電子処方箋は義務なのか、いつまでに入れるのか
電子処方箋に法的な義務も年限もありません。2025年3月の目標は未達に終わり、国は電子カルテと一体で入れる方針に張り直しました。薬局91%・診療所31%の非対称、9月で区切られる補助、回収年数の計算式から、自院の入れどきを一次資料で整理します。
執筆・監修 クリニックAIラボ 編集長(現役内科医)

- 公開
- 2026-09-16
- 更新
- 2026-09-16
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- PMID 5 件
目次Index
はじめに——「うちも、そろそろ義務ですか」
「電子処方箋は、いつから義務になるのか」。近所の薬局はもう対応しているのに、自院はまだ紙のまま。そう感じている院長は少なくないはずです。
結論から言うと、電子処方箋の発行に法的な義務はありません。
国は2025年3月までに概ね全ての医療機関・薬局への導入を目指していましたが、達成されませんでした。いまの目標に年限は付いていません [1]。ただし、導入費の補助には期限があります。2026年9月30日までにシステムの環境整備を完了した分が対象で、10月以降の扱いはまだ決まっていません [2][3]。
一方で、数字の差は開いています。2026年8月時点で電子処方箋の運用を開始した薬局は91.4%、医科診療所は31.2%です [4]。受け取る側はほぼそろい、出す側の診療所だけが3割にとどまっています。
義務でも期限でもないなら、何を基準に入れる時期を決めればよいのか。答えは法律の条文ではなく、自院の電子カルテの予定表にあります。この記事では、それを一次資料で確かめていきます。加算の区分そのものは電子的診療情報連携体制整備加算の解説で扱っています。
発行の義務はなく、国の期限もない
では、法律は電子処方箋をどう書いているのか。仕組みの根拠は医師法ではなく、医療介護総合確保法にあります。
医師又は歯科医師は、患者又は現にその看護に当たっている者の求めに応じて、(中略)処方箋(中略)の交付に代えて、支払基金又は連合会に対し、(中略)当該処方箋を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法(中略)により提供することができる。[5]
主語は医師で、述語は「することができる」です。医療機関に課されているのは、電子処方箋を出せる「体制の整備に努める」こと (第38条) までで、努力義務にとどまります [5]。
処方箋を定める省令にも規定はありません。処方箋の様式は療担規則第23条が、記載事項は医師法施行規則第21条が定めています。どちらにも、電子処方箋の発行を求める条文はありません。編集部で両省令の全文を「電子処方」で検索したところ、該当は0件でした [6]。
患者が選べることも、通知に明記されています。
フリーアクセス確保のため、患者が電子処方箋に対応していない薬局で調剤を受けることを希望する場合や電子処方箋を望まない場合には、紙の処方箋を交付する。[7]
電子処方箋を入れた診療所でも、紙の処方箋は出し続けることになります。
目標は一度、未達に終わった
2023年6月の医療DX工程表は、期限をこう書いていました。
2025 年3月までに、オンライン資格確認を導入した概ねすべての医療機関・薬局に導入することを目指して必要な支援を行う。[8]
この目標は達成されませんでした。厚労省の推進チームは2025年7月1日の資料で、2025年6月時点の運用開始は「薬局は8割を超えて」いる一方、「医療機関への導入は1割程度に留まる」と整理しています [1]。そのうえで、新しい目標を次のように置きました。
患者の医療情報を共有するための電子カルテを整備するすべての医療機関への導入を目指す [1]
この一文には、年も月もありません。
「2030年」という数字をよく見かけますが、これは電子カルテの期限です。工程表は電子カルテについて「遅くとも2030年には概ねすべての医療機関において(中略)電子カルテの導入を目指す」としています [8]。2026年4月に施行された改正総合確保法も、政府に対し「令和十二年十二月三十一日までに、電子カルテの普及率(中略)が約百パーセントとなることを達成する」よう求めました [5]。対象は電子カルテで、義務を負うのは政府です。個々の診療所に電子処方箋の期限を課す条文ではありません。
私がこの章でいちばん大事だと考えるのは、「2030年」がどの条文の数字かを分けることです。電子カルテの期限と電子処方箋の期限が1つの話として語られると、自院の判断の起点がずれるからです。
