新しい地域医療構想を読む — 2028年度、構想に「病院名」が載る
2026年7月、新しい地域医療構想の策定ガイドラインが公表されました。2028年度までに急性期拠点の病院名が構想に載り、すべての病院が「2040年に担う機能」を選びます。何が変わるのか・自院はどれを選ぶのか・実務の落とし穴を一次資料で解説します。
執筆・監修 クリニックAIラボ 編集長(現役内科医 / 医療AI研究者)

- 公開
- 2026-08-02
- 更新
- 2026-08-02
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はじめに——「地域医療構想」が、他人事でなくなった日
正直に言うと、私自身、これまでの地域医療構想を熱心に追ってきたわけではありません。私は病院経営の当事者ではなく、医師として病院の中で働いてきた側です。病床機能報告が事務方から回ってきて、調整会議の資料が回覧される——多くの先生方にとっても、その程度の距離感の制度だったと思います。
その前提が変わりました。2026年7月、厚生労働省が新しい「地域医療構想策定ガイドライン」(81ページ) を公表しました [1]。2028年度までに、急性期拠点機能を担う病院は構想に名前が載り、すべての病院が「2040年に自院が担う機能」を選んで宣言します。しかも対象は病床だけでなく、外来・在宅・介護連携まで——診療所も無関係ではいられない設計です。
81ページを通読する必要はありません。骨格は 6 つの問いに整理できます。何が変わるのか。なぜ作り直したのか。自院はどの機能を名乗るのか。お金はどう動くのか。実務の落とし穴はどこか。そして次に何が来るのか。この記事では、ガイドライン・改正医療法・検討会資料という一次資料だけを使って、この 6 つに順に答えます。
「病床の計画」から「地域医療全体の設計図」へ — 4つの変更点
結論から言うと、今回の新しい地域医療構想は、従来の構想の「改訂版」ではありません。対象も、報告の単位も、区分の名前も、そして構想に書き込まれる中身も変わる「作り直し」です。変更点は 4 つに整理できます。
変更点 1: 対象が「病床」から「医療提供体制の全体」に広がった。 従来の地域医療構想は、実質的に入院病床の機能分化の計画でした。改正医療法の概要資料は、新しい構想をこう定義しています。
「病床のみならず、入院・外来・在宅医療、介護との連携を含む将来の医療提供体制全体の構想とする」(厚生労働省 医療法等の一部を改正する法律の成立について (報告)・第122回医療部会 資料4 p.1、2026-08-01 取得) [2]
外来・在宅・介護連携・人材確保まで含む「地域の医療の設計図」になった、ということです。これは病院だけの制度変更ではありません——後述のとおり、診療所の外来データもこの設計図の材料になります。
変更点 2: 「医療機関機能報告」が新設された。 従来の病床機能報告は病棟単位で「高度急性期・急性期・回復期・慢性期」を報告する仕組みでした。新制度ではこれに加えて、医療機関単位 で「自院が地域で担う機能」を報告します (5 つの機能区分は後述します)。根拠となる改正医療法は 2025年12月に成立し (令和7年法律第87号 [1][2])、本則の施行は 2027年4月1日 です [2]。つまり 2027年度から、各病院は「病棟の機能」ではなく「病院としての役割」を毎年宣言することになります [2]。
変更点 3: 「回復期」が「包括期」に変わった。 病床機能の 4 区分は維持されますが、名前と中身が変わります。ガイドラインは改称の理由をこう記します。
「2040 年に向けて増加する高齢者救急等の受け皿として急性期と回復期の機能を併せ持つ機能が重要となること等を踏まえ」(厚生労働省 地域医療構想策定ガイドライン p.26、2026-08-01 取得) [1]
高齢者の急性期治療と、入院早期からのリハビリテーション・退院調整をひとつながりで担う——「治す」と「支える」の境界線上の機能が、包括期という名前で正面に据えられました [1]。
変更点 4: 2028年度までに、構想に「病院名」が載る。 今回もっとも重い変更です。ガイドラインの原文を引きます。
「2028 年度までに、急性期拠点機能を担う医療機関の具体的な医療機関名も含め、2040 年において各医療機関が担う医療機関機能、2040 年の必要病床数、入院医療・外来医療・在宅医療・介護との連携・人材確保に関するそれぞれの取組を、地域医療構想調整会議において協議し、地域医療構想として策定する必要がある」(厚生労働省 地域医療構想策定ガイドライン p.7、2026-08-01 取得) [1]
