設定や院内掲示を変えると、4・5 月分の算定を誤ります。
落とし穴 5: 加算 1 の「みなし」は暫定。 ③で触れたとおり、電子カルテ情報共有サービスの接続要件 (1 の (10) ウ) は「当面の間」みなし充足です [8]。通知は「国等が全国で電子カルテ情報共有サービスの運用を開始した場合には、速やかに導入するように努めること」と続けており [8]、みなしで加算 1 を取った院は、全国運用開始後に実装義務が現実化します。加算 1 で届け出るなら、電子カルテベンダーに共有サービス対応の実装時期を確認しておくべきです。

——実務に移すと、事務長への依頼は 1 枚のメモで済みます。「①様式 1 の 6 の届出準備、②支払基金報告の利用率を毎月確認する係を決める、③再診はどちらの加算に寄せるかを決めてレセコン設定、④切替は 6 月 1 日 (4 月ではない)」。この 4 行を 5 月中に終えられれば、この改定の実務は落とせません。
次の改定への布石——要件表は「予告リスト」として読む
最後に、この加算を 2028 年改定の視点で読み直します。ここは事実と見立てを分けて書きます。
事実 1: 要件は据え置かれない実績がある。 ②で見たとおり、前身の医療DX推進体制整備加算では、マイナ保険証利用率の実績要件 (最上位区分) が 2024 年 10 月の 15% から段階的に引き上げられました [7]。2025 年 7 月の中医協資料では、70% (2026 年 3 月〜) までの引き上げ案が示されています [7]。新加算の 30% (全区分共通) も、同じ運用に乗る前提で読むのが安全です。
事実 2: 電子処方箋の国の目標は「全医療機関」側に張り直された。 工程表の旧目標 (2025 年 3 月までに概ねすべての医療機関・薬局) は未達に終わり、医科診療所の運用開始は 22.1% (2025 年 9 月) にとどまりました [4][9]。中医協資料は新たな目標として「患者の医療情報を共有するための電子カルテを整備するすべての医療機関への導入を目指す」方向を示しています [7]。国は目標を取り下げたのではなく、電子カルテ整備と一体化させて張り直しました。
事実 3: 「政策的役割を終えた加算」は実際に整理された。 今回、診療録管理体制加算は加算 1 が 140 点から 100 点、加算 2 が 100 点から 30 点に引き下げられ、加算 3 は廃止されました (サイバーセキュリティ対策の評価は新加算の入院側 A207-5 に移設) [1]。財政審が求めた「政策的役割を終えた報酬項目については、整理・適正化をするべき」[6] が、同じ改定の中で実行された実例です。オンライン資格確認への 1 点 (旧・医療情報取得加算) が消えたのと同じ理屈で、普及が進んだ要件は次も「土台」側へ降ろされるとみています (見立て)。
編集部の先読み — 2028 年改定では、現在の加算 2 (リ又はヌ) の水準が事実上の標準側へ寄るとみる。電子処方箋または電子カルテ情報共有サービスのどちらも持たない「土台だけ」の区分は、縮小 (点数引き下げまたは廃止) される可能性が高いとみる。あわせて入場券のマイナ保険証利用率 30% も引き上げ方向で見直されるとみる。根拠: 前身加算の利用率要件が 3 年間で 15% から 70% (見直し案) まで引き上げられ続けた経緯 [7]、および工程表が電子カルテ導入の期限を「遅くとも 2030 年」と政府決定として固定していること [4]。
もう 1 つ、静かな布石が加算 1 の要件の中にあります。施設基準通知は、電子カルテ側の要件を満たす方法の 1 つとして「厚生労働省が認証する電子カルテ製品であること」を挙げました [8]。骨太方針 2025 は標準型電子カルテについて「本格運用の具体的内容を 2025 年度中に示す」としています [5]。「国が認証した電子カルテかどうか」が施設基準に登場したのは、電子カルテの選定基準そのものが国の認証制度に接続され始めたということです。次にレセコン・電子カルテを更新するとき、この認証の有無が点数に直結する場面は増えていくとみています (見立て)。
——ここまでを自院に置き換えると、次の改定を待たずに今やっておくことは 1 つです。院内の設備投資計画 (電子カルテ更新・電子処方箋・レセコン) に、「国の要件表のどこに座っている投資か」という列を 1 本足しておく。加算の点数は 2 年で書き換わりますが、工程表の 2030 年という期限と「整備から利活用へ」の方向は据え置かれたままです。方向が固定されているなら、投資の順番は自院の更新サイクルに合わせて自分で決められます。
おわりに——点数は 2 年で変わる、方向は変わらない
整理します。旧 2 加算は廃止され、新加算は「マイナ保険証利用率 30% の入場券 + 共通土台 8 項目」の上に、電子処方箋と診療情報共有の充足数で 15/9/4 点が決まる構造になりました。旧届出は引き継がれないので、算定するなら様式 1 の 6 の届出からです。
次のアクションは 3 つ。支払基金から報告される自院の利用率を確認する。③のチェックリストで自院の現在地を確定させる。電子処方箋の投資は④の検算式に自院の数字を入れてから決める。