| 旧目標 (2023年6月) | 新目標 (2025年7月) | |
|---|---|---|
| 対象 | オンライン資格確認を導入した概ねすべての医療機関・薬局 | 患者の医療情報を共有するための電子カルテを整備するすべての医療機関 |
| 期限 | 2025年3月 | なし |
| 導入の進め方 | 全国的な普及拡大 | 電子カルテ/共有サービスと一体的に導入 |
1年で何が変わったか
現在地は、デジタル庁のダッシュボードで毎月更新されています。分母はオンライン資格確認を導入した施設、分子は運用開始日を入力してその日を過ぎた施設です [4]。
| 施設種別 | 2025年9月 | 2026年8月 |
|---|---|---|
| 薬局 | 85.9% | 91.4% |
| 医科診療所 | 22.5% | 31.2% (25,931施設) |
| 病院 | 16.1% | 21.4% |
| 歯科診療所 | 6.4% | 11.5% |
医科診療所は約1年で約7,200施設増えました [4]。それでも、薬局との差は60ポイントあります。先生の処方箋を受けている近隣の薬局に、電子処方箋をもう運用しているか聞いたことはあるでしょうか。

処方箋そのものの電子化は、さらに手前にあります。2026年6月に薬局が受け付けた電子処方箋は640,705件でした。同じ月に薬局が登録した紙の処方箋のデータは63,968,921件です [9]。電子の割合は約1%です (電子処方箋を導入した薬局の登録分を分母にした、編集部の算出)。
——ここまでを自院に置き換えると、次に営業を受けたときにやることは1つです。「期限があるので」と言われたら、その期限の出典を聞く。国が指定したのは期限ではなく、電子カルテと一緒に入れるという入れ方でした。だから自院の入れどきは、電子カルテの予定表から決まります。
国はなぜ目標を張り直したか
期限を外したのは、国が電子処方箋をあきらめたからでしょうか。資料を順に読むと、そうではないことが分かります。変わったのは「どこから埋めるか」の順番です。
受け手を先にそろえた
電子処方箋は、薬局が受け取れなければ出しても使えません。日医総研が2024年秋に、日本医師会会員の診療所を調べています (回答4,454施設) [10]。導入済みなのに運用していない施設に理由を聞くと、最多は「地域の薬局や医療機関が未運用」で44.4%でした。同じ調査で、実際に運用していた診療所は4.6%です [10]。
2年後、薬局側はほぼ埋まりました。導入率は91.4%です [4]。厚労省は2026年7月23日、導入した薬局に対して、調剤結果の速やかな登録と、調剤ごとに原則1回以上の重複投薬等チェックを求める通知を出しています [11]。重複投薬等チェックとは、他院の処方との重複や併用禁忌がないかを、電子処方箋管理サービス上で照合する機能です。受け手の側では、「入れる」の次の「使う」の段階に進んでいます。
この順番は日本だけのものではありません。イングランドの電子処方サービス (EPS) は、全国展開に2003年から2015年までの13年余りを要しました。2016年初めの導入率は、地域薬局98%に対し、GP診療所 (かかりつけ医の診療所) 78%でした [12]。薬局が先に埋まり、処方する側が後から追いつく形は、英国でも同じだったと報告されています。
出し手は更新に合わせる
では、出す側の診療所はどう埋めるのか。2025年7月の推進チーム資料は、理由をこう書いています。
電子カルテが既に導入されていたとしても、改修費用が一定かかることから、医療機関に過度な負担が生じないよう、電子カルテの更新期間(5~7年)の希望するタイミングで、電子カルテ情報共有サービスへの対応とともに一体的に導入を促すことが肝要である。[1]
同じ資料は、電子カルテを未導入の医療機関については「電子処方箋機能を実装する標準型電子カルテの導入もしくは電子カルテ情報共有サービスに対応したクラウド型電子カルテとの一体的な導入を促進」するとしています [1]。
推進チームの資料の理屈に沿えば、日付の期限を置くと、更新時期が来ていない診療所にも単独の改修費を払わせることになります。更新期間に合わせれば、改修はもともと予定していた投資の中に入ります。私は、目標から年限が消えたのは後退ではなく、期限を診療所ごとの更新周期に付け替えた変更だと読んでいます (見立て)。未達の目標から年限を外したことで、進みの遅さを測る物差しがなくなった、とも読めます。どちらの読み方でも、診療所から見た結論 (更新時期に合わせる) は変わりません。

なぜ電子処方箋なのか
