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AIスクライブは1日30分を返せるか——RCTと国内価格で検算

「1日30分返ってくる」は本当か。RCTと多施設研究の実測は1日2〜22分。それでも月2万円前後なら7分前後で元が取れるという試算です (自院での実測が前提)——院長の時間単価と国内7サービスの公開価格で、自院の損益分岐を出す式を示します。

執筆・監修 クリニックAIラボ 編集長現役内科医

夕方の診療所で、診察を終えた院長が時計と自動で整ったカルテ下書きを見比べ、浮いた時間を確かめているフラットイラスト
公開
2026-09-23
更新
2026-09-23
引用
PMID 14
目次Index

はじめに——「1日30分」は本当に返るか

「AI スクライブを入れると、1 日 30 分返ってくるって本当ですか」。7 月に米国の普及と日本の制度条件を書いて以来、同業の先生方からいちばん多く受けた質問がこれでした。ベンダーのサイトを開くと、「カルテ業務を 75% 削減」「カルテ作成時間の 90% を削減」と、もっと大きな数字も並んでいます [1][2]。

結論から言うと、査読研究で「平均して 1 日 30 分」を示したものは、今回調べた範囲では見つかりませんでした。1 日単位で実測した研究の削減量は、おおむね 2〜22 分です。米国 5 施設・外来の臨床医 8,581 名を追った最大規模の研究でも、8 時間の外来あたり、記録時間の削減は 16 分でした [3]。

ただ、話はここで終わりません。

30 分返ってこなくても、元が取れるかどうかは別の計算です。月 2 万円前後のサービスなら、院長の時間を年収の中央値から時給に直して数えると、1 日 7 分ほど返れば初年度の費用を回収できる計算になります (本文③の試算)。

この記事では、①浮いた時間がどこへ行くのかを外来の風景で整理し、②研究の実測値を「デザイン → 結果 → どこまで言えるか」で読み、③自院の数字を入れて損益分岐の分数を出す式を示し、④国内 7 サービスの公開価格でその式を検算します。日本の制度の現在地と「いつ来るか」の見立ては姉妹記事に譲り、本記事は「払う価値があるか」だけに絞ります。

浮いた時間はどこへ行くか

まず、「1 日 30 分」を外来の風景に置き直します。1 日 50 人を診る外来なら、30 分は 1 人あたり 36 秒です。診察後にカルテを書き足していた 36 秒が、患者さんごとに消える——それが 30 分の正体です。

では、その 36 秒の積み重ねはお金になるのでしょうか。

経営学には「機会費用」という考え方があります。ある時間やお金を別の使い道に回していたら得られたはずの価値で、そのものの値段を測る考え方です。AI スクライブの効果を円に直すときも、この考え方を使います。ただしクリニックでは、浮いた時間の行き先によって、価値の現れ方がまったく違ってきます。行き先は 3 つあります。

行き先 A: 診察枠を増やす。 浮いた時間で予約枠を足し、来院した患者さんを診れば、損益計算書 (PL) に載る収益になります。1 人増えるごとに手元に残るのは、外来単価から薬剤・材料などの変動費を引いた「限界利益」です (限界利益の考え方は損益分岐点の記事で詳しく書きました)。診療所の入院外 1 日あたり点数は 734.7 点、約 7,347 円です [4]。院外処方を想定して変動費率を 1 割と置けば、1 人あたり約 6,600 円が残る計算です (変動費率は筆者の仮置き)。ただしこのルートは、枠を足せば埋まるだけの需要があることが前提です。

行き先 B: 早く帰る。 勤務医やスタッフの残業が減れば、残業代の減少として損益計算書に出ます。一方、院長本人の場合は給与が時間で決まらないので、早く帰れても損益計算書の数字は動きません。価値は確かにあるのに、帳簿には載らない。ここが AI スクライブの損益計算をわかりにくくしている一番の理由です。

