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電子カルテ、待てば半額になるのか

令和9年度概算要求で医療DXに934億円。認証されたクラウドネイティブ型電子カルテへの乗り換えとデータ移行に2分の1補助が要求されました。待てば半額になるのか——上限未公表・認証製品ゼロという現在地から、自院の保守契約満了日を起点に判断する方法を一次資料で整理します。

執筆・監修 クリニックAIラボ 編集長現役内科医

夕方の診療所の事務室で、院長が机の上の見積書に手を置いて考え込むフラットイラスト。窓の外に里山とまちの灯りが見える
公開
2026-09-07
更新
2026-09-07
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はじめに——見積書の前で、手が止まる

保守契約の期限が近い、と言われた院長から相談を受けます。ベンダーの見積書を前にして、決めかねている。噂で「国が電子カルテに補助を出すらしい」と聞いたが、それがいつ、いくら、自院に当たるのかが分からない。

2026年9月4日、財務省が各省庁の令和9年度予算概算要求を公表しました [2]。厚生労働省が「医療DXの推進」として要求したのは934億円、うち投資枠928億円と事項要求です [1]。そしてこの中に、認証されたクラウドネイティブ型電子カルテを導入する医療機関への2分の1補助が入っています。

ただし、9月4日に出たのは各省が財務省に出した「要求」であって、決まった予算ではありません。額も補助率も要件も、年末の予算編成で変わります。この記事では最後まで「要求されている」と書きます (詳細は §落とし穴は5つある の1番目)。

診療所は全国で約10.5万施設。うち電子カルテ導入済が57,662、未導入が47,232 [3]。今この記事を読んでいる先生は、ほぼ確実にどちらかに属しています。

この記事では、934億円の中身を一次資料で分解したうえで、「更改を待てば実質半額になるのか」という一点に答えます。結論から言うと、待って得をする診療所と、待つと損をする診療所がはっきり分かれます。そして分かれ目は、多くの先生が思っているより手前にあります。

2026年7月21日の骨太2026閣議決定から7月30日の概算要求基準閣議了解、9月4日の概算要求公表までを結ぶ横一本のタイムライン図
図 1: 骨太2026 の閣議決定 (2026-07-21) から概算要求の公表 (2026-09-04) までの 45 日。政策の言葉が金額になるまでの道筋 (出典: [4][10][2] を基に編集部作成)

934億円の中身

934億円と聞いても、自院に何が来るのかは分かりません。厚労省の資料 [1] は、この934億円を6本に分けています。金額を足すと934にぴったり一致します (604+132+5+128+65。6本目は事項要求で金額が付いていません)。

施策令和9年度概算要求額
クラウドネイティブ型システムへの刷新(標準仕様に準拠した電子カルテの認証制度の創設、認証製品の普及支援等)約604億円
サイバーセキュリティ対策の強化(医療機関における外部接続点の点検・適正化)約132億円
サイバーセキュリティ人材活用推進・育成約5億円
全国的な電子カルテデータ連携の推進約128億円
医療等データ利活用基盤の構築の加速化約65億円
大病院向けクラウドネイティブ型システムの開発支援事項要求(金額なし)

なお「うち投資枠928億円」は内数です。934億円のうち928億円が『「強く豊かな日本」投資枠』という要求の区分に置かれ、残る6億円はその外にあります [1][2]。

診療所に直接関係するのは、いちばん上の604億円です。これもさらに4本に割れていて、こちらも合計が604に一致します (336+121+93+54)。この4本はいずれも前年度当初予算額が「(-)」、つまり新規計上です。

事業診療所にとっての意味
クラウドネイティブ型電子カルテの普及336億円認証製品の導入に1/2補助(上限あり)。オンプレ型からのデータ移行費用も1/2補助
パッケージ版電子カルテ導入支援121億円国が指定した「パッケージ版製品」の導入支援。補助額は医療機関の規模ごとに設定
標準型電子カルテ・導入版の開発・普及93億円 (うち標準型電子カルテ・病院版医療情報共有ツールの43億円は一部デジタル庁計上)医科診療所がアプリを導入する際の機器購入・設置経費を支援(定率、上限あり)
歯科電子カルテの普及54億円歯科医療機関向け。認証製品導入・データ移行がいずれも1/2以内(上限あり)

認証の審査も補助の受付も、厚労省がDX審査支払機構などに委託して回す絵が描かれています [1]。

ここで一つ、多くの記事が飛ばす記述を引いておきます。

「政府は、医療情報システムのクラウドネイティブ型への刷新を目指し、認証されたクラウドネイティブ型電子カルテの普及支援を実施する方針。しかしながら、現状、クラウドネイティブ型電子カルテは、提供されている製品が限られており、全ての医療機関の機能には対応できない。このような状況でも、(…)」(厚生労働省「医療DXの推進(主な令和9年度予算概算要求事項)」[1])