正確に読むと、構想本文への「名指し」が求められるのは急性期拠点機能です。全機能の病院名リストが作られるわけではありません。ただし、すべての病院が遅くとも 2028年度までに「2040年に自院が担う機能」を決定し、報告することが求められます [1]。名前こそ載らなくても、全病院が「2040年の自分の役割」を公的に宣言する制度になりました。


時系列も確認しておきます。2024年12月に検討会の「とりまとめ」が機能区分の原型を示し [3]、2025年12月に改正医療法が成立しました (令和7年法律第87号 [1][2])。2026年3月に新構想のとりまとめが医療部会で承認され [1]、2026年7月3日に 81 ページの策定ガイドラインが公表されました (公表日は m3.com の報道による [4])。この後、2026〜2027年度上半期に都道府県がデータ分析と構想区域の点検を行い、2027年度に医療機関機能報告が始まり、2028年度までに 各都道府県が構想を策定します [1][2]。つまりいま (2026年夏) は、「制度はもう決まったが、自院の位置づけはまだ決まっていない」時期——先手を打つには最も条件が良く、無関心でいるには最も危うい時期だと私は考えています (見立て)。
なぜ国は作り直したのか — 2040年の患者は「85歳以上」で「外来に来ない」
制度の形を覚えるより先に、国が見ているデータを見たほうが、新構想は早く理解できます。設計思想は 3 つの数字に集約されるからです。
1つめの数字: 85歳以上の需要だけが伸びる。 厚労省の推計 (2020年→2040年) では、75歳以上の救急搬送は +36%、うち 85歳以上に限ると +75%。在宅も同じ形で、75歳以上の訪問診療需要は +43%、うち 85歳以上は +62% です [5]。増えるのは「手術で治して家に帰す」典型的な急性期患者ではなく、複数の病気と要介護状態を抱えた高齢者の救急と在宅です。検討会とりまとめも「85歳以上の高齢者の救急搬送は75%増加し、85歳以上の在宅医療の需要は62%増加」と記しています [3]。ここに、高齢者救急と早期リハ・退院調整をひとまとめにした「包括期」「高齢者救急・地域急性期機能」という区分の必然性があります。
2つめの数字: 外来はすでにピークを過ぎた。 全国の外来患者数は 2025年にピーク を迎え、217 の二次医療圏ではすでにピークを過ぎています。一方、入院患者数の全国ピークは 2040年、在宅患者数は全国では 2030年ピークですが、203 の二次医療圏では 2040年以降もまだ増え続けます [6]。死亡数は 2040年頃まで増加し、ピーク時には年間約 170万人 [6]。つまり「外来は縮み、入院は横ばいから減少へ、在宅と看取りは地域によっては 2040年以降も増える」——しかも地域ごとにタイミングがバラバラです。全国平均のニュースで自地域を語れない構造が、都道府県ごと・構想区域 (おおむね二次医療圏単位) ごとの「設計図」を必要とさせています。

3つめの数字: 人口20万〜30万人に「一つ」。 増える高齢者救急を裾野で受け止める一方、手術や高度な救急は逆に集約します。ガイドラインは急性期拠点機能について、人口 20万人から 30万人の単位で一つ確保することを基本的な考え方として示しました (人口の少ない地域では一つを確保・維持) [1]。集約の背景について、ガイドラインは、症例や医療従事者が分散すると働き方に不均等や非効率が生じ、医療の質の確保に必要な症例数が集積されなくなると指摘しています [1]。手術・救急の「集約」と、高齢者救急・在宅の「分散 (地域密着)」——逆向きの再配置を同時に進めるのが新構想の設計と読めます (筆者の見立て)。
まとめると、こうなります。2040年の医療需要は「85歳以上・救急と在宅・地域ごとに非同期」という形で来る。それを、外来がすでに縮み始め、病院のおよそ 4分の3 (四病協 2025年度調査・年度比較 1,498病院で 74.6%) が本業赤字という供給側の現実で受け止めることになります [7]。この経営側の数字は「病院の9割が赤字」は本当かで詳しく書きました。だから国は、病床の数合わせではなく「どの病院が何を担うか」まで踏み込む設計図の策定を、都道府県に求めることにした——これが新構想の骨格です (この因果の整理は筆者の見立てを含みます)。
——自院に引きつけるなら、見るべきは全国値ではなく自地域の曲線です。都道府県が 2026〜27年度に出すデータ分析で、自院の構想区域の外来・入院・在宅のピークが何年なのかを一度確認しておいてください。全国の 2025年ピークと自地域は、同じ年とは限りません。
5つの機能、自院はどれを名乗るか — 二者択一の判定フロー