行き先 C: 同じ時間のまま、患者さんを見る。 回転は速くならず、診察の中身が変わるルートです。シンガポールの大規模な学術医療センターの外来で、臨床医 9 名・169 診察を直接観察した小規模な研究では、1 診察あたりの記録時間は 5.3 分から 4.5 分に減りましたが、診察時間 (11.5 分 vs 10.9 分) も 1 患者あたりの総所要時間も変わりませんでした。変わったのは、医師が患者さんに目を向けている割合 (69.6% → 77.1%) でした [5]。1 施設・9 名の観察なので因果までは言えませんが、浮いた時間が目の前の患者さんに流れた可能性を示す数字です。11 分の診察なら、患者さんを見ている時間が 50 秒ほど増えた計算です。

浮いた時間を表す砂時計から3本の道が分かれ、診察枠を増やせば損益計算書に載り、院長が早く帰っても帳簿には載らず、患者を見る道では回転は変わらないことを示す概念図
図 1: 浮いた時間の 3 つの行き先。行き先によって価値の現れ方が変わる (行き先 C の根拠は Tan [5]。編集部作成の概念図)

米国では、AI スクライブの投資回収 (ROI) の本体は時間ではなく医師の燃え尽きと離職の防止だ、という議論が出ています。JAMA Network Open の論評は、利用料を臨床医 1 人あたり月 200〜600 ドル (1 ドル 150 円と仮置きすると月 3 万〜9 万円で、④で見る国内の公開価格の数倍) としたうえで、医師 1 人が辞めたときの損失を 50 万〜100 万ドルと見積もりました [6]。ただ、開業医の院長は自分の医院を辞めません。この議論を日本の診療所に移すなら、「院長が燃え尽きて診療日を減らす・承継を早める」という事業継続のリスクとして読み替える必要があります (筆者の読み替え)。

私は、この 3 つのどれを狙うのかを先に決めずに導入すると、効果を測れないまま月額だけを払い続けることになると考えています。A を狙うなら枠の設計を、B を狙うなら退勤時刻の記録を、C を狙うなら患者さんの声の拾い方を、導入前に用意しておく必要があるからです。

先生のクリニックで明日 30 分浮いたとしたら、その 30 分は、実際には何に使われるでしょうか。

研究が示すのは数分から22分

次の問いは、そもそも何分浮くのかです。ここは研究を「デザイン → 結果 → どこまで言えるか」の順で読みます。

最大規模の研究 — 8 時間の外来あたり 16 分。 2026 年に JAMA に載った研究は、米国の学術医療機関 5 施設で、外来の臨床医 8,581 名 (うち導入 1,809 名) の電子カルテの操作記録を追いました。導入した臨床医と導入しなかった臨床医の変化を比べる手法 (差分の差分法、後述) を使っています。結果は、予定診療 8 時間あたりの記録時間が 16.0 分減少 (95% 信頼区間 13.7〜18.3 分)、電子カルテ全体の操作時間は 13.4 分減少でした。一方、診療時間外の電子カルテ時間には有意な変化がありませんでした [3]。どこまで言えるかというと、4 施設は希望者だけが使う方式で、使いたい医師が使った結果です。学術機関だけのデータでもあり、開業医の外来にそのまま当てはまるとは言えません。

くじで分けた試験では、最大 1 日約 22 分。 くじ引きで使う人と使わない人を分けた試験 (ランダム化比較試験、RCT) は、効果の大きさを最も公平に測れる方法です。ウィスコンシン大学系の外来では、医師とナースプラクティショナーなど臨床医 66 名を対象に 24 週の RCT が行われました。使い始める時期をくじで決め、最終的には全員が使う設計 (stepped-wedge 型) です。結果は、カルテ記載時間が 1 日 0.36 時間、約 22 分の減少でした (95% 信頼区間は約 10〜33 分。真の値がほぼこの幅に収まるという意味です) [7]。副次的な評価項目としての結果ですが、1 日単位の RCT の数字としては今回調べた中で最大です。一方、UCLA で医師 238 名を 3 群に分けた RCT では、結果が製品によって割れました。片方の製品は、1 件あたりの記載時間の減り方が対照群より 9.5% 大きくなりました (使った群は 4 分 30 秒 → 3 分 49 秒。対照群も自然に 4 分 22 秒 → 4 分 4 秒へ減っていました)。もう片方の製品では、対照群との差はありませんでした [8]。「AI スクライブ」とひとくくりにせず、製品ごとに測る必要があるということです。小児の専門外来で 23 名をランダムに分けた試験でも、時間の差ははっきりしませんでした [9]。ただし 23 名は小規模で、差を見つける力が足りなかった可能性もあります。

