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「病院の9割が赤字」は本当か — 数字の定義と自院の立ち位置

「病院の9割が赤字」——見出しの89.2%は、7年連続で調査に答えた65病院の追跡値です。年度比較1,498病院では74.6%。四病協・医療経済実態調査・WAM・帝国データバンクの4統計を分解し、自院の立ち位置を測る検算フレームをお伝えします。

執筆・監修 クリニックAIラボ 編集長現役内科医 / 医療AI研究者

夜の病院事務室で理事長と事務部長が決算書類を挟んで向き合い、窓の外に病棟と里山の夜景が見えるフラットイラスト
公開
2026-08-02
更新
2026-08-02
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はじめに——「おたくはどうですか」と聞けないまま、見出しだけが独り歩きしている

地域の病院団体の会合や医師会の集まりで、経営の話は意外なほど出ません。「おたくはどうですか」とはお互いに聞きづらい——私は病院経営の当事者ではありませんが、医師として病院の中で働いていて、自院の決算が話題になった記憶はほとんどありません。その沈黙の上を、「病院の9割が赤字」という見出しだけが独り歩きしているように思います。

出どころははっきりしています。四病院団体協議会が 2025年11月26日に公表した病院経営定期調査で、7年連続で回答した 65病院の 89.2% が本業赤字、年度損益を比較できた 1,498病院でも 74.6% が本業赤字でした [1]。なお、全国の病院数は 7,998施設と、8,000 を下回っています [2]。

ただ、数字は分解すれば怖くありません。「9割」が何の赤字で、誰を数えた値なのか——定義と母集団さえ分かれば、自院の立ち位置は自分の決算書で測れます。この記事では、①「医業赤字」を病棟の言葉に翻訳し、②主要 4統計を同じ物差しに並べ直し、③自院の立ち位置を測る 3つの率の検算フレームを作り、④改定・補助金の実額を確かめた上で費用構造に効く投資の考え方までお伝えします。

「9割赤字」は何の赤字か — 医業利益と経常利益を病棟の言葉にする

結論から言うと、「病院の9割が赤字」という見出しは嘘ではありませんが、そのまま自院に当てはめてよい数字でもありません。正確にはこうです。調査を実施したのは四病院団体協議会 (日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会) です。その 2025年度 病院経営定期調査のうち、2018年度から 2024年度まで 7年連続で回答が揃った 65病院の追跡調査では、本業の診療が赤字 (医業利益ベースの赤字) の病院が 89.2% でした [1]。そして追跡群に限らない年度比較対象の 1,498病院 (有効回答 1,629病院のうち、2023・2024年度の損益を比較できた病院) で見ても、医業赤字は 74.6% です [1]。「9割」は追跡群の値、「4分の3」が年度比較の値——どちらにしても、黒字の病院のほうが例外になったことは動きません。

この数字を読み解く鍵は、「医業利益」と「経常利益」という利益の段の違いです。病院の決算書では、利益は一枚岩ではなく、二つの段に分かれています。

一つめの段が 医業利益 です。入院と外来の診療で得た収益から、職員の給与費、医薬品・診療材料費、委託費、水道光熱費といった、診療を回すための費用を引いた残り。言い換えると、外来と病棟でどれだけ働いたか、その働きだけで職員の給料と薬剤・材料代を払いきれているか を示す数字です。ここが赤字なら、診療という本業そのものが持ち出しになっています。

二つめの段が 経常利益 です。医業利益に、本業の外側にあるお金——国や自治体からの補助金、駐車場や売店の収入、預金利息——を足し、借入金の支払利息などを引いた後の数字。補助金や駐車場収入まで総動員して、それでも足りているか を示します。

病院の決算の利益の段を示す概念図。上の箱が医業利益 (本業の診療だけの収支)、下の箱が経常利益 (補助金・駐車場収入・利息を含む) として描かれている
図1: 医業利益と経常利益 — 二つの箱 (出典: 四病院団体協議会 2025年度 病院経営定期調査 [1] を基に編集部作成)

四病協の調査は、この二つの段を分けて数えています。7年連続追跡の 65病院では、2024年度に医業赤字 89.2%・経常赤字 81.5%。年度比較の 1,498病院では、医業赤字 74.6%・経常赤字 65.0% [1]。原文はこう記しています。