2027年度から始まる医療機関機能報告では、各医療機関 (報告対象は病床機能報告と同じく病院・有床診療所です [1]) が次の 5 つの機能から「自院が地域で担う機能」を選んで報告します。ガイドラインの定義を、実務の言葉に添えて整理します [1]。
| 機能 (正式名称) | 中身 (ガイドラインの要点) | 実務の目印 |
|---|---|---|
| 高齢者救急・地域急性期機能 | 高齢者をはじめとした救急搬送の受入と、入院早期からのリハビリ・退院調整による早期退院。介護施設の協力医療機関としての連携も | 二次救急・地域包括医療病棟/地域包括ケア病棟が主戦場の病院 |
| 急性期拠点機能 | 手術・救急医療など医療資源を多く要する症例を集約化した提供。人口 20万〜30万人に一つの確保が基本 | 手術件数・救急実績で地域の中核を担う病院 |
| 在宅医療等連携機能 | 在宅医療の実施と、他機関・介護施設・訪問看護等と連携した 24時間対応・入院対応。オンライン診療 (D to P with N = 看護師が患者側に同席する形)・遠隔モニタリングの活用も明記 | 在宅療養支援病院・有床の在宅バックアップ |
| 専門等機能 | 上記にあてはまらない集中的リハビリ、中長期入院医療、診療科特化など。有床診療所は基本的にこの機能を選択 | 回復期リハ専門・専門単科・有床診療所 |
| 医育及び広域診療機能 | 大学病院本院。医師派遣・卒前卒後教育・広域診療 | 大学病院本院のみ |
このリストで最も重要なルールは、表の外にあります。「高齢者救急・地域急性期機能」と「急性期拠点機能」の両方を、一つの医療機関が報告することはしない とガイドラインは定めています [1]。つまり多くの中小病院にとって、この報告は「どちらも担っています」と言えない二者択一です。手術・救急の集約側に立つのか、高齢者救急と早期リハ・退院調整の地域密着側に立つのか——2028年度までに、旗色を選ぶことになります。
ただし、例外が 2 つあります。第一に、在宅医療等連携機能は、高齢者救急・地域急性期機能や急性期拠点機能を担う医療機関が在宅医療やその後方支援も担う場合、併せて報告することが認められています [1]。第二に、有床診療所は基本的に専門等機能ですが、在宅医療の積極的な提供や高齢者救急の受入を担っている場合は、在宅医療等連携機能や高齢者救急・地域急性期機能として報告します [1]。

選択の物差しになるのは、ガイドラインが急性期拠点機能について挙げる協議の材料です。診療実績を基本に、政策医療の状況・経営状況・建物の状況も含めて総合的に協議する とされています [1]。手術件数や救急受入実績が地域内で相対的にどの位置にあるか——病床機能報告などで既に都道府県に提出している診療実績のデータが、協議の土台になります [1]。自院の実績を「地域内の相対順位」で把握しておいてください。協議の席に着く前の、最低限の準備です。
では、無床の診療所は無関係かというと、そうではありません。 新構想は外来・在宅・介護連携まで対象を広げています。そしてガイドラインは外来医療の協議について、外来機能報告に加えて「かかりつけ医機能報告により得られるデータ等も踏まえながら」進める と明記しています [1]。かかりつけ医機能報告は 2025年4月に施行され、初回報告が 2026年1〜3月に行われたばかりの制度です [8]。つまり診療所は、毎年のかかりつけ医機能報告を通じて、地域医療構想の協議データに組み込まれていきます。地域の外来がどれだけ残るか、在宅の担い手が足りているか——その判断材料の一部を、自院の報告が構成することになります。診療所の継続性 (承継の見通しを含む) やオンライン診療の活用状況も、外来医療の協議で扱うデータとして挙げられています [1]。
——自院に引きつけるなら、病院の経営層はまず「二者択一のどちら側か」の仮説を持つこと。診療所は、毎年のかかりつけ医機能報告を「提出物」ではなく「自院が地域で何を担うと表明するか」の書式として書くこと。どちらも、制度が動き出す前に一度やっておく価値があります。
お金はどう動くか — 1床410.4万円の削減支援と「減った前提」の必要病床数
新しい構想そのものには、診療報酬の点数は付いていません。しかし、お金は既に動き始めています。正直に整理すると、現時点で実額が確定しているのは「病床を減らす側」の支援です。
確定している実額: 病床数適正化の交付金。 2025年度補正予算の「病床数適正化緊急支援基金」(3,490億円) は、病床を削減する病院・有床診療所に 1床あたり 410.4万円 (休床の場合は 205.2万円) を交付します。対象は「人口減少等により不要となると推定される、約11万床」、支援は 2026年度末 (令和8年度末) までの時限です [1][9]。試しに架空の例で置くと、199床の病院が 19床を削減して 180床にする場合、19床 × 410.4万円 = 約 7,798万円 の交付になります (筆者計算・架空の例)。