前後比較では、1 日 2 分から 14 分まで。 導入前と導入後を比べた研究を 3 つ見ます。Stanford の医師 45 名では、記録時間が 1 日 6.89 分減りました (電子カルテ全体では 19.95 分減) [10]。ハワイの医療グループでは、使用率 60% 以上の医師に限ると 1 日 66 分から 53 分へ、13.6 分減です [11]。ニューヨーク大学の評価 (参加 97 名のうち一部を前後比較) では、1 日 2.07 分減でした [12]。使用率の高い医師だけの数字 (13.6 分) と全体の数字 (2.07 分) を並べているので単純比較はできませんが、同じ「導入」でも施設と使い方でこれだけの開きがあります。

1日単位で記録時間の削減を報告した5研究の横棒グラフ。RCTが約22分、多施設研究が8時間外来あたり16分、前後比較が13.6分・6.9分・2.1分で、いずれも30分の線に届いていない
図 2: 研究別にみた 1 日あたりの記録時間削減 (水色 = RCT、からし色 = 観察研究)。RCT の値は副次評価項目、多施設研究は 8 時間の外来あたり、13.6 分は使用率 60% 以上の医師に限った値 (出典: [7][3][11][10][12] を基に編集部作成)

データの読み方 — 前後比較と差分の差分法

導入前と導入後の記録時間を比べるのが、いちばん素朴な方法です。ただしこれだと、同じ時期に起きた別の変化まで AI の手柄に見えてしまいます。実際、UCLA の RCT では AI を使わなかった対照群でも、1 件あたりの記載時間が 4 分 22 秒から 4 分 4 秒へ自然に減っていました [8]。慣れや季節で、何もしなくても数字は動くのです。そこで「導入した医師の変化」から「導入しなかった医師の変化」を差し引くのが差分の差分法で、最大規模の研究はこの方法を使っています [3]。ベンダーの導入事例に出てくる「150 分が 38 分に」のような数字は、たいてい前後比較です。差し引く相手がいるかどうかを、まず確かめてください。

前後比較では自然に減った分までAIの効果に見えてしまい、差分の差分法では導入しなかった医師の変化を差し引いてAIの効果だけを取り出すことを、2本の折れ線で示した概念図
図 3: 前後比較と差分の差分法。導入しなかった医師の変化を差し引くと、AI の効果だけが残る (編集部作成の概念図)

時間外は減るとは限らない。導入直後に増えた報告もある。 「夜のカルテ残業が消える」と期待されがちですが、診療時間外の作業時間は研究によって結論が割れています。ボストンの医療グループで、AI の下書きを人間のスクライブが確認する方式を調べた研究があります (対象はプライマリケアの臨床医)。時間外の作業は導入 10 日目に 32.1% 増え、50 日目には 41.7% 減りました [13]。導入 10 日目の時点では、かえって手間が増えていたことになります (人間のスクライブを併用する方式での結果です)。

確認の時間はゼロにならない。 市販 7 製品に同じ模擬診察の音声を聞かせた研究では、エラーが 1 つもなかった製品はありませんでした。エラーの 83.8% は「言ったことが抜ける」脱落で、脱落の件数は製品により 1 診察あたり中央値 1〜6 件でした [14]。英語の模擬音声での評価なので、日本語の診察での脱落率はわかりません。それでも、下書きは読んで直す前提で、浮いた時間の一部は確認に戻っていくと考えておくべきです。