「2018年度〜2024年度の7年連続年度比較について追跡調査をみると、2024年度は医業利益、経常利益ともに赤字病院割合が最大となり、医業利益では89.2%、経常利益では81.5%を占めていた」(四病院団体協議会 2025年度 病院経営定期調査 概要版 p.6、2026-08-01 取得) [1]

病棟の風景に翻訳するなら、こうなります。調査に答えた病院を 10 に区切ると、そのうち 7 つ (追跡群では 9 つ) は、外来と病棟でどれだけ働いても、その働きだけでは職員の給料と薬剤・材料代を払いきれていない。そして 10 のうち 6 つ強は、補助金や駐車場収入まで足してもなお足りていない [1]。「隣の病院は儲かっているのだろう」という前提は、統計の上ではもう成り立ちません。

なお、報道の見出しが「9割」と「7割」の間で揺れるのは、どちらかが間違っているからではなく、追跡群 (n=65。以下、n は集計対象の病院数) と年度比較 (n=1,498) のどちらを引いているかの違い です。65病院は 7年間回答し続けた病院——全国約 8,000病院 [2] の 1% 弱——であり、定点として費用構造の変化を追うには適していますが、「全国の病院の 9割」と読み替えるには狭い。本記事では以降、原則として年度比較ベース (n=1,498) の数字を使い、追跡群の数字には (n=65) と明示します。なお四病協調査は会員への任意回答 (回答率 33.6%) であり、全数調査でも無作為抽出でもありません。ここに出てくる数字が「調査に回答した病院の姿」である点は、追跡群・全体を問わず共通の限界です。

——自院に引きつけるなら、まず決算書の「医業利益」の行だけを見てください。ここが赤字なら、補助金や本業外の話をする前に、本業の話から始めることになります。

4つの統計を突き合わせる — 89.2%・74.6%・58.3%・▲7.3%は同じ話か

病院経営の悪化を伝える数字は、報道によって 89.2% だったり 58.3% だったり ▲7.3% だったりします。数字がバラバラに見えるのは、調査ごとに「誰を数えているか (母集団)」と「どの段の利益を見ているか」が違う からです。主要な 4つの統計を、同じ物差しの上に並べ直してみます。

1つめ、四病協の病院経営定期調査 (2025年11月26日公表)。4団体の会員 5,149病院にアンケートを配り、回答 1,730病院 (回答率 33.6%)、うち有効回答 1,629病院——全国の病院約 8,000 [2] の 2割にあたります。年度比較 (n=1,498、平均 271床) では、2024年度の医業利益率 −7.5%、経常利益率 −3.3%。100床あたりの実額では、医業利益 −1億8,043万円、経常利益 −8,102万円 でした [1]。特徴は、会員病院の生の決算を賃上げ・費用構造まで踏み込んで毎年定点で追うこと。前段で見た赤字病院割合 (医業 74.6%・経常 65.0%) もこの調査の値です [1]。

2つめ、中医協の医療経済実態調査 (第25回、同じく 2025年11月26日公表)。診療報酬改定の基礎資料になる公式調査で、一般病院 (全体) の損益率は 2024年度 (令和6年度) ▲7.3% (中央値 ▲3.9%) [3]。損益率は損益差額を医業・介護収益で割ったもので、介護収益を含む点が四病協の医業利益率と異なります [3]。四病協の医業利益率 −7.5% とほぼ同じ水準が、別系統の公式調査でも出ています。損益率という統計の癖——定義を知らずに読むと事故になること——は、診療所版を扱った「診療所の『損益差額』をどう読むか」で詳しく書きました。

3つめ、福祉医療機構 (WAM) のリサーチレポート。医療機関への政策融資を担う機構が、融資先の決算 (事業報告書、n=2,391) を集計したものです。2024年度の一般病院は経常利益率 ▲1.3%、経常赤字の病院割合は 58.3% に達しました [4] (前年の 2023年度版では 51.0% [5])。急性期一般入院料1を算定する病院に絞ると (2か年度同一、n=293)、赤字割合は 64.5% [4]。2023年度版の時点で既に「2013年度以降の最低値」でしたが [5]、それをさらに更新した形です。融資先という母集団の性質上、比較的体力のある病院が多く含まれると考えられます (推定)。そのデータで、この水準です。