国自身が「まだ製品が足りない」と書いている。だから121億円の「パッケージ版」という別枠が置かれました。要件は3つで、①電子カルテ情報共有サービス等の政府の医療DXサービスに対応、②必要なサイバーセキュリティ対策を備える、③ノンカスタマイズであること、等 [1]。

③が効きます。「うちの外来フローに合わせて画面を変えてほしい」に応えた製品は、この枠に入らない。私はこの3要件を、補助金の要件というより、国が今後の電子カルテに求める仕様の予告と読んでいます (見立て)。

令和9年度概算要求の医療DXの推進934億円が6施策に分かれ、うち刷新604億円がさらにクラウド電カル普及336億円・パッケージ版121億円・標準型導入版93億円・歯科54億円の4本に割れる二段の構成図
図 2: 令和9年度概算要求「医療DXの推進」934億円の構成。刷新604億円の内訳は クラウドネイティブ型電子カルテの普及336億円 / パッケージ版電子カルテ導入支援121億円 / 標準型電子カルテ・導入版93億円 / 歯科電子カルテ54億円 (出典: 厚労省「医療DXの推進(主な令和9年度予算概算要求事項)」[1] を基に編集部作成)

ここまでを自院に置き換えると、今月やることは1つです。ベンダーに「この製品は標準仕様に準拠しているか、認証申請の予定はあるか」を書面で聞く。答えられないベンダーなら、それ自体が判断材料になります。ただし「認証を追わない=劣る」ではありません。国自身が、現状のクラウドネイティブ製品では全ての医療機関の機能に対応できないと書いている [1]。自院の診療科や業務に深く合わせた製品ほど、初回の認証を追わない判断はありえます。聞くべきは可否ではなく、理由です。


なぜクラウドだけなのか

補助が付くのは「クラウドネイティブ型」だけです。この934億円の枠からは、オンプレ型の更新に1円も出ません。なぜ国はここまで露骨に片方へ寄せるのか。

(枠が違うだけで、更新の道が閉じているわけではありません。中小企業庁の「デジタル化・AI導入補助金2026」は医療法人等も対象で、要件を満たせば通常枠1/2以内が使えます (当サイトでの確認日は2026年6月13日) [12]。ただし登録ITツール・登録IT導入支援事業者を経由することが前提なので、いま取引しているベンダーの製品が登録されているかで可否が変わります。賃上げ要件もあります。詳細は当サイトの補助金トラッカーにまとめています。)

答えは、3年分の政策文書を縦に並べると見えます。

2023年6月2日、医療DX推進本部が工程表を決定しました。

「遅くとも 2030 年には概ねすべての医療機関において必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指す。」(医療DXの推進に関する工程表 [5])

目標だけでは動きません。手段が次に書かれます。第7回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チームの方針として、厚労省資料 [3] はこう引いています。

「目標達成に向け、オンプレ型で、かつ、カスタマイズしている現行の電子カルテから、いわゆるクラウドネイティブを基本とする廉価なものへと移行することを図る。」

この一文が、補助の対象がクラウドネイティブ型だけである理由のすべてです。書き漏れではなく、方針そのもの。

2025年12月、目標は法律になりました。地域医療介護総合確保法 第12条の3第4項 (衆議院の修正により追加された規定) です [14]。

「政府は、令和12年12月31日までに、電子カルテの普及率(…)が約百パーセントとなることを達成するよう、クラウド・コンピューティング・サービス関連技術(…)その他の先端的な技術の活用を含め、医療機関の業務における情報の電子化を実現しなければならない。」([3] p.3 に条文抜粋)

「目指す」が「実現しなければならない」に変わった。しかも期限が令和12年12月31日、つまり2030年末と日付で切られています。

この条文は令和7年法律第87号で新設され、2026年4月1日に施行済みです [14]。条文番号を引くときは施行日にご注意ください。同じ「第12条の3」でも、2026年3月31日以前は別の規定 (認定の基準) を指していました。

2026年7月21日、骨太の方針2026が閣議決定されました [4]。

医療情報化推進方針を策定し、医療機関の情報システムの刷新、特定機能病院等の緊急的な対応を含めたサイバーセキュリティ対策を進め、電子カルテ・電子処方箋の普及と情報連携(…)」