重要なのは、この基金 (ガイドライン上の呼称は「病床数適正化緊急支援事業」) が新構想と「別の制度」ではないことです。ガイドラインは 2040年の必要病床数の推計にあたり、こう記しています。
「この事業趣旨を踏まえると、必要病床数の推計に当たっては、病床が削減されることを前提として検討することが必要である。このため、当該事業において削減が見込まれる病床について……医療需要のデータから、これらを控除した場合の減少率を算出し」(厚生労働省 地域医療構想策定ガイドライン p.21、2026-08-01 取得) [1]
つまり順序はこうです——補助金で先に病床を減らし (2026年度末まで)、減った前提で 2040年の必要病床数を計算する。基金と構想は、推計式のなかで直結しています。

必要病床数の計算前提も公開されています。 病床機能ごとの稼働率の前提は、高度急性期 78%・急性期 83%・包括期 87%・慢性期 92% (機能区分ごとに効率化分の加算あり)。また、75歳以上でこれまで急性期に区分されてきた患者は、5割は引き続き急性期、残り5割を包括期として見込んで 推計します [1]。自院の病棟の実稼働率をこの前提と比べれば、「2040年の計算上、自院の病床は余る側か・足りない側か」のあたりを付けられます。推計は 2030年と 2036年に見直されます [1]。

一方、「機能を選んだ側」への直接の対価はまだ確定していません。急性期拠点機能に載ることが、次の診療報酬改定でどんな施設基準・加算につながるか——あるいはつながらないか——は、現時点で決まっていない領域です (この見通しは最後の章で扱います)。確定した数字だけで判断するなら、いま動いているお金は「減らす選択への一時金」と「賃上げ・物価の裏打ち」の 2 つです。後者の中身は「病院の9割が赤字」は本当かで扱いました。一方、「機能転換の投資への支援」はこれから議論される段階 です。
——自院に引きつけるなら、判断材料は 2 つです。①自院の実稼働率と地域の需要推計 (都道府県が 2026〜27年度に分析・提示) を突き合わせ、計算上「余る側」に立つ病床が何床あるかを出してみてください。②その病床について、410.4万円の時限交付 (2026年度末まで) を使う・使わないの検討は、構想の協議が本格化する前に一度は理事会の議題に載せる。使わないという結論でも、検討した記録自体が調整会議での説明材料になります (見立て)。
「2028年度までに決めればいい」ではない — 協議は先に始まっている
制度のスケジュールを字面どおりに読むと、「機能報告は 2027年度から、構想は 2028年度まで。まだ 2 年ある」と見えます。実務の落とし穴の多くは、この読み方に潜んでいます。
落とし穴 1: 協議は報告より先に走る。 都道府県は 2026年度から 2027年度上半期頃にかけてデータ分析と構想区域の点検・見直しを進め、調整会議での協議を経て 2028年度までに構想を策定します [1]。つまり、自院が最初の機能報告を出す 2027年度には、地域の協議はすでに数巡目に入っています。とくに急性期拠点機能は「診療実績を基本に、政策医療・経営状況・建物状況も含め総合的に協議」されます [1]。協議の初期に自院の立ち位置と希望を示せなかった病院は、他院のデータと希望をもとに「位置づけられる側」に回る可能性が高くなります (見立て)。
落とし穴 2: 二者択一は、体制の実態で判定される。 前章のとおり、高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能は同時報告できません [1]。「うちは手術も高齢者救急もやっている」という中間型の病院ほど、どちらの旗を立てるかで院内の合意形成に時間がかかります。一方で都道府県のデータ分析と協議は 2026年度から動いているため [1]、判断を先送りするほど、集約側の議論が先に進みます。
落とし穴 3: 構想区域そのものが動く。 従来からの区域見直し基準——人口 20万人未満で、外から入ってくる患者が 2割に満たず、外へ出ていく患者が 2割を超える区域。加えて人口 100万人以上の区域——が、新構想でも構想区域の点検に用いられます [1]。さらに、県境をまたぐ場合に急性期拠点を「両区域で合わせて一つ」確保する選択肢も明示されました [1]。自院の属する「地域」の枠自体が変わり得る——隣接区域の病院が、ある日「同じ土俵の競合」になる可能性を含みます。