4つめ、民間の信用調査と特別集計 (性質の近い 2 つをまとめて紹介します)。帝国データバンク (以下 TDB) の全国「病院経営」動向調査 (2024年度決算) では、民間病院約 900法人の営業損益の赤字が 61.0% と報告されています (同社の医療機関倒産動向調査 [6] 内で引用)。また厚労省が医療法人経営情報データベース (MCDB) の切り口で行った特別集計として、2024年度に医業利益率が赤字の病院割合は全体 67.2%・一般病院 72.7% と報じられています (日本医事新報 2025年11月28日の報道による。一次集計表は本稿執筆時点で未公表) [7]。

2018年度から2024年度の医業赤字病院割合の推移を示す折れ線グラフ。67.7%から2020年度に87.7%へ急増し、2022年度と2024年度が89.2%で最大。年度比較1,498病院の74.6%も比較点として示す
図2: 医業赤字病院割合の推移 2018→2024 (7年連続追跡 n=65。2024年度は年度比較1,498病院でも74.6%) (出典: [1] p.7・p.14 を基に編集部作成)

4つを並べると、数字の違いは矛盾ではなく層構造だと分かります。本業 (医業利益) の段では、赤字はおよそ 6割強から 7割台 (TDB 営業赤字 61.0%・MCDB 特別集計 67.2〜72.7%・四病協 年度比較 74.6%)、7年追跡群では 9割補助金等まで含めた経常の段では 5〜6割台。母集団が会員アンケートでも、公式調査でも、融資先決算でも、民間信用調査でも、指している方向は同じです。

四病協・医療経済実態調査・WAM・帝国データバンクの4統計を、母集団と利益の段と代表値で整理した対応表
図3: 4つの統計は誰を数えているか (出典: [1][3][4][6] を基に編集部作成)

では、なぜここまで悪化したのか。四病協調査の年度比較が構造を端的に示しています。2023年度から 2024年度にかけて、医業収益は +2.8% 伸びました。しかし医業費用は +3.5% 伸びた。増収です。それでも減益——直近2年度の病院経営は「増収減益」が続いています [1]。費用増の中身を見ると、増加分の 72.5% を給与費と材料費が占めます [1]。

  • 給与費: +3.2%
  • 材料費: +3.5% (うち診療材料費 +5.4%)
  • 水道光熱費: +5.2% (うちガス料金 +11.8%)

人件費と物価の上昇が、そのまま費用の伸びになっています [1]。

収益側にも構造的な弱さがあります。同調査の追跡データ (n=240) では、2025年6月の延患者数はコロナ前 (2019年6月) と比べて 入院 92.0%・外来 94.1%。患者数は戻っていません。それでも収益が伸びているのは、入院単価 120.8%・外来単価 119.8% と、単価の上昇で患者減を埋めてきた からです [1]。単価上昇には診療報酬改定や重症度構成の変化が寄与したとみられます (筆者の見立て)。患者は減り、単価で保ち、費用がそれを上回る——これが「増収減益で 7割が本業赤字」の中身です。

医療材料費だけを取り出すと、福祉医療機構 (WAM) のデータでは 2020年度から 2024年度の 5年間で +18.3% (一般病院 n=755) [4]。診療報酬という公定価格の下では、この上昇を自院の判断で価格転嫁することができません。ここが、同じコスト高に直面しても値上げで対応できる一般企業との大きな違いです。

——自院がどの統計に近いかを気にする必要はありません。4つとも同じ方向を指している以上、次に見るべきは全国値ではなく、自院の 3つの率です。次の章で、その測り方に進みます。

自院の決算書で「立ち位置」を測る — 3つの率と赤字の分解

統計の定義が分かれば、自院の立ち位置は自分で測れます。用意するのは直近の決算書 (損益計算書) 一式だけです。手順は 3 ステップ——3つの率を出し、ベンチマークに重ね、差の原因を収益側と費用側に分解する

ステップ 1: 3つの率を出す。 決算書から次の 3 つを計算します (事務部門に頼めば 10 分の仕事です)。

  1. 医業利益率 = (医業収益 − 医業費用) ÷ 医業収益 —— 本業の診療だけで回っているか
  2. 経常利益率 = 経常利益 ÷ 医業収益 —— 補助金・本業外収支まで含めた最終的な体力
  3. 二つの差 (経常利益率 − 医業利益率) —— 本業の赤字を、本業の外のお金がどれだけ埋めているか