では日本ではどうか。日本の医師が 1 日に「医療記録 (電子カルテの記載)」に使っている時間は 93 分、という厚労科研の調査があります [15]。ただしこれは 2016 年 12 月の 1 日分で、対象は 50 代以下の常勤医師です。診療所の院長だけを取り出した数字ではありません。仮に、本文で引いた研究の削減率 (15〜21%) をそのまま当てはめると 1 日 14〜20 分ですが、これは外挿の試算にすぎません。そして、日本の外来で AI スクライブの削減時間を実測した査読研究は、今回の範囲では見つかりませんでした。

ここまでは資料で言えます。米国で 1 日単位に実測した研究では、削減は数分から 20 分強。30 分はその外側です。ただし 1 件あたりで見ると 40 秒前後減った研究もあり、1 日 50 人を診る外来の件数を掛ければ、話は変わりえます。ここからはまだわかりません。日本語の診察、日本の外来件数で何分になるかは、誰も測っていないからです。

私は、自院の計画に置く仮定は「1 日 10 分前後」、良くて 15 分程度が誠実なところだと読んでいます (見立て)。

先生の外来では、最後の患者さんを見送ったあと、カルテに戻っている時間が 1 日何分あるでしょうか。

元が取れる分数を出す

削減時間が「数分から 20 分強」なら、次の問いは逆向きになります。自院では、何分返れば元が取れるのか。式は割り算 2 回です。

損益分岐の分数 (分/日) = 年間の総費用 ÷ 年間の診療日数 ÷ 1 分の価値

分子と分母のうち、悩ましいのは「1 分の価値」だけです。①の行き先に合わせて、3 通りの置き方を用意します。

置き方 a: 院長の 1 分 (行き先 B の院長)。 第 25 回医療経済実態調査によると、医療法人立の一般診療所の院長の給料 (賞与込み) は、平均 2,898 万円、中央値 2,280 万円です [16]。平均は一部の高額な院長に引っ張られるので、ここでは中央値を使います。院長だけを取り出した労働時間の最新の公的統計は見当たらないため、年 2,000 時間と仮定すると、時給約 11,400 円、1 分あたり約 190 円です (労働時間は筆者の仮定)。

置き方 b: 勤務医の 1 分 (行き先 B の勤務医)。 令和 6 年賃金構造基本統計調査の「医師」(雇用者) は、毎月の給与 102.6 万円、年間賞与 106.9 万円でした。月の労働時間は 173 時間 (所定内 154 時間 + 超過 19 時間) です [17]。ここから時給に直すと約 6,445 円、1 分あたり約 107 円です (換算は筆者)。非常勤医師や勤務医を雇っている院なら、こちらが現実的な物差しになります。実際に残業が減る場合は、所定内給与から出した時給に割増 (1.25 倍) をかけて、1 分あたり約 123 円で数えることもできます。

置き方 c: 増えた患者さん (行き先 A)。 ①で見た限界利益、1 人約 6,600 円が単位です。

年間の総費用を年間の診療日数で割って1日あたり費用を出し、それを院長190円・勤務医107円の1分の価値で割ると損益分岐の分数になる計算ツリー。増患ルートは1人6,600円で割る
図 4: 損益分岐の分数を出す計算ツリー。院長の 1 分は中央値 2,280 万円 [16] ÷ 仮定 2,000 時間、勤務医の 1 分は時給 6,445 円 [17] から換算、増患は 734.7 点 [4] × 0.9 (編集部作成)

では、実際に 1 つ通しで計算してみます。月額 2 万 2,000 円・初期費用 5 万 5,000 円のサービスを、月 20 日 (年 240 日) 診療の院で使うとします (④で見る国内サービスの公開価格の 1 つ)。

初年度の総費用は、2 万 2,000 円 × 12 か月 + 5 万 5,000 円 = 31 万 9,000 円。240 日で割ると、1 日あたり約 1,329 円です。

これを院長の 1 分 (190 円) で割ると 1 日 7.0 分。勤務医の 1 分 (107 円) で割ると 1 日 12.4 分。②で見た研究の範囲 (数分から 20 分強) に、どちらも収まっています。院長の時間を価値として数えるなら、「1 日 30 分」どころか 7 分返れば元が取れる計算です。