国が電子処方箋にこだわる理由は、紙を電子にすること自体ではありません。電子処方箋管理サービスに処方と調剤の情報が集まり、他院の処方との重複や併用禁忌を照合できるようになることです。運用通知は、紙の処方箋の場合も処方情報を登録するよう求め、その理由をこう書いています。
重複投薬又は併用禁忌の確認に当たっても、登録されていない処方・調剤結果があれば効果は減少してしまう [7]
照合すると、どれくらい見つかるのか。山形県酒田地域では、電子処方箋の前から地域で調剤情報を共有していました。その事例では、同一成分の重複が調剤の行数ベースで13.0% (2019年) ありました [13]。1地域の記述データで、比較対照はありません。言えるのは「突き合わせれば1割前後の重複が見える地域があった」ところまでで、電子処方箋の効果を示す数字ではありません。
海外の研究は、効果の数字をもう少し出しています。ただし、読むときに注意が要ります。
米国ニューヨーク州の開業医12診療所で、電子処方を始めた医師15人と紙のままの医師15人を前向きに比べた研究があります [14]。導入1年でエラーは、電子処方の医師で100処方あたり42.5件から6.6件に減り、紙のままの医師は37.3件から38.4件で変わらなかったと報告されています。非ランダム化で、医師は30人です。この42.5件と6.6件に判読不能は含まれていません (判読不能は別に数えられ、導入後はゼロ)。減ったエラーの中心は不適切な略語などの記載の不備で、患者の害 (予防可能な有害事象) は件数が少なく、減ったとは示せていません。
一方、2008年の米国で、外来の薬局が4週間に受け取った電子処方箋3,850枚を調べた研究があります [15]。11.7%にエラーがあり、システムによって5.1%から37.5%まで開きがあったと報告されています。
電子処方の効果として最もよく引かれる「エラーが約半分」は、米国の病院の入院処方を、手書きの指示と比べたメタ解析の数字です [16]。
データの読み方 — 「電子化でエラー半減」は、どの比較の数字か
上で見たメタ解析は、病院の入院処方を手書きと比べたものでした。日本の診療所はすでに電子カルテやレセコンで印字した処方箋を出しているので、「手書き→電子」で消える判読不能のエラーは、多くが残っていません。日本の電子処方箋の価値は判読ではなく、他院の処方との照合にあります。そして、日本の電子処方箋を入れた前後で処方エラーや有害事象が変わったかを比べた研究は、編集部が調べた範囲では見つかりませんでした。
先生が受け取った提案資料の「エラー半減」は、何と何を比べた数字だったでしょうか。
——ここまでを自院に置き換えると、次の設備投資の打ち合わせでやることは1つです。電子カルテ更新の仕様書の案に、電子処方箋への対応を1行入れておく。電子処方箋は、電子カルテの更新と同じ投資計画に載せる前提で設計されています。更新と一緒に入れれば、改修費を別に払わずに済みます。
入れどきは3つの問いで決まる
義務も期限もないなら、判定の軸は自院の側にあります。推進チームの資料は、電子カルテの有無で入れ方を分けています [1]。これに更新の時期と処方の形を加え、3つの問いに整理しました。私は、3つのうち判断をいちばん大きく動かすのは問い2の更新年だと読んでいます (見立て)。次章で見るとおり、補助なしの回収期間が更新周期とほぼ重なるからです。
問い1 電子カルテはあるか
ない場合。国の想定は、電子処方箋を単独で入れることではなく、電子カルテとの一体導入です [1]。厚労省は、無床診療所向けの標準型電子カルテを開発しています。そのうち国の医療DX対応の機能に絞った「導入版」は、2026年度中の完成が目標です。導入版は診療録を紙カルテに書いたまま、電子処方箋の発行などができる設計です [17]。令和9年度の概算要求には、導入版を使う医科診療所の機器購入・設置経費の支援 (定率、上限あり) が盛り込まれています [18]。
紙カルテの診療所に国が示している道は2つあります [1]。1つは、電子処方箋機能を持つ標準型電子カルテ (無床診療所向けは上の導入版) の完成と補助の確定を待つ道。もう1つは、電子カルテ情報共有サービスに対応したクラウド型電子カルテと一体で入れる道です。導入版はまだ開発中で、補助も概算要求の段階です [17][18]。紙カルテのまま続けたいなら前者、電子カルテ化そのものを検討しているなら後者が、国の想定に沿います (見立て)。
ある場合は、問い2へ進みます。
問い2 次の更新まで何年か
2年という線は、仕様の検討と発注にかかる期間を見込んだ編集部の目安です。