3つめの「差」が本記事の提案する見方です。医業利益率と経常利益率が離れているほど、経営が補助金や本業外収入に支えられている——つまり、補助金の増減という自院でコントロールできない変数に体力が左右されやすい ことを意味します。

決算書から医業利益率・経常利益率・二つの差を計算する手順を示すツリー図
図4: 自院の立ち位置を測る計算ツリー (編集部作成)

試しに、仮の数字で通してみます (架空の 200床病院。医業収益 48億円・医業費用 51.6億円・経常利益 −1.6億円)。

  • ①医業利益率 = (48 − 51.6) ÷ 48 = −7.5%
  • ②経常利益率 = −1.6 ÷ 48 = −3.3%
  • ③差 = +4.2 ポイント (率どうしの差なので、単位は % でなく「ポイント」で表します)

100床あたりに直すと医業利益 −1.8億円・経常利益 −0.8億円で、次に見る回答病院の平均像とちょうど重なるスケールです (筆者計算)。「本業の赤字のかなりの部分を本業外で埋めている、2024年度の平均像に近い病院」と読めます。

ステップ 2: ベンチマークに重ねる。 物差しは前段の四病協調査 (年度比較) の平均が提供してくれます。2024年度・100床あたりで見ると、回答病院の平均像はこうです [1]。

  • 本業 (医業利益) で 1億8,043万円の赤字 (医業利益率 −7.5%)
  • 補助金 (運営・施設等) が 7,199万円 入る——ただし前年の 1億224万円から 3割減った
  • 駐車場・売店収入や利息など、補助金以外の本業外収支の差引が +2,742万円 (筆者計算: −18,043 + 7,199 + 2,742 = −8,102 の関係から逆算)
  • 本業外の収支まで含めた経常利益は、それでも 8,102万円の赤字 (経常利益率 −3.3%)

つまり「本業で約 1.8億円の穴を開け、補助金と本業外収支をあわせた約 9,900万円 (穴の約 55%、筆者計算) で埋め、それでも 8千万円強が残る」のが 2024年度の平均像です。自院の 3つの率がこの平均より良ければ相対的に上位、悪ければ構造対策の優先度が高い。WAM の経常赤字割合 58.3% [4] を使えば、「経常黒字であるだけで、すでに半数より上」という位置づけも分かります。

ステップ 3: 差の原因を分解する。 平均より悪い場合、原因は収益側か費用側 (またはその両方) にあります。前段の四病協データが分解の物差しです。自院の数字を、次の形で並べてみてください。

  • 自院の延べ患者数 (コロナ前 2019年同月比): ____% — 回答病院の目安: 入院 92.0%・外来 94.1% [1]
  • 自院の入院・外来単価 (同): ____% — 目安: 入院 120.8%・外来 119.8% [1]
  • 自院の給与費・材料費の伸び (前年度比): ____% — 目安: 給与費 +3.2%・材料費 +3.5% (費用増の 72.5% がこの2つ) [1]

同じ形に並べれば、自院の赤字が「患者が戻らない型」なのか「費用が伸びる型」なのか、四病協調査の回答病院の平均と同じ型なのか が見えてきます。この分解が、次のブロックで扱う投資判断の出発点になります。

病院の出口は二種類ある — 倒産13件と「静かな廃業」15件

立ち位置の測定には、もう一つの物差しがあります。出口の統計 です。

帝国データバンクの集計では、2025年の医療機関の倒産は 66件 (過去最多。病院 13・診療所 28・歯科医院 25)。負債総額は 242億1,900万円で、倒産原因の 72.7% が収入の減少でした [6]。一方、同じ年の休廃業・解散は 823件 (病院 15・診療所 661・歯科 147) と、こちらも過去最多。倒産の 12.5倍 です [6]。ただし、この倍率の大部分は診療所 (661件) が作っています。病院に限れば、倒産 13件に対して休廃業・解散 15件——ほぼ拮抗です [6]。