そして9日後の7月30日に概算要求基準が閣議了解され [10]、その36日後の9月4日に604億円という金額になって出てきた [1][2]。

工程表の目標 → 手段としてのクラウド → 法律による期限 → 閣議決定の方針 → 予算。5段の縦串が、きれいに1本通っています。

データの読み方 — 「目指す」と「実現しなければならない」の距離

政策文書の動詞を見ると、その施策がどの段階にあるかが分かります。検討会の「検討する」、工程表の「目指す」、閣議決定の「進める」、そして法律の「実現しなければならない」。前3つは予算がつかなくても文書は生き残りますが、法律に期限つきの義務が書かれると、達成しなかったときに説明責任が発生します。電子カルテの2030年末100%は、2025年12月の国会修正でこの最後の段階に入りました。ある施策の本気度を測りたいときは、金額より先に動詞と期限を見るのが早道です。

——ここまでを自院に置き換えると、次の更改で判断すべきことは1つです。「オンプレ型の延命は、遅くとも2030年末までに一度は見直しを迫られる」という前提で見積書を読む (見立て)。法律が定めたのは電子カルテの普及率であってオンプレ型の禁止ではありませんが [3]、クラウドネイティブへ移行を図る方針は厚労省が明文で示しています [3]。5年契約を結ぶなら、その5年が2030年をまたぐかどうかを確認してください。


自院はどの経路か

先生の診療所は、3つのどれに当たるでしょうか。厚労省の普及計画 [3] は、診療所を3つの経路に分けています (導入済57,662のオンプレ・クラウド内訳は概数のみの公表なので、幅のある表記です)。

現況施設数国が想定している道筋
オンプレ型を導入済〜約4.7万現行のオンプレ型のまま使い、次回システム更改時に、標準仕様に準拠したクラウド型システムに移行
クラウド型を導入済約1万〜順次、電子カルテ情報共有サービス/電子処方箋対応へアップデート → 標準仕様準拠のクラウド型へ移行
未導入 (紙カルテ)47,232標準型電子カルテの開発・改良 → モデル事業 → 完成 → 普及

補助との対応を重ねます。

  • オンプレ型を導入済の診療所: 認証製品への乗り換えとデータ移行費用の両方に1/2補助が要求されています [1]。3経路で最も補助が厚い
  • クラウド型を導入済の診療所: 使っている製品が認証を取れば、アップデートで済む可能性がある。取らなければ乗り換え側に回る
  • 未導入 (紙カルテ) の診療所: 標準型電子カルテ・導入版 (93億円)。ただし後述のとおり、これは電子カルテの置き換えではありません
電子カルテの導入状況とシステム形態の2問で、オンプレ型 (認証製品へ乗換 1/2補助・上限あり)・クラウド型 (認証を取れば更新で対応)・紙カルテ (標準型電子カルテ導入版) の3経路に分岐する判定フロー図
図 3: 自院がどの経路に当たるかの判定フロー。診療所の電子カルテ導入済は 57,662、未導入は 47,232。補助はいずれも令和9年度概算要求の段階で、上限額は未公表 (出典: 厚労省医政局「電子カルテの普及について」[3]、補助枠は [1] を基に編集部作成)

自院がどちらかは、サーバー筐体の有無では判定できません。クラウド型でも VPN 機器・レセコン端末・画像サーバーは院内に残りますし、逆にオンプレ型をデータセンターに預けている診療所もあります。ベンダーに聞くべきは3つです。

  1. 契約は買取+保守か、月額利用
  2. カルテのデータは院内事業者のデータセンターのどちらにあるか
  3. その製品は全医療機関に同一バージョンを提供する方式か、自院専用の構成か

3つ目が効きます。認証制度のたたき台は、マルチテナント構成の評価項目として「すべて医療機関に対して単一コードベース、単一バージョンにより提供されており、個別医療機関の要望に対応するための個別改修を行なっていないこと」を挙げています [3]。「クラウド」を名乗っていても、自院専用に切り出された構成なら、今回の枠の「クラウドネイティブ型」には当たらない可能性があります。

そのうえで、同じ「医療DX 934億円」でも診療所が使えない枠があります。医療機関におけるサイバーセキュリティ確保事業129億円 (「サイバーセキュリティ対策の強化」の枠に置かれた事業) は、補助先が「病院」と明記されています。補助上限は400床以上6,600万円、200〜399床4,500万円、20〜199床2,100万円、補助率10分の10 [1](別途、点検事業に参画した特定機能病院は上限を増額する注記があります)。診療所は有床・無床とも、この列に入っていません。