- 2年以内: 更新の仕様書に「電子処方箋管理サービスとの接続」「電子カルテ情報共有サービスへの対応」を条件として書き込み、一体で入れる。推進チームの資料が描く入れ方そのものです [1]
- 2年を超える: 単独で入れるかどうかを、次章の電卓で判断する。改修費を先に払う価値があるかは、自院の初診数・加算の区分・保守費で決まります
なお、すでに電子カルテ情報共有サービスに対応している医療機関には、資料は「電子処方箋単独の導入を促進」するとしています [1]。
問い3 処方は院外か、院内か
院外処方が中心なら、電子処方箋に医師の電子署名が要ります。まず、医師ごとにHPKI (医師資格を証明する電子証明の仕組み) の電子署名を申請します。そのうえで、HPKIカードで署名するか、HPKI電子署名と紐づけたマイナンバーカードやスマートフォンで本人認証するかを決めます [3]。
院内処方が中心なら、話が変わります。2025年1月から、院内で調剤した薬の情報を電子処方箋管理サービスに登録できるようになりました (2026年4月に本格運用) [19][18]。院内処方の情報は処方箋ではないため、登録に電子署名は要りません [7]。院内処方の登録の範囲では、HPKIカードを持たずに始められます。
点数が動くかを先に確かめる
判定の前に、点数が動くかどうかを確かめます。電子的診療情報連携体制整備加算 (初診時) は、共通の土台 (通知の(1)〜(8)) だけなら加算3 (4点) です。加算2 (9点) は土台に加えて(9)〜(11)のいずれか1つ、加算1 (15点) はすべてを求めます [20]。
| 通知の番号 | 内容 (要約) |
|---|---|
| (9) | 電子処方箋を発行する体制、又は調剤情報を電子処方箋管理サービスに登録する体制 |
| (10) | 安全管理ガイドライン準拠・電子処方箋管理サービスと電子カルテ情報共有サービスへの接続インターフェースを持つ電子カルテ (又は認証を受けた電子カルテ)。※電子カルテ情報共有サービスとの接続は当面満たすものとみなす |
| (11) | 電子カルテ情報共有サービス等で診療情報を共有・活用する体制 |
(9)で求められる機能は、2023年1月から稼働している基本機能 (発行・応需、閲覧、重複投与・併用禁忌のチェック) で足ります [21]。
電子処方箋は、加算2への3つの道のうちの1つです。すでに(10)か(11)で加算2を算定している診療所では、電子処方箋を入れても加算1の残り要件がそろわない限り、点数は動きません。区分を変えるときは、様式1の6での届出が要ります [20]。
オンライン診療をしている診療所には、別の上乗せがあります。2026年度改定で新設された遠隔電子処方箋活用加算は、情報通信機器を用いた医学管理等の際に電子処方箋を発行した場合、月1回10点です [22]。算定には地方厚生局への届出 (様式1の4) と、電子処方箋に対応していることのウェブサイトへの掲示が必要です [23]。

先生の診療所の電子カルテは、いつリース満了か保守契約の更新を迎えるでしょうか。
——ここまでを自院に置き換えると、今月やることは1つです。電子カルテの次の更新年度を確かめ、問い2の「2年以内」か「2年を超える」かに振り分ける。2年以内なら、答えはもう出ています。2年を超えるなら、次の章の計算に進んでください。
回収に何年かかるか
単独で入れるかを決めるのは、費用と増収の割り算です。前提を隠さずに書くので、先生の診療所の数字に置き換えて検算してください。
補助は「令和8年9月までの導入」
電子処方箋の初期導入には、医療情報化支援基金による補助があります。診療所は事業額54.2万円を上限にその1/2、つまり最大27.1万円です。院内処方の機能を同時に入れる場合は、事業額71.7万円の1/2で最大35.9万円になります [24]。HPKIカードなどのカード取得費用は対象外です [24]。
期限について、厚労省の2026年7月の説明会資料はこう書いています。
現在、令和8年9月までの導入を対象に、初期導入費用の一部を補助しています。[3]
10月以降は「電子カルテ/共有サービスの普及計画を踏まえて(中略)改めて補助の取扱いを検討しています」とされ、9月16日時点で編集部は新しい扱いの公表を確認できていません [3]。
厚労省の試算を割り算する
厚労省のスターターキットには、医科診療所の「補助イメージ」が載っています [25]。
- 前提: 初診が平均月140人、電子処方箋への対応で電子的診療情報連携体制整備加算の区分が1つ上がる
- 導入費用50万円 (システム事業者により異なる)、補助25万円
- 運用費 月0.1万円
- 増収 想定で最大 月0.7〜0.84万円