落とし穴 4: 対象拡大の見落とし。 新構想は精神医療も対象に含み [3]、外来・在宅・介護連携の協議が正式に加わりました [1][2]。病院の病床の話だと思って調整会議の資料を読み飛ばしていると、外来機能の協議 (かかりつけ医機能報告・外来機能報告データ) や在宅の担い手の議論——診療所・在宅医療に直結する論点——を見落とします。
落とし穴 5: 再編の道具箱は既に揃っている。 機能の集約・分担を実行する器として、地域医療連携推進法人は 63法人 (2026年4月1日現在) まで増えています [10]。改正法には、基準病床数 (医療法上の病床の上限枠。前章の「必要病床数」= 需要推計値とは別の数字です) の削減と連動した緊急病床削減支援事業も盛り込まれました [2]。「構想はまだ先の話」と構えている間に、実行手段の側は整い続けています (見立て)。連携推進法人と再編の実務は、別の記事で詳しく扱う予定です。
——自院に引きつけるなら、今年度中にやることは 3 つに絞れます。①都道府県が公表する構想関連の資料 (調整会議の議事・データ分析) の定期チェック係を決める。②自院の診療実績の「地域内相対位置」を一枚にまとめる。③二者択一の仮説 (どちらの旗か) を院内で一度言語化しておく。どれも費用はかかりませんが、協議が本格化してからでは間に合いにくい準備です。
2030・2036・第9次計画 — 構想と診療報酬が結びついていく道筋
最後に、この構想がこの先どう転がっていくかの時間軸を確認します。確定している日付は次のとおりです。
- 2027年度: 改正法本則施行・医療機関機能報告スタート (2027年4月1日) [2]
- 2028年度まで: 各都道府県が構想を策定 (急性期拠点機能は医療機関名を明記) [1]
- 2029年度頃: 第9次医療計画の策定 — 新構想が医療計画の上位概念として反映される [1][3]
- 2030年・2036年: 必要病床数の推計を見直し [1]
- 2030年12月31日まで: 電子カルテ普及率約 100% の達成 (衆議院修正で法定) [2]
- 2035年頃: 構想の成果の確保、そして 2040年 へ [1]
この時間軸に、まだ確定していないが方向の見える論点が 2 つ重なります。
一つは、診療報酬との接続です。今回の構想自体には、診療報酬の点数は付いていません。しかし、機能を公的に報告させる制度が報告のためだけに終わらず、報告データがやがて評価 (加算・施設基準) の土台になっていく——そういう展開がこの 10 年繰り返されてきた、と私は読んでいます (見立て)。
編集部の先読み — 急性期拠点機能の「名指し」は、2028年度改定以降、施設基準や補助金配分の条件に段階的に接続されていくとみる。「構想に載っている病院か」が、点数表の言葉に翻訳されていく可能性が高い。根拠: 病床数適正化基金 (病床数適正化緊急支援事業) が、ガイドラインの必要病床数推計に「削減を前提として」直結している事実 (出典 [1] p.21・[9])
もう一つは、診療所の巻き込まれ方です。外来・在宅が構想の正式な協議対象になり、かかりつけ医機能報告・外来機能報告のデータが協議材料に指定されました [1]。診療所には病床がないため「構想の外」に見えますが、データの流れはすでに逆を向いています。裏を返せば、毎年の報告は、地域の議論に自院の実態を差し出せる数少ない経路でもあります (見立て)。
編集部の先読み — 診療所は「構想の外」ではなくなるとみる。外来の縮小局面 (全国の外来患者数は 2025年ピーク [6]) では、地域の外来・在宅の担い手配置が構想の論点になる。毎年のかかりつけ医機能報告の記載内容が、自院の地域内での見え方を左右していく可能性が高い。根拠: ガイドラインが外来協議のデータ源として外来機能報告・かかりつけ医機能報告を明記している (出典 [1] p.61)
——自院に引きつけるなら、この 10年の日付表を一枚に印刷して、次の中期計画の議題に添えておくことです。2027年度の機能報告と 2028年度の構想策定は、いまの設備投資・採用計画の判断期間とすでに重なっています。
おわりに——自院の旗色を、先に決めておくために
要点を一枚に戻します。新しい地域医療構想は「病床の計画」から「地域医療全体の設計図」になり、2027年度から全病院が機能を報告し、2028年度までに構想が固まります [1][2]。多くの中小病院は「高齢者救急・地域急性期」か「急性期拠点」かの二者択一を迫られ、診療所も外来・在宅のデータを通じて協議に組み込まれます [1]。
次のアクションは、病院なら「二者択一のどちら側か」の仮説を院内で言語化すること、診療所なら、次のかかりつけ医機能報告で自院が何を担うと書くかを決めておくこと。どちらも費用はかからず、次の理事会・次の報告時期から始められます。制度が固まる前に自分の旗色を言葉にしておくことが、協議の席でいちばん効くと私は考えています (見立て)。