ところが、置き方 c では景色が変わります。31 万 9,000 円を 1 人 6,600 円で割ると、年に約 48 人、つまり週 1 人の増患が必要です。研究ではどうか。UCSF の医師 1,565 名を差分の差分法で比べた研究では、導入後の受診は医師 1 人あたり週 0.80 件の増加でした (95% 信頼区間 0.05〜1.56 件) [18]。年 48 週 (年 240 日) に直すと約 38 人、限界利益で約 25 万円。31 万 9,000 円に届きません。年 20 万円前後の低価格プランなら、この増患ペースで回収できる計算です。ただし、より大規模な研究では受診の増加は週 0.49 件 (年約 24 人・約 15 万 6,000 円) にとどまり [3]、これだと④で見る公開価格のどのプランにも届きません。しかもこの研究が報告した増収 (医師 1 人あたり年 3,044 ドル、1 ドル 150 円なら約 46 万円) について、診療が増えたのか、記録が詳しくなって請求の等級が上がったのかは切り分けられていない、と著者自身が書いています [18]。後者は米国の報酬制度に特有の効果で、出来高の点数表で動く日本にはそのまま移植できません。米国の医療グループの 1,547 名を導入前後の推移で比べた研究 (中断時系列分析) では、1 日あたりの受診件数に有意な変化はありませんでした [19]。

編集部の先読み — 日本の診療所で AI スクライブの費用を「増患による増収」だけで回収できるのは、低価格プランを選び、しかも増えた枠を埋める需要がある院に限られ、損益計算書の上ではトントン前後になる院が多いとみる。回収の本体は、院長と勤務医の時間そのものになる。根拠: 月 2 万円台のプランの回収には週 1 人の増加が要るが、差分の差分法で受診増を示した米国の研究でも週 0.80 件にとどまる [18]

この計算には、まだ差し引くべきものがあります。ゼロにはならない確認・修正の時間 [14] と、時間外がむしろ増えた報告もある立ち上がりの数週間 [13]、それにマイクなどの機材とスタッフへの説明の手間です。自院の数字を入れるときは、削減分からこれらを差し引いた「正味の分数」で比べてください。

#項目何を入れるか例 (本文の通し計算)
1年間の総費用月額 × 12 + 初期費用 (+ 機材)319,000 円
2年間の診療日数自院の実績240 日
31 日あたり費用#1 ÷ #2約 1,329 円
41 分の価値院長 / 勤務医 / どちらか自院の実態に近いほう190 円 (院長)
5損益分岐の分数#3 ÷ #47.0 分/日
6自院の正味の削減分試用期間の実測 − 確認・修正の時間(自院で測る)
7判定#6 が #5 を上回るか

私の読みでは、院長の時間を価値として数えるなら、多くの院が「元が取れる側」に入ります。一方、損益計算書の数字だけで判断するなら、低価格プランで増患の需要がある院を除けば、トントンかやや赤字です。どちらで判断するかは経営者の価値観の問題で、どちらが正しいということはありません。

先生は、ご自分の 1 時間をいくらと置きますか。

国内サービスで検算する

最後に、この式を国内のサービスで検算します。対象は、診察の会話からカルテの下書きや SOAP 形式の記録を作る機能 (またはそれに近い機能) を提供し、日本国内の診療所が契約できるサービスです。2026 年 9 月 23 日に各社の公式サイトで確認できた情報を、製品名のアルファベット順 (大文字・小文字は区別しない) に並べました。

製品 (提供元)公開されている料金 (公式サイトの表記)初期費用試用
AmiVoice iNote (アドバンスト・メディア) ※非公開 (要問い合わせ)非公開記載なし
CLINICS AI アシスト (メドレー)非公開 (個別プランニング制)非公開オンラインデモあり
CLIUS 通常プラン (DONUTS)電子カルテ本体 月額 12,000 円〜 (ORCA 別途)。AI 機能単体の料金は明記なし200,000 円〜無料トライアルあり
CLIUS Direct プラン (DONUTS)電子カルテ本体 月額 19,800 円〜 (ORCA 込み)。AI 機能単体の料金は明記なし0 円〜無料トライアルあり
kanaVo プラン (kanata)年 240,000 円 (通常 480,000 円、先着 200 施設の割引中)50,000 円10 日間の無料トライアル
kanaVo Light プラン (kanata)年 120,000 円50,000 円10 日間の無料トライアル
medimo (medimo、スズケングループ)月額 22,000 円 (税込) 〜55,000 円 (税込)記載なし
MEDISMA AI クラーク (メディスマ)非公開非公開記載なし
Swift SOAP (パルシベイト)月額 16,500 円 (定額)0 円無料トライアルあり (終了時にクレジットカードを登録すると有償で継続)