増収の幅は、区分の上がり方の違いです。加算3→2なら5点差、加算2→1なら6点差で、140人×5点×10円=7,000円、140人×6点×10円=8,400円になります。
回収月数 = 実質の導入費 ÷ (月の増収 − 月の運用費)
= 実質の導入費 ÷ (月の初診数 × 点数差 × 10円 − 月の運用費)
編集部の試算は次のとおりです。
| 実質の導入費 | 月の手取り増 | 回収にかかる期間 | |
|---|---|---|---|
| 補助あり | 25万円 | 0.6〜0.74万円 | 約34〜42か月 (3〜3.5年) |
| 補助なし | 50万円 | 0.6〜0.74万円 | 約68〜84か月 (5年8か月〜7年) |
補助なしの回収期間は、推進チームの資料が示す電子カルテの更新期間「5~7年」とほぼ重なります [1]。
つまり補助がなければ、単独で入れた電子処方箋の改修費を回収し終えるころに、電子カルテ自体の更新が来ます。

前提がずれると、どう動くか
この試算は、条件の置き方で結果が動きます。3つずらしてみます。
1つ目は初診数です。初診が月70人の診療所なら、増収は半分の0.35〜0.42万円になり、補助ありでも回収に約6年半〜8年余りかかります。逆に月200人なら増収は1.0〜1.2万円になり、補助ありで約23〜28か月です (いずれも編集部の試算)。
2つ目は費用です。日医総研の2024年の調査では、電子処方箋を入れた診療所の導入費用は中央値35.0万円 (平均38.2万円) でした [10]。年間保守費の増額は、増額があった施設 (回答の約2割、n=114) で中央値4.0万円 (平均10.4万円) です。増額がなかった施設や不明の施設を含まないので、保守費は高めに出ている可能性があります。導入費は厚労省の想定 (50万円) より安く、保守費は月に直すと約0.33万円で、厚労省の想定 (運用費 月0.1万円) より高く出ています。両方を日医総研の中央値に置き換え、補助を導入費の1/2 (17.5万円) とすると、補助ありで約35〜48か月、補助なしで約69〜95か月です (編集部の試算)。安い導入費と高い保守費が打ち消し合い、補助ありの回収期間は厚労省の前提とあまり変わりません。保守費を高めに置いた場合の値です。
どちらの数字にも立場があります。日医総研の調査は日本医師会の会員が任意で答えたもので、厚労省の試算は普及を進める側の想定です。2024年時点の価格であることにも注意が要ります。
3つ目は点数です。前の章で見たとおり、すでに加算2を別の道で取っている診療所では、電子処方箋だけでは点数が動かないことがあります。この場合、増収はゼロです。
オンライン診療をしている診療所には、遠隔電子処方箋活用加算 (月1回10点) が加わります [22]。医学管理料等をオンライン診療で算定する患者に限られ、該当する患者が月20人なら月2,000円です (編集部の計算)。
厚労省の試算の「最大0.7〜0.84万円」は、初診の全員で加算が算定でき、区分が1段上がった場合の上限です。加算にはマイナ保険証の利用率30%以上などの共通要件があり [20]、満たさない月は算定できません。ベンダーの提案書で同じ種類の数字を見たら、①分母は初診の全員か、②区分は何から何に上がる前提か、③運用費を年いくらで置いているか、の3点を聞いてください。
先生の手元にある見積書には、保守費の年額が書かれているでしょうか。
点数は2028年度の改定で見直される可能性があります。それでも私は、「電子カルテの更新周期と重ねると改修費が浮く」という構造は改定をまたいでも残ると読んでいます (見立て)。
電卓に入れる数字は3つです。月の初診数、加算の現在の区分、見積の保守費の年額。この3つで回収月数が出ます。それが次の電子カルテ更新までの年数より長ければ、単独で急ぐ理由は、少なくともお金の面にはありません。
入れた後につまずく5か所
入れると決めた診療所がつまずきやすい場所は5つあります。私がいちばん大きいと読んでいるのは1つ目です (見立て)。加算も補助も体制で受け取れますが、重複や併用禁忌の照合は、登録された処方の分しか働かないからです [7]。
1. 入れたのに使っていない
厚労省の電子処方箋等検討ワーキンググループ (2026年7月1日) は、2026年3月までに運用を始めた施設の4月の実績を示しました。
令和8年3月以前に運用開始している施設のうち、電子処方箋管理サービスへの院外処方箋情報の登録実績がない医療機関の割合は、病院が23.7%、医科診療所が41.6%、歯科診療所が72.5%、調剤結果の登録実績がない薬局は8.5%。[26]