本記事は定点観測シリーズ「医療計画・地域医療構想ウォッチ」の初版です。都道府県の策定状況、調整会議の動き、そして診療報酬との接続——節目ごとに、この記事に差分を追記していきます。
更新履歴
- 2026-08-02: 初版公開 (2026-07-03 公表の策定ガイドライン・改正医療法 (令和7年法律第87号) に基づく)。
参考文献
- 厚生労働省. (2026). 地域医療構想策定ガイドライン. https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001718620.pdf (2026-08-01 取得)(本記事の基幹資料。機能区分の定義・策定スケジュール・必要病床数の推計方法・外来在宅の協議の進め方・改正法の法律番号を収載)
- 厚生労働省. (2025). 医療法等の一部を改正する法律の成立について (報告) (第122回社会保障審議会医療部会 資料4、令和7年12月8日). https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/001606327.pdf (2026-08-01 取得)(改正法の概要と施行期日。本則施行2027年4月1日・電子カルテ普及率目標等の衆議院修正を収載)
- 厚生労働省. (2024). 新たな地域医療構想に関するとりまとめ (新たな地域医療構想等に関する検討会、令和6年12月18日。介護保険部会 参考資料2 として再録). https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001360724.pdf (2026-08-01 取得)(医療機関機能・包括期の初出となった検討会とりまとめ。構想の上位概念化も収載)
- m3.com 医療維新. (2026). 厚労省、2040年見据えた「地域医療構想策定ガイドライン」公表. https://www.m3.com/news/open/iryoishin/1344747 (2026-08-01 取得)(ガイドライン公表日 (2026年7月3日) の確認に使用した二次ソース。会員限定)
- 厚生労働省. (2024). 新たな地域医療構想を通じて目指すべき医療について (第7回 新たな地域医療構想等に関する検討会 資料1、令和6年8月26日). https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001294917.pdf (2026-08-01 取得)(2020→2040年の救急搬送・訪問診療需要の推計 (85歳以上 +75%/+62% 等))
- 厚生労働省. (2023). 2040年に向けた人口動態・医療需要等 (第8次医療計画等に関する検討会資料等の再録). https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/001090217.pdf (2026-08-01 取得)(外来2025年ピーク・入院2040年ピーク・在宅は203の二次医療圏で2040年以降ピーク・死亡数ピーク年約170万人)
- 四病院団体協議会. (2025). 2025年度 病院経営定期調査 概要版 −結果報告(集計結果)−. https://ajhc.or.jp/siryo/20251126report.pdf (2026-08-01 取得)(病院の医業赤字割合 (年度比較1,498病院で74.6%) の一次統計)
- 厚生労働省. (2025). かかりつけ医機能の確保に関するガイドライン (第1版) (令和7年6月). https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001508105.pdf (2026-08-01 取得)(2025年4月施行・初回報告2026年1〜3月の制度詳細)
- 厚生労働省. (2025). 令和7年度補正予算案の閣議決定について (中医協 総-2、令和7年12月10日). https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001608251.pdf (2026-08-01 取得)(病床数適正化緊急支援基金 3,490億円・1床410.4万円・約11万床の一次資料)
- 厚生労働省. (2026). 地域医療連携推進法人制度について (令和8年4月1日現在の認定一覧). https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177753.html (2026-08-01 取得)(認定 63法人の現況)