一方で、診療所も対象になる隣接枠はあります。電子処方箋の機能拡充・利用促進等の推進22億円 (同じ概算要求資料に載る隣接事業) では、令和8年4月に本格運用が始まった院内処方機能について、既に電子処方箋を導入している施設が機能追加した場合の導入費用の補助が要求されています。補助率は施設種別ごとで、診療所は1/2、病院1/3、薬局1/2、大型チェーン薬局1/4 [1]。

ここまでは資料で言えます。ここから先、どの製品が認証を取るのかは、まだ誰にも分かりません。認証審査は令和8年度冬頃に始まる想定で [3]、この記事を書いている2026年9月時点で認証済み製品は1つも存在しません。

——ここまでを自院に置き換えると、今月やることは1つです。保守契約書を出し、上の3問をベンダーに書面で投げる。「クラウドです」という口頭の答えは、今回の枠では判定材料になりません。


待つと、いくら違うか

正直に書きます。上限額が公表されていないため、「実質半額」を金額で断定することはできません。診療所本命の「クラウドネイティブ型電子カルテの普及」(336億円) は、実施主体欄に「補助率:1/2(上限あり)、委託」と明記されています [1]。上限が置かれること自体は要求の時点で明記されていて、公表されていないのはその金額です。

先生が自分の見積書で検算できる形にします。

(1) 認証製品への乗り換え費用の見積額                            … A 円
(2) データ移行費用の見積額                                      … B 円
(3) 移行に伴う稼働落ち (切替月の減収 + 旧システム参照用の維持費)  … D 円 ★補助の対象外
(4) 待たずに今更新した場合の費用                                … C 円
(5) 現行システムのまま加算1に届かせる費用                        … E 円

待って得をする額 = (A + B) × 1/2 − 〔待機期間の追加コスト〕
                    ↑ 上限に当たればここが減る

今更新した場合に二度払いになるか = C + 2D + (A + B) × 1/2
   ↑ 今入れる製品が認証を取らなければ、2030年までにこの合計を払う
   ↑ 稼働落ち (D) は、今の切替と 2030 年までの再移行で 2 回来る
   ↑ 今入れる製品が認証を取れば、C + D だけで済む可能性がある
   ↑ ただし 1/2 補助が 2030 年まで続く保証はない (令和9年度の要求です)

加算1に上げる回収年数 = E ÷ (初診件数/月 × 差額 × 12)
   例: E = 50万円、初診 月100件、加算3から (110円) なら約3.8年

この式が扱うのは導入時費用だけです。オンプレからクラウドへの移行は、費用構造そのものを「買って償却する」から「毎月払い続ける」へ動かします。その月額の変化は補助の対象外で、この計算には入っていません。また この 1/2 は税引前の額です。補助金は一般に原則として課税対象で、圧縮記帳などの取扱いは顧問税理士に確認してください。加えて補助金は原則が精算払いなので、いったん全額を立て替える資金が要ります。

D が曲者です。見積書には出てきませんが、実際に払います。オンプレからクラウドへ移すとき、シェーマ・スキャン文書・院内で作り込んだ文書テンプレート・部門システム連携は移らないことが多い。現実解は「テキストは移し、残りは旧システムを参照用に残す」で、その参照用ライセンスと端末維持費が新たに発生します。切替直後の1〜2か月は患者数も落ちます。ベンダーには金額より先に2つ聞いてください。「移らないものはどれか」「旧システムを何年残す必要があり、いくらかかるか」。

〔待機期間の追加コスト〕に入るものは3つです。

  1. 現行システムの保守延長費。保守切れを1年延ばすと、延長料金が乗ることがあります
  2. 加算の取りこぼし。ここが効きます
  3. 不採択・枠切れのリスク。補助金は一般に予算枠があり、申請が上限に達すれば締め切られます。要求どおりに通っても、待った末に取れない可能性は残ります

(もう1つ「移行が集中する時期に当たるリスク」もありますが、これは円で表せません。上の計算が拮抗したときに、待たない側へ倒す判断材料として使ってください。)

2つ目を数字にします。ただしその前に加算の構造を押さえないと、試算が倍ずれます。

令和8年度改定で新設された電子的診療情報連携体制整備加算は、初診時で加算1が15点、加算2が9点、加算3が4点です [8]。差は施設基準の積み上げで決まります [11]。

区分初診時施設基準
加算34点基本要件 (1)〜(8) のみ
加算29点(1)〜(8) + (9)〜(11) のいずれか1つ
加算115点(1)〜(8) + (9)〜(11) のすべて

基本要件 (1)〜(8) には、算定月の3月前のレセプト件数ベースのマイナ保険証利用率30%以上が入っています [11]。3区分共通の入場券で、ここを外すとどの区分も算定できません。(9)〜(11) の中身はこうです [11]。