この二つは、性質が違います。倒産は債務を抱えて事業が立ち行かなくなる「結果」。休廃業・解散は、負債整理を伴わない形での退出で、後継者不在によるものも、体力があるうちの判断によるものも、同じ区分に含まれます (同調査では理由別の内訳は示されていません [6])。本記事ではこの 823件を「静かな廃業」と呼んでいます (調査上の区分は「休廃業・解散」であり、この呼び方は編集部によるものです)。ニュースになるのは倒産ですが、医療機関全体で見れば、地域から退出する経路の大半は、ニュースにならない静かな側です。

2025年の医療機関の倒産66件と休廃業・解散823件を面積で対比した図。内訳として病院は倒産13件・休廃業解散15件とほぼ拮抗している
図5: 倒産66件と「静かな廃業」823件 (2025年。病院に限れば倒産13・休廃業15でほぼ拮抗。「静かな廃業」は編集部の呼称で、調査上の区分は「休廃業・解散」) (出典: 帝国データバンク [6] を基に編集部作成)

経営の立ち位置測定に出口の統計を重ねる理由は一つです。承継 (M&A) も機能転換も、経常赤字が続いて資金繰りの局面に入ってからでは条件が悪くなり、選択肢は体力が残っているほど多い (見立て)。3つの率で自院の現在地を測り、悪化の型を分解し、必要なら「続け方を変える」判断を早めに検討する。診療所では「静かな廃業」が圧倒的多数ですが、病院の件数はまだ小さく、どちらの経路も他人事ではない、という段階です。体力があるうちにしか選択肢が存在しない構造は、病院でも診療所でも共通とみます (見立て)。

改定と補助金では埋まらない — 費用構造に効く投資の検算

「国が何とかしてくれるのを待つ」という選択肢がどの程度現実的なのか、支援側の実額を確かめておきます。

緊急補助の実額。 2025年11月28日に閣議決定された補正予算 (医療・介護等支援パッケージ 1兆3,649億円) には、病院向けの 1床あたり交付金が盛り込まれました [8]。救急対応病院には受入件数に応じて 1施設 500万円〜2億円の加算が付きます [8]。一方、病院 6団体は 2025年9月10日、1床あたり 50〜100万円の緊急支援を要望していました。補填不足を約 1兆3,000億円と見積もり、病院病床約 148万床で割った水準です (要望書原本は未公開のため、医療経営専門メディア GemMed の 2025年9月11日の報道による) [9]。両者を並べます。

項目金額
実際の措置: 基礎的支援 (1床あたり)19.5万円 (賃金分 8.4万円 + 物価分 11.1万円) [8]
病院6団体の要望 (1床あたり)50〜100万円 [9]
措置額 ÷ 要望額約 2〜4割 (筆者計算)
100床病院の基礎的支援額1,950万円 = 単年度の平均医業赤字 1億8,043万円 [1] の約 1割 (筆者計算)

緊急止血としては意味がありますが、赤字構造そのものを反転させる規模とは言いにくい額です (見立て)。

診療報酬改定の実額。 2025年12月24日の予算大臣折衝で、2026年度 (令和8年度) 改定は本体 +3.09% (令和8・9年度の2年度平均。令和8年度 +2.41%・令和9年度 +3.77%) と決まりました [10]。本体 3%超は 1996年度 (+3.4%) 以来、「30年ぶり」と報じられた水準です [11]。薬価 ▲0.86%・材料 ▲0.01% を合わせると、全体では +2.22% になります (筆者計算: 3.09 − 0.87) [10][11]。

病院経営の視点で重要なのは内訳です [10]。

  • 賃上げ対応: +1.70%
  • 物価対応: +0.76%
  • 入院時の食費・光熱水費: +0.09%
  • 緊急対応: +0.44%
  • 効率化・適正化: ▲0.15%
  • その他の改定分: +0.25% (うち医科 +0.28%)
  • 合計: +3.09%

つまり大半は、既に発生している賃上げ・物価という「支払い増」の裏打ちに充てられています。純粋な引き上げ分にあたる「その他の改定分」は +0.25% にとどまります [10]。配分は病院に傾斜しています——物価対応の特別項目は病院 +0.49% vs 医科診療所 +0.10%、緊急対応分は病院 +0.40% vs 医科診療所 +0.02% [10]。それでも「増収減益」の構造——費用が収益の伸びを上回る——を反転させる規模かどうかは、各院の費用の伸び次第です。