出典: 各社公式サイト (2026-09-23 取得) [20][21][22][23][24][25][2]。税込・税別は、公式サイトで確認できた medimo (税込) だけ付記しました。kanaVo と Swift SOAP は税表記を確認できなかったため、表記どおりの金額で計算しています。ORCA は日医標準のレセプトコンピュータ (診療報酬請求ソフト) です。※ AmiVoice iNote は、会話から自動で要約する型ではなく、音声入力と院内での転送・代行入力を組み合わせた型のサービスです。

7 製品のうち、AI 機能単体の料金を公開していたのは 3 製品 (kanaVo は 2 プラン) でした。この 3 製品について、kanaVo プランは割引前の通常価格も並べて、③の式で初年度の損益分岐を出すと次のようになります (年 240 日診療、機材費は含めない)。

プラン初年度の総費用院長の 1 分 (190 円) で割ると勤務医の 1 分 (107 円) で割ると
kanaVo プラン (割引価格)290,000 円6.4 分/日11.3 分/日
kanaVo プラン (通常価格)530,000 円11.6 分/日20.6 分/日
kanaVo Light プラン170,000 円3.7 分/日6.6 分/日
medimo319,000 円7.0 分/日12.4 分/日
Swift SOAP198,000 円4.3 分/日7.7 分/日

(編集部試算。プランごとの機能差・対応範囲は比べていません。安いほうが良いという意味ではありません)

国内5プランの初年度の損益分岐を院長の時間単価で試算した横棒グラフ。3.7分から11.6分で、研究で報告された約2〜22分の範囲に入っている
図 5: 国内 5 プランの初年度の損益分岐 (院長の 1 分 = 190 円、年 240 日診療、機材費を除く編集部試算)。製品の優劣を示すものではありません (料金は各社公式サイト 2026-09-23 取得 [23][24][2])

院長の 1 分で数えると、公開価格の損益分岐は 3.7〜11.6 分で、②で私が置いた「1 日 10 分前後」という見立てと同じか、それより低いところに並びます。ただし、研究の範囲の下限は 2 分です。「範囲の中にある」ことは「自院で達成できる」ことを意味しません。価格表をにらんで「どれが得か」を考えるより、自院でその分数が本当に返るかを確かめるほうが、判断にはずっと効きます。ベンダーが掲げる「75% 削減」「90% 削減」は、それぞれの導入事例や自社の測り方での数字です [1][2]。前後比較なのか、差し引く相手がいるのかは、公表資料からは確かめられません。②のミニレッスンの観点で読んでください。

価格以外にも、導入前に確かめておきたいことがあります。

いちばん重いのは、音声と文字起こしを学習に使わないかです。個人情報保護委員会は、本人の同意を得ずに生成 AI サービスに個人データを入力する場合の注意点を示しています。提供事業者が「当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること」を求める内容です [26]。契約書か利用規約のどこに書いてあるかを、販売元に聞いてください。AI の提供元やサーバーが海外にある場合は、外国にある第三者への個人データの提供を定めた個人情報保護法 28 条 (本人の同意、移転先の国の制度に関する情報提供など) も別途かかることがあります [27]。