  • (9) 電子処方箋: 電子処方箋を発行する体制、又は調剤情報を電子処方箋管理サービスに登録する体制

  • (10) 電子カルテ: 「安全管理ガイドライン準拠+電子処方箋管理サービス接続IF+電子カルテ情報共有サービス接続IF」の全て又は厚生労働省が認証する電子カルテ製品であること

  • (11) 診療情報の活用: 「」を満たすか、「イ及びウ」を満たすこと

    • : 国等が提供する電子カルテ情報共有サービスにより取得される診療情報等を活用する体制
    • : 一定要件を満たす地域の連携ネットワークの活用 (参加保険医療機関10以上・うち診療情報を開示している病院2以上/登録患者1,000人以上または新規年間100人以上/運営主体が連携医療機関名と登録患者数をウェブ公表)
    • : 診療情報提供料(Ⅰ)の検査・画像情報提供加算又は電子的診療情報評価料の施設基準を届け出ていること、かつ、ネットワーク参加と共有実績のある医療機関名を院内に掲示していること

    地域ネットワークの経路を採るなら、イとウの両方が要ります。参加しているだけでは足りません。

つまり電子カルテを入れ替えても、電子処方箋の体制がなければ加算2止まりです。運用開始済の割合を施設種別で見ると、薬局85.5%に対し医科診療所22.1%、病院15.3% (いずれも2025年9月21日時点、当時の全施設種別の平均は35.3%) [13]。直近の全施設種別では41.9% (2026年7月時点) まで伸びていますが [9]、この平均は薬局が押し上げた数字で、診療所の実像ではありません。診療所は、空いているほうがまだ多数派です。

そのうえで、自院の現在地から差額を出してください。

  • いま加算3 を届け出ている → 加算1との差は11点、初診1件110円
  • いま加算2 を届け出ている → 差は6点、初診1件60円
  • いま何も届け出ていない → 差は15点、初診1件150円

加算3から加算1に上げる場合、初診が月100件の診療所なら月11,000円、年間13.2万円。月200件なら年間26.4万円。これは医療機関の収入ベースで、患者から見た窓口負担の増加は差額の3割、つまり33円です。なお再診時の加算は区分によらず一律2点なので、この差は初診にしか効きません(有床診療所では入院初日にも加算1が160点、加算2が80点あり、差はさらに開きます [8])。

電子的診療情報連携体制整備加算の3区分を左から右へ上がる3段の階段で示し、各段の上に積まれた立方体の数 (0個・1個・3個) で満たすべき施設基準の数を表した図。画像内に数値は入れていない
図 4: 加算は 3 階建て。段の上の立方体が施設基準 (9) 電子処方箋・(10) 電子カルテ・(11) 診療情報の活用に対応し、加算3 は基本要件のみ (立方体 0)、加算2 はそのうち 1 つ、加算1 は 3 つすべてを満たす。初診時の点数は加算3 が 4 点、加算2 が 9 点、加算1 が 15 点で、加算3 から加算1 に上げると初診 1 件あたり 110 円、加算2 からなら 60 円、未届出からなら 150 円の差になる (点数は告示第69号 [8]、施設基準は保医発0305第7号 [11]、差額の試算は編集部)

そして、ここが一番大事なところです。この待機コストは避けられます。

加算の施設基準と認証制度は別の制度です。(10) は「安全管理ガイドライン準拠+2つの接続IF」の全てを満たせばよく、認証製品はその代わりの選択肢にすぎません [11]。(11) も地域医療情報連携ネットワーク経由で満たせます (ただし前述のとおりイとウの両方が要ります)。つまり現行のオンプレ型のままでも、要件を満たせば加算1は届け出られます。個別の可否は届出先の地方厚生 (支) 局が判断するので、自院の構成で満たせるかは事前に確認してください。

しかも (10) には経過措置があります。「1の(10)のウについては、当面の間に限り、当該基準を満たしているものとみなす」[11]。ウは電子カルテ情報共有サービスとの接続インターフェースなので、当面は ア (安全管理GL準拠) と イ (電子処方箋管理サービス接続IF) があれば (10) は満たせます。ただし通知は「速やかに導入するように努めること」とも書いており、恒久的な免除ではありません。

選択肢は3つあります。

  1. 待つ — 更改を補助の窓に合わせる
  2. 今更改する — 補助を諦めて今入れ替える
  3. 今のシステムのまま加算1を取りに行き、更改だけ補助の窓に合わせる