そして、同じパッケージにはもう一つの項目があります。 賃上げ・物価支援 5,341億円と並んで、病床数の適正化に 3,490億円。病床を削減する病院に 1床あたり 410.4万円 (休床は 205.2万円) を交付し、対象は「人口減少等により不要となると推定される、約11万床」と明記されています [8]。資料はこう記します。

「2年後の新たな地域医療構想に向けて、不可逆的な措置を講じつつ、調査を踏まえて次の地域医療構想までに削減を図る」(厚生労働省「令和7年度補正予算案の閣議決定について」中医協 総-2 p.9、2026-08-01 取得) [8]

1床あたりの単価で見ると、稼働している病床への基礎的支援 (賃上げ・物価対応) が 19.5万円、減らす病床への交付が 410.4万円——約 21倍 の開きがあります (筆者計算)。ただし総額の配分は逆で、賃上げ・物価支援 5,341億円が病床数適正化 3,490億円を上回ります [8] (なお 5,341億円は診療所・歯科・薬局・訪問看護も含む支援全体の枠です [8])。単価の差が生じるのは、前者が全病床 (約145万床 [2]) を対象とする継続運営への支援であるのに対し、後者は約11万床を対象とする「不可逆的な措置」への一回性の補償だからで、両者は単純に比較できません。その上で、恒常的な赤字を埋める仕組み (診療報酬) とは別枠で、病床を減らす選択にこれだけ厚い一時金が用意されたこと自体は、政策の方向感を読む材料になる、と私は読んでいます (見立て)。

補正予算の1床あたり単価 (基礎的支援19.5万円と削減交付410.4万円) と総額配分 (支援5,341億円と病床数適正化3,490億円) を左右2パネルで並べた図
図6: 補正予算の二つの見方 — 1床あたり単価と総額配分 (出典: 中医協 総-2 [8] を基に編集部作成。病床削減を推奨する図ではありません)

ここまでを束ねると、意思決定の前提はこうなります。収益側 (改定・補助金) は、コスト増の裏打ちが中心で、利益構造の反転は見込みにくい。とすれば、自院でコントロールできる主戦場は費用側にある。 そして費用増の 72.5% は給与費と材料費でした [1]。

給与費に効く打ち手の代表が、人の時間を機械に返させる投資——音声入力・文書作成支援・問い合わせ対応・病棟見守りといった AI・DX です。ただし、ここで「ベンダーの導入事例で年間◯◯時間削減」という数字をそのまま事業計画に貼り付けるのは、統計の定義を確かめずに「9割赤字」を信じるのと同じ誤りです。検算の型は単純で、分子 (効果) = 削減される時間 × その時間を担う職種の人件費単価 × 実現率、分母 (投資) = 導入費 + 運用費。削減時間はベンダー公表値ではなく自院の業務量 (文書件数・電話件数・記録時間) から置き直し、実現率は「削減された時間が本当に残業減や配置転換に変わる割合」として自院で仮置きします。この検算の実践は、国内の導入実測値とあわせて別記事で詳しく扱う予定です。なお、今回の補正予算には医療機関の生産性向上支援として 1病院あたり総事業費 1億円 (交付上限 8,000万円) の枠 も用意されています [8] (国 2/3・都道府県 1/3 の都道府県経由スキームのため、実施時期・対象経費は自治体ごとの要領確認が必要です)。

編集部の先読み — 病院の赤字への政策対応は、「個別病院の経営努力への支援」から「地域でどの病院に何を残すかの設計」へと主語が移っていくとみる。個々の病院にとっては、自院の損益改善と同じ重みで、地域の中での自院の機能の選び方が経営課題になる可能性が高い。根拠: 補正予算パッケージが賃上げ・物価支援 (5,341億円) と病床数適正化 (3,490億円・約11万床) を同居させ、後者を「新たな地域医療構想に向けて」と明記している (出典 [8])

おわりに——自院の3つの率を持って、次の一手の話をする

事実を一枚に戻します。2024年度、四病協調査で年度損益を比較できた病院の 74.6% (7年追跡群では 89.2%) が本業赤字であり、費用増の 72.5% は給与費と材料費でした [1]。緊急補助は 1床 19.5万円、改定の純粋な引き上げ分は +0.25%——収益側の支援はコスト増の裏打ちが中心です [8][10]。