本記事の点数・要件は改定のたびに書き換わる部分です。クリニックAIラボでは制度の一次資料に当たって本記事を更新し続けます。数字が変わっても読み方 (②と⑥) が使い回せるように書いたつもりです。
なお、本記事は令和 8 年度改定の公表資料に基づく情報提供です。個別の算定可否・届出要否の最終確認は、管轄の地方厚生 (支) 局および支払基金にご照会ください。疑義解釈は今後の事務連絡で変わりうる部分があります。
参考文献
- 厚生労働省. (2026). 個別改定項目について (令和8年度診療報酬改定、中医協答申 2026年2月13日). https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001655176.pdf(2026-07-10 取得)(新加算の新設・旧2加算の廃止・施設基準三の七を定めた答申本文。該当は印字p.510-518)
- 厚生労働省. (2026). 診療報酬の算定方法の一部を改正する告示 (令和8年厚生労働省告示第69号) 別表第一 医科診療報酬点数表. https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001686842.pdf(2026-07-10 取得)(点数と注番号の最終確定形。A000注16・A001注19・A002注10)
- 厚生労働省. (2025). 令和8年度診療報酬改定について (12月24日の予算大臣折衝を踏まえた改定率). https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001620952.pdf(2026-07-10 取得)(改定率2年度平均+3.09%と本体6月・薬価4月施行の一次ソース)
- 医療DX推進本部. (2023). 医療DXの推進に関する工程表 (令和5年6月2日決定). https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/iryou_dx_suishin/pdf/suisin_kouteihyou.pdf(2026-07-10 取得)(電子処方箋の普及目標と電子カルテ「遅くとも2030年」目標を定めた政府工程表)
- 内閣府. (2025). 経済財政運営と改革の基本方針2025 (令和7年6月13日閣議決定). https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2025/2025_basicpolicies_ja.pdf(2026-07-10 取得)(医療DX推進と「財政的手法」によるインセンティブ検討を明記した閣議決定)
- 財政制度等審議会 財政制度分科会. (2025). 財政制度分科会資料 社会保障 (令和7年11月5日). https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20251105/03.pdf(2026-07-10 取得)(メリハリある対応と「政策的役割を終えた報酬項目」の整理を求めた財政当局資料)
- 中央社会保険医療協議会. (2025). 医療DX推進体制整備加算等の要件の見直しについて (総-2-1、令和7年7月23日). https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001521280.pdf(2026-07-10 取得)(旧加算の点数変遷・マイナ保険証利用率要件の推移・電子処方箋等の普及データ)
- 厚生労働省. (2026). 基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて (保医発0305第7号、令和8年3月5日). https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001713893.pdf(2026-07-10 取得)(マイナ保険証利用率30%要件・届出様式1の6・経過措置と再届出を定めた通知)
- 厚生労働省 電子処方箋サービス推進室. (2025). 電子処方箋の普及・活用拡大に向けた対応状況 (第5回電子処方箋推進会議 資料1、令和7年9月29日). https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001569995.pdf(2026-07-10 取得)(医科診療所の電子処方箋運用開始率22.1%等、導入状況の一次データ)
- 厚生労働省保険局. (2026). マイナ保険証の円滑な利用について (第212回社会保障審議会医療保険部会 資料3、令和8年6月18日). https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001712851.pdf(2026-07-10 取得)(マイナ保険証利用率68.15% (2026年4月・レセプト件数ベース) の一次ソース)