ただし3にも先立つ費用があります。上の式の E です。中身は、電子処方箋を入れていなければその導入費、(10) の接続インターフェース対応、(11) の体制整備。電子処方箋が未導入なら、ここが一番大きい。しかも22億円の枠は「すでに電子処方箋を導入している施設が機能追加した場合」の補助として要求されているので [1]、新規導入はこの枠の外です。

ただし別の補助はあります。医療情報化支援基金 (ICT基金) による電子処方箋の導入補助で、令和7年10月以降に導入した施設も対象、院内処方機能も補助対象に加わりました。ただし補助対象とする導入期限は令和8年9月までです [13]。

問題はその先です。厚労省の資料はこう書いています。

「令和8年10月以降の補助の取扱いについては、令和8年夏までにとりまとめられる電子カルテ/共有サービスの普及計画を踏まえて、電子処方箋と電子カルテ/共有サービスが一体的に導入が進むよう、改めて補助の取扱いを検討する。」([13])

つまり電子処方箋の補助の去就は、この記事が追っている934億円と同じテーブルで決まります。なお「延長を最後とする」と明言されているのは薬局についてのみで、医療機関は再検討の対象として残されています [13]。

3を検討せずに1と2だけで悩んでいる診療所は、選択肢を1つ取りこぼしています。E が上の回収年数で見合うなら、更改を待ちながら加算だけ先に取りに行けます (見立て)。

私はこの構図を、「待てば半額」ではなく、更改期が補助の窓に自然に重なる診療所は運がいい、と読んでいます (見立て)。前倒しでも後ろ倒しでもなく、自然な更改期がどこに来るか。それが実際の分かれ目です。

——ここまでを自院に置き換えると、来週やることは1つです。保守契約書の満了日と、いま届け出ている加算の区分を並べて確認する。この2つが揃えば、1・2・3のどれを取るかは自分で決められます。


落とし穴は5つある

見積書を判断する前に、踏みやすい穴を並べます。

1. これは予算ではなく「要求」です。 9月4日に公表されたのは各省が財務省に出した要求であり、額も補助率も要件も、年末の予算編成で変わりえます [2]。閣議了解された概算要求基準が7月30日 [10]、その先に政府案の閣議決定と国会での成立が控えています。ベンダーが「国の補助が出ますから」と前提に置いた見積りを持ってきたら、その補助が予算段階のどこにあるかを聞いてください

2. 認証製品はまだ1つもありません。 認証の審査は令和8年度冬頃に始まる想定、認証期間の開始は令和9年度早期からとされています [3]。標準仕様書自体は2026年3月31日に第1.0版が公示済みなので [6]、スケジュールに実体はあります。

ここで一点、読み違えやすい猶予があります。審査項目のうちセキュリティ認証 (ISMAP、又はISMS及びISMSクラウドセキュリティ) の遵守項目については、「2027年6月末までの間は適用せず、推奨項目として取り扱う」とされています [3]。これはベンダー側への緩和で、最初の認証製品が出るのをむしろ早める方向に働きます。裏を返せば、猶予期間中に認証された製品は、セキュリティ認証をまだ取っていない可能性があるということです (審査時には取得計画の提出が求められています [3])。早く出てきた製品ほど、ISMAP または ISMS の取得状況を個別に確認してください。

なお、認証制度の具体的な設計は「2026年夏までに検討」とされていましたが [3]、本稿執筆時点で確定版は公表されていません。

3. 標準型電子カルテ「導入版」は、電子カルテではありません。 ここが最も誤解されている点です。厚労省の資料は、開発中の「導入版」を 国の医療DX対応機能に限定したものと説明し、こう書いています。

紙カルテや現行の電子カルテの業務はそのままに、国の医療DXに対応できるようになります。」([3] p.5-6。完成目標は2026年度中)

同じページの図には「診療録は紙カルテに記載」と注記されています。導入版は紙カルテを電子カルテに置き換えるものではなく、紙カルテのまま医療DXの配管につなぐアプリです。93億円の補助対象も「機器購入・設置経費等」で、カルテ本体の置き換え費用ではありません [1]。

「国から無料の電子カルテが配られる」という理解で待っている先生がいたら、来るものが違います。

紙カルテはそのまま残り、その横に立つ導入版アプリが電子カルテ情報共有サービス・電子処方箋・外注検査データとつながる構造図
図 5: 標準型電子カルテ「導入版」が置き換えないもの。診療録は紙カルテのままで、導入版は医療DXへの接続を担う (出典: 厚労省医政局「電子カルテの普及について」[3] p.5-6 を基に編集部作成)