医科診療所では21,517施設のうち8,954施設が、4月の1か月間に院外処方の情報を1件も登録していませんでした。重複投薬等チェックの実績がない医科診療所は52.5%です [26]。
データの読み方 — 「導入率」の分子は何か
ダッシュボードの導入率の分子は、ポータルサイトで運用開始日を入力し、その日を過ぎた施設です [4]。「電子処方箋を実際に出している施設」ではありません。WGの41.6%は、その分子の中身を1か月の登録実績で開けてみた数字です。ただし、院内処方が中心の診療所は院外処方の登録がそもそも少ないので、41.6%のすべてが「放置」とは言えません。導入率31.2%は「入力した施設」の数で、「使っている施設」の数ではありません。

登録ゼロの中には院内処方が中心の診療所も含まれます。院外処方を出している診療所なら、入れた照合の仕組みにまだ処方が乗っていない状態です。電子的診療情報連携体制整備加算の施設基準 (9) が求めるのは「体制を有していること」です [20]。一方、遠隔電子処方箋活用加算の施設基準は一歩踏み込みます。院外処方では「原則として」電子処方箋を発行するか、紙で出す場合も処方情報を登録することを求めています [23]。この「紙で出して登録する」形が、次に見る引換番号付きの紙です。
2. 引換番号付きの紙は別物
電子処方箋を入れた診療所が紙で出すときは、処方情報を電子処方箋管理サービスに登録し、その処方とひも付く「引換番号」を印字した紙の処方箋を交付します [25]。処方が登録されるので、紙で出しても重複投薬等チェックは働きます [3]。
ただし、遠隔電子処方箋活用加算の算定要件は「電子処方箋(引換番号が印字された紙の処方箋を除く。)を発行すること」です [27]。算定には、患者の調剤先の薬局が電子処方箋に対応していることを事前に確かめることも求められています [27]。
さらに、電子処方箋に対応した診療所が引換番号の無い通常の紙処方箋を出すと、その処方は登録の対象になりません [3]。受付や診察室で「どちらの紙か」が混ざると、照合から漏れる処方が出ます。先生の診療所の受付では、引換番号の付いた紙と付いていない紙を、誰がどう見分けるでしょうか。
3. 電子署名の方式を先に決める
電子署名には、HPKIカードでその都度署名する「ローカル署名」と、事前の本人認証で1日程度自動で署名する「リモート署名」があります [3]。リモート署名の本人認証には、HPKIカード、HPKI電子署名と紐づけたマイナンバーカード、紐づけたスマートフォンの3通りがあります [3]。
費用の目安について、厚労省の資料は「端末数が少なければ少ないほど(診療所等)、ローカル署名の方が費用が低くなることがあります」とし、リモート署名は別途年会費がかかるとしています [3]。一方、リモート署名は1日程度まとめて自動で署名されるので、処方のたびにカードを扱う手間は減ります [3]。
カードが届くまで待つ必要はありません。HPKIカードが届いていない間も、引換番号付きの紙を出しながら重複投薬等チェックや閲覧の機能は使えます [3]。厚労省はこの段階的な移行を、運用に慣れる方法として示しています [3]。
4. マスタ設定を人任せにしない
電子処方箋では、一部の医療機関・薬局のシステム設定の不備で、薬局側に医師の処方と異なる医薬品名が表示される事案が起きました [28]。主な原因はダミーの医薬品コードです。厚労省は2025年8月28日、ダミーコードを登録できないようシステムを改修しました。点検結果を報告していない施設は、2026年1月11日を目途に接続を止めるとしています [28]。
通知は、マスタの設定作業をする人を限定し、ダブルチェックをするよう求めています [28]。これから導入する診療所も、点検結果の報告を添えて利用申請することになります [28]。ベンダーに任せきりにせず、誰がマスタを触り、誰が確認するかを院内で決めておいてください。
5. 補助の期限に駆け込む
補助は「令和8年9月までの導入」が対象です [3]。ポータルサイトの案内では、2025年10月1日から2026年9月30日までに電子処方箋管理サービスを使えるシステムの環境整備を完了させ、2027年3月31日までに申請したものが対象です。申請期限は申請の区分で異なる場合があるので、自院の区分の期限をポータルサイトで確かめてください。この「完了日」は、運用開始日と完全には同じではないと注記されています [2]。