次のアクションは一つだけ提案します。直近の決算書で、医業利益率・経常利益率・その差の 3つを出してみてください。事務部門に 10分お願いすれば済む作業で、自院が「9割」報道のどこに立っているか、赤字がどの型なのかが見え始めます。次の理事会や運営会議で、この 3つの数字から話を始めるのが、いちばん早い使い方だと思います。

本記事は「病院決算の定点観測」の初版です。四病協の定期調査は例年 11月末前後に公表されるため、次回公表のたびに本記事へ差分を追記していきます。数字が動いても、読み方の骨格は変わりません。

更新履歴

  • 2026-08-02: 初版公開 (四病協 2025年度調査・TDB 2025年集計・WAM 2024年度決算版に基づく)。

参考文献

  1. 四病院団体協議会. (2025). 2025年度 病院経営定期調査 概要版 −結果報告(集計結果)−. https://ajhc.or.jp/siryo/20251126report.pdf (2026-08-01 取得)(医業/経常の赤字病院割合・100床あたり損益・費用構造・7年連続追跡・賃上げ対応を収載する本記事の基幹統計)
  2. 厚生労働省. (2025). 医療施設動態調査 (令和7年10月末概数). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/m25/is2510.html (2026-08-01 取得)(全国の病院 7,998施設・約145万床という分母の一次統計)
  3. 中央社会保険医療協議会. (2025). 第25回医療経済実態調査の概要 (総-1-2、令和7年11月26日). https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001599547.pdf (2026-08-01 取得)(一般病院 損益率▲7.3%。診療報酬改定の基礎資料となる公式調査)
  4. 福祉医療機構 (WAM). (2026). リサーチレポート No.013「2024年度 (令和6年度) 病院の経営状況について」. https://www.wam.go.jp/hp/wp-content/uploads/260304_No013.pdf (2026-08-01 取得)(融資先決算ベース。一般病院 経常▲1.3%・赤字58.3%・医療材料費5年+18.3%)
  5. 福祉医療機構 (WAM). (2025). リサーチレポート No.009「2023年度 (令和5年度) 病院の経営状況について」. https://www.wam.go.jp/hp/wp-content/uploads/250131_No009.pdf (2026-08-01 取得)(前年版。経常赤字51.0%、2013年度以降の最低値の記録)
  6. 帝国データバンク. (2026). 医療機関の倒産・休廃業解散動向調査 (2025年). https://www.tdb.co.jp/report/industry/20260123-iryoukikan2025/ (2026-08-01 取得)(倒産66件・休廃業解散823件の内訳と原因。全国「病院経営」動向調査の赤字61.0%も引用収載)
  7. 日本医事新報. (2025). ■NEWS 24年度の一般病院の損益率は▲7.3%、一般診療所は損益率が悪化─医療経済実態調査. https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_27662 (2026-08-01 取得)(厚労省MCDB特別集計 (赤字67.2%/72.7%) の報道。一次集計表は未公表)
  8. 厚生労働省. (2025). 令和7年度補正予算案の閣議決定について (中医協 総-2、令和7年12月10日). https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001608251.pdf (2026-08-01 取得)(1床19.5万円の基礎的支援・救急加算・病床数適正化3,490億円 (1床410.4万円) の一次資料)
  9. GemMed. (2025). 2025年度補正予算で「1床当たり50−100万円」の病院経営支援、2026年度に10%超の診療報酬プラス改定を実施せよ—6病院団体. https://gemmed.ghc-j.com/?p=69396 (2026-08-01 取得)(6病院団体要望の二次ソース。要望書原本は未公開)
  10. 厚生労働省. (2025). 診療報酬改定について (令和8年度予算大臣折衝を踏まえた改定率、令和7年12月24日). https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001620952.pdf (2026-08-01 取得)(本体+3.09%の内訳6項目と病院への傾斜配分)
  11. 二木立. (2025). 2026年度診療報酬改定「本体」3.09%引き上げをどう読むか?. 日本医事新報. https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_27830 (2026-08-01 取得)(「30年ぶり3%超」の評価と全体改定率+2.22% (=3.09−0.87) の整理)