4. 「パッケージ版」と「認証製品」は別の枠です。 パッケージ版は国が指定する製品群で、補助額は「登録されるパッケージ版製品の対象医療機関規模ごとに設定」と書かれています [1]。1/2という記載はここにはありません。認証製品の1/2補助とは別勘定なので、ベンダーの説明がどちらの枠を指しているかを確認してください。

5. カルテだけを替えることはできない場合があります。 パッケージ版の要件の1つが「ノンカスタマイズであること」[1]。長く使っているシステムほど、院内フローに合わせた作り込みが積み上がっています。加えて診療所の多くはレセコン一体型で、カルテだけを差し替えられません。見積りを取るときは、金額より先に「いま使っているカスタマイズのうち、何が捨てられないか」「レセコンも同時に替わるのか」を洗い出してください。

——ここまでを自院に置き換えると、次の面談でやることは1つです。ベンダーに5つを順番に聞く。予算段階、認証申請の予定、導入版との関係、パッケージ版か認証製品か、カスタマイズとレセコンの引き継ぎ範囲。この5問に淀みなく答えるベンダーは、少なくとも制度を追っています。


2028年改定への布石

最後に、この先の話をします。補助金は一過性ですが、認証制度は残るからです。

そして実は、認証は既に点数側に接続されています。令和8年度の電子的診療情報連携体制整備加算1の施設基準は、電子カルテ要件 (10) の選択肢の1つとして「エ 厚生労働省が認証する電子カルテ製品であること。」を挙げています [11]。認証製品がまだ存在しないため今は使えない選択肢ですが、器のほうが先に用意されている。

しかも認証制度のたたき台 [3] には、長期運用の設計図が付いています。標準仕様は年次更新され、ver1.0、ver2.0、ver3.0 と版が上がる。そして版の適用時期が、診療報酬改定のタイミングに合わせて配置されています。図には「適用より半年以上前に仕様を公示」と書かれ、改定年度と版の適用年度が噛み合う形で並んでいます。

これは偶然の並びではありません。

点数側からの圧力は前回の改定から始まっていました。令和6年度改定で新設された医療DX推進体制整備加算 (8点) は、施設基準に「電子カルテ情報共有サービスを活用できる体制を有していること」を置いていました (当初は令和7年9月30日までの経過措置つき) [7]。令和8年度改定で新設された電子的診療情報連携体制整備加算では、加算1に(9)〜(11)の全てが課されています [11]。

補助金で背中を押し、施設基準で足元を固める。両側から挟む形が、すでに出来上がっています。

標準仕様ver1.0の公示から認証審査・認証期間開始までの流れと、2年周期の診療報酬改定が噛み合って回る2段のタイムライン図
図 6: 認証制度と診療報酬改定の噛み合わせ。標準仕様 ver1.0 は 2026-03-31 公示済 [6]、認証審査は令和8年度冬頃、認証期間は令和9年度早期から開始の想定 (出典: [3][6] を基に編集部作成)

編集部の先読み — 令和10年度 (2028年度) 改定では、認証製品が「選択肢の1つ」から外せない要件へ格上げされる可能性があるとみる。根拠: 認証制度のたたき台が版の適用を改定サイクルに合わせて設計しており [3]、令和8年度時点で既に認証製品が加算1の施設基準の選択肢に入っている [11]。

もう1つ、見落とされている変化があります。骨太2026には、改定サイクルの外で点数を動かす含みが書かれています。

その際、経済・物価の動向が2026年度診療報酬改定時の見通しから大きく変動し、医療機関等の経営状況に支障が生じた場合には、令和9年度予算編成過程で診療報酬上の加減算を含む更なる必要な調整を行う。」(骨太の方針2026 [4])

つまり、次に点数が動くのは必ずしも2028年度ではありません。今年度末の予算編成過程が、その機会になりえます。

編集部の先読み — 電子カルテ関連の補助と、この期中調整は、年末の同じテーブルで議論される可能性がある。補助額の確定を追うなら、12月の予算編成のニュースを見ておけばよいとみる。根拠: 骨太2026 が調整の場を「令和9年度予算編成過程」と特定しており [4]、概算要求も同じ令和9年度予算のプロセスに乗っている [2]。

ここまでは資料で言えます。ここから先、認証が実際に必須要件になるかどうかは、令和10年度改定の議論が始まらないと分かりません。中医協で電子カルテの認証が議題に上がったら、そのときが読み時です。

——ここまでを自院に置き換えると、この秋やることは1つです。12月の予算編成のニュースを追う。見るべきは2つで、電子カルテ補助の上限額と、電子処方箋補助の令和8年10月以降の扱いです。