10月以降の補助は、廃止とも継続とも決まっておらず、「改めて補助の取扱いを検討」している段階です [3]。令和9年度概算要求の電子処方箋の項目には、未導入の施設の初期導入補助は書かれていません [18]。ただし、この補助はこれまで基金で行われてきたので、概算要求にないことだけでは廃止とは言えません [24]。いま確定している補助は、9月までに導入する分だけです。
申請はベンダーへの支払いと領収書の受け取りの後なので、急ぐべきは申請ではなく環境整備の完了です [2]。9月30日までに完了できる見通しが立っている診療所にとっては、最大27.1万円 (院内処方の機能を同時に入れる場合は35.9万円) を受け取れる機会です [24]。一方、導入には準備、システム事業者への発注、導入・運用準備、補助金の申請という手順があります [3]。仕様が固まっていない診療所が期限に合わせるためだけに発注を急ぐと、1つ目と4つ目の落とし穴に入りやすくなります。
導入を決めた日にやることは1つです。「誰が、どの紙を、いつ登録するか」を受付・看護・医師で1枚の手順書にする。導入費はベンダーが見積もりますが、使われるかどうかは院内の手順で決まります。
次に動くのは電子カルテの計画
では、次に何が決まれば、自院の判断が変わるのか。待っている資料は2つあります。
1つは電子カルテ/共有サービスの普及計画です。推進チームは「2026年夏までに(中略)具体的な普及計画を策定する」としていました [1]。10月以降の電子処方箋の補助も、この計画を踏まえて検討するとされています [3]。9月16日時点で、編集部は計画の公表を確認できていません。先生の診療所の次の電子カルテ更新は、普及計画が出る前と後、どちらに来るでしょうか。
もう1つは令和9年度の予算です。概算要求で電子処方箋に充てた22億円は、システム改修や周知に加え、すでに電子処方箋を入れた施設が院内処方の機能を追加する費用の補助 (診療所1/2) です [18]。予算の重心は、標準型電子カルテ導入版の開発・普及 (93億円) など電子カルテの側にあります [18]。
米英は、何で押したのか
海外は、電子処方をどう広げたのでしょうか。
米国は、報酬の上乗せから始めました。2009年に、電子処方を使う医師へMedicare (高齢者向け公的医療保険) の報酬を2.0%上乗せしました [29]。2012年からは、使わない医師の報酬を減らす仕組みも加えています。減額幅は2012年1.0%、2013年1.5%、2014年2.0%と段階的に上がりました [30]。米国の保健ITの担当部局によると、電子カルテで電子処方をする医師の割合は2008年12月に7%でした [31]。2011年に24%、2014年4月に70%まで上がっています。
規制薬物の電子処方については、2018年の法律がMedicareの処方で原則として義務化しました (遵守の測定は2023年から) [32]。州のデータでは、2018年に規制薬物の電子処方を義務化していた州の利用率は69.4%、していない州は23.6%でした [33]。義務化した州がもともと進んでいた可能性もあり、義務化の効果そのものを示す数字ではありません。
英国は、法律ではなくGP診療所との契約で義務づけています (現在の標準契約)。標準契約は、電子処方サービスが使え、例外に当たらない場合には、処方者は電子処方箋を「作成し送信しなければならない (must create and transmit)」と定めています [34]。2016年には、患者があらかじめ薬局を指定していなくても電子で送れる改修 (Phase 4) が始まりました [35]。2024/25年度には、イングランドで調剤された処方品目の97%が電子処方サービス経由でした [36]。
| 普及を押したもの | 到達点 (定義が異なり比較不可) | |
|---|---|---|
| 米国 | 報酬の上乗せ・減額 + 電子カルテ導入補助 (Meaningful Use) → 2018年の法律で規制薬物を義務化 (適用はその後) | 医師の70% (2014年4月、義務化の前) |
| 英国 | GP診療所との標準契約で義務 + 薬局指定なしで送れる仕組み | 調剤された処方品目の97% (2024/25年度) |
| 日本 | 努力義務 + 導入補助 + 加算 + 電子カルテ更新との一体導入 | 医科診療所の31.2% (2026年8月、導入率) |

3つの数字は、分母が違うので横に並べて優劣は付けられません。表から読めるのは手段の違いです。米国では、報酬の上乗せが始まった後の2011年に24%、減額が始まった後の2014年に70%まで上がりました [31]。ただし同じ時期に電子カルテの導入補助 (Meaningful Use、米国の電子カルテ導入インセンティブ制度) が始まり、電子処方はその要件の1つでした [37]。報酬の増減だけの効果は、この数字からは切り分けられません。英国は契約上の義務に、薬局を指定しなくても送れる仕組みを重ねました。日本には、報酬を減らす仕組みも、契約や法律による発行の義務もありません。裏返すと、日本の普及の速さは電子カルテの更新周期より速くなりにくい、と私は読んでいます (見立て)。
編集部の先読み
2028年度の改定前後で、電子処方箋の要件が「体制を有していること」から「原則として登録していること」へ寄っていくとみる。発行の義務化ではなく、使っている診療所を評価する方向で、加算の要件に入ってくる可能性がある。根拠: 薬局にはすでに調剤結果の登録と原則1回以上のチェックが通知で求められ (2026年7月23日) [11]、医療機関側でも遠隔電子処方箋活用加算の施設基準に「原則として」登録する要件が入り [23]、WGは運用開始済の医科診療所の41.6%が1か月登録ゼロだったことを示している [26]。
次に動くのは、電子処方箋の制度ではなく電子カルテの計画と予算です。普及計画と令和9年度予算が出たら、自院の電子カルテ更新年度と並べて見直す。この記事の回収試算と今後の見通しも、その時点で更新します。
おわりに——電子カルテの更新年と並べて1行
電子処方箋の入れどきを決めるのは、法律の期限ではなく、自院の電子カルテの更新年です。法律上の義務も国の導入期限もなく、期限があるのは補助 (2026年9月30日までに環境整備を完了した分) だけです。国が指定したのは、電子カルテの更新と一緒に入れるという入れ方でした。薬局は9割がすでに受け取れる一方、診療所は3割で、運用を始めた診療所の4割は、1か月間に院外処方の情報を1件も登録していませんでした。
最初にやることは、設備投資の計画表で「電子カルテ更新」の行の隣に「電子処方箋・電子カルテ情報共有サービスへの対応」を1行並べることです。9月中に補助の条件を満たせる準備がすでに整っている診療所だけは、その前に環境整備の完了日を事業者と確かめてください。そのうえで、更新が2年より先なら「回収に何年かかるか」の章の計算式を使ってください。
10月以降の補助の扱いと電子カルテの普及計画が公表されたら、この記事の数字と判定を更新します。
参考文献
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- 厚生労働省. (2026). 令和8年度電子処方箋オンライン説明会 説明資料 (令和8年7月14日). https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001723369.pdf (2026-09-16 取得)(補助は令和8年9月までの導入分、署名方式、段階導入、導入の手順)
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- e-Gov法令検索. (2026). 地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律 (平成元年法律第64号). https://laws.e-gov.go.jp/law/401AC0000000064 (2026-09-16 取得)(第12条の2 電子処方箋の提供「することができる」、第12条の3第4項 電子カルテ普及率約100%の期限、第38条 体制整備の努力義務)
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- 厚生労働省. (2024). 電子処方箋管理サービスの運用について (令和4年10月28日付通知、令和6年12月18日最終改正) 別添. https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001185395.pdf (2026-09-16 取得)(患者が希望しない場合の紙の交付、院内処方情報の登録に電子署名は不要)
- 医療DX推進本部. (2023). 医療DXの推進に関する工程表 (令和5年6月2日). https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/iryou_dx_suishin/pdf/suisin_kouteihyou.pdf (2026-07-10 取得)(電子処方箋「2025年3月までに」、電子カルテ「遅くとも2030年」)
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