おわりに——「待てる」は逆算で決まる

934億円のうち診療所に効くのは604億円。認証製品への乗り換えとデータ移行に1/2補助が要求されていますが、上限額は未公表で、認証製品はまだ存在せず、そもそもこれは予算ではなく要求です。

先生が今日決める必要はありません。ただし「待てる」の意味は、保守満了日から逆算して考えてください。

補助金は一般に、交付決定の前に発注・契約すると対象外になります。今回の補助の要綱はまだ示されていないので着手時期の扱いも未確定です。そのうえで、令和9年度予算の成立は例年どおりなら2027年3月末、そこから公募・交付申請・交付決定を経て発注、入替そのものに3〜6か月 (筆者見立て)。認証製品の側も、審査開始が令和8年度冬頃、認証期間の開始が令和9年度早期 [3]。最初の製品が並ぶのと、補助の交付決定が下りるのが、どちらも2027年度の途中という見立てです。

逆算すると、「待つ」が素直に成立するのは、保守満了が2028年春以降の診療所です。2027年中に満了する診療所は、待つのではなく「1年の保守延長を先に確保して、その間に補助の窓を待つ」という組み立てになります。そして満了がもっと手前なら、3つ目の選択肢——今のシステムのまま加算1を取りに行く——が効いてきます。

クリニックAIラボは、この認証制度と補助の行方を、予算編成・認証審査の開始・最初の認証製品の公表という3つの節目で追い続けます。制度は動きますが、先生の判断材料は「保守契約の満了日」と「いまの加算の区分」から動きません。この2つを起点に読んでいただければ十分です。


参考文献

  1. 厚生労働省「医療DXの推進(主な令和9年度予算概算要求事項)」令和8年8月作成・令和8年9月4日公表 https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/27syokan/dl/gaiyo-15-2.pdf (2026-09-07 取得)
  2. 財務省「令和9年度予算」(概算要求基準の閣議了解 令和8年7月30日/各府省の概算要求 令和8年9月4日)https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/budget/fy2027/index.html (2026-09-07 取得)
  3. 厚生労働省医政局医療情報担当参事官室「電子カルテの普及について」第33回 健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ 資料3、2026年6月26日 https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001716052.pdf (2026-09-07 取得)
  4. 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026」令和8年7月21日 閣議決定 https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2026/decision0721.html (2026-09-07 取得)
  5. 医療DX推進本部「医療DXの推進に関する工程表」令和5年6月2日 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/iryou_dx_suishin/pdf/suisin_kouteihyou.pdf (2026-09-07 取得)
  6. 厚生労働省医政局・保険局/デジタル庁「医科診療所向け 電子カルテ及びレセプトコンピュータ 標準仕様書(基本要件)【第1.0版】」令和8年3月31日 https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001683925.pdf (2026-09-07 取得)
  7. 中央社会保険医療協議会 総会 総-2-1「医療DX推進体制整備加算等の要件の見直しについて」令和7年7月23日 https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001521280.pdf (2026-09-07 取得)
  8. 令和8年厚生労働省告示第69号 別表第一 医科診療報酬点数表 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001686842.pdf (2026-09-07 取得)
  9. デジタル庁「医療DXダッシュボード」公開データ(2026年8月14日版CSV)https://www.digital.go.jp/resources/govdashboard/healthcare-dx (2026-09-07 取得)
  10. 財務省「令和9年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」令和8年7月30日 閣議了解 https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/budget/fy2027/sy260730a.pdf (2026-09-07 取得)
  11. 厚生労働省保険局医療課「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」令和8年3月5日 保医発0305第7号 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001732097.pdf (2026-09-07 取得。第1の8「電子的診療情報連携体制整備加算及び電子的歯科診療情報連携体制整備加算」)
  12. 独立行政法人中小企業基盤整備機構「デジタル化・AI導入補助金2026」(旧 IT導入補助金、中小企業庁 補助事業) 公式サイト https://it-shien.smrj.go.jp/ (2026-06-13 確認。医療法人・個人開業医とも対象、通常枠は補助率1/2以内。登録ITツール・登録IT導入支援事業者の経由が前提)
  13. 厚生労働省医薬局総務課 電子処方箋サービス推進室「電子処方箋の普及・活用拡大に向けた対応状況」第5回電子処方箋推進会議 資料1、令和7年9月29日 https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001569995.pdf (2026-09-07 取得。施設種別の運用開始割合は令和7年9月21日時点)
  14. 地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律 (平成元年法律第64号) 第12条の3第4項 https://laws.e-gov.go.jp/law/401AC0000000064 (2026-09-07 取得。令和7年法律第87号による新設、2026年4月1日施行)