検討中の製品の利用規約に、その一文は見つかるでしょうか。

ほかに確かめておきたいのは次の 3 つです。

  • 試せるか。 無料トライアルの有無と期間は、そのまま「自院で測れるか」を意味します
  • 安全管理ガイドラインへの準拠をどう表明しているか。 同ガイドラインは 2026 年 6 月に第 7.0 版になりました (院長向けの読み方はこちらの記事)。準拠の表明を公式サイトで確認できた製品と、できなかった製品がありました
  • 電子カルテへどう渡すか。 コピー&ペースト、専用の転記デバイス、API (システム間の自動連携の仕組み) による連携、電子カルテ一体型と方式はばらばらで、1 件数秒の転記が増えるだけでも③の損益分岐は動きます

制度面では、外来の診療所が AI スクライブを入れても、2026 年度の診療報酬で付く点数はありません。令和 8 年度改定で「生成 AI」の文言が入ったのは、病院向けの医師事務作業補助体制加算の施設基準でした (詳しくは姉妹記事) [28]。一方、中小企業基盤整備機構の「デジタル化・AI 導入補助金 2026」は、補助対象者を「法人または個人」の中小企業・小規模事業者等としています [29]。個人開業医も対象になりうる書き方ですが、使えるのは登録された IT ツールに限られるので、検討中の製品が登録されているかを販売元に確かめるのが先です (筆者見立て)。

人を雇う選択肢とも並べておきます。医療法人立の一般診療所の事務職員の給料は平均 339 万円です (賞与込み、法定福利費は含まない) [16]。これに対して、上の表の初年度費用は 17 万〜53 万円。ただし米国の救急外来の研究では、1 件あたりの記録時間の短縮は人間のスクライブ (3.3 分) が AI (1.6 分) の約 2 倍で、生産性の差はありませんでした [30]。救急外来の結果なので、予約制の診療所外来にそのまま当てはめることはできません。人は電話にも受付にも回れます。どちらか一方を選ぶ話ではなく、「人に頼んでいる転記を AI に任せ、人は患者対応に戻す」という組み合わせで考えるのが現実的だと私は考えています。

おわりに——30分より「7分を測れるか」

整理します。米国で 1 日単位に実測した査読研究では、AI スクライブの削減時間は 1 日数分から 20 分強で、「1 日 30 分」はその外側でした。それでも、国内の公開価格で出した損益分岐は、院長の時間を価値として数えれば 1 日約 4〜12 分。損益計算書だけで数えれば、増患で回収できるのは低価格プランと需要の条件が揃った院に限られます。

私の結論は、30 分を待つより 7 分を測るほうが早い、です。

ですから、次にやることは 3 つです。まず、今のカルテ記載と時間外の作業時間を 1 週間測ること。次に、試用期間のある製品で、同じ測り方をもう一度すること。最後に、その差から確認・修正の時間を引いて、③のワークシートに入れることです。

今のカルテ記載時間を1週間測り、試用期間で同じ測り方をし、確認・修正の時間を引いてから損益分岐の分数と比べる、という導入判断の4段フロー
図 6: 導入判断は「測る・試す・測る」。ベンダーの公表値ではなく自院の実測で決める (編集部作成)

価格とプランは頻繁に変わります。本記事の料金は 2026 年 9 月 23 日時点の公式サイトの表記で、特定の製品を勧めるものではありません。クリニックAIラボでは、日本の外来での実測研究が出たとき、この記事の仮定を更新していきます。

参考文献

  1. kanata株式会社. kanaVo 公式サイト. https://www.kanatato.co.jp/ (2026-09-23 取得)(「カルテ業務を75%削減。入力業務が150分から38分に」はベンダー公表の導入事例値)
  2. 株式会社パルシベイト. Swift SOAP 公式サイト. https://www.swiftme.jp/ (2026-09-23 取得)(月額16,500円定額・初期費用0円・無料トライアル。「カルテ作成時間の90%を削減」はベンダー公表値)
  3. Rotenstein LS, Holmgren AJ, Thombley R, et al. (2026). Changes in Clinician Time Expenditure and Visit Quantity With Adoption of Artificial Intelligence-Powered Scribes: A Multisite Study. JAMA, 335(16), 1408-1417. PMID: 41920565. https://doi.org/10.1001/jama.2026.2253 (米国5学術医療機関・外来臨床医8,581名の差分の差分法。8時間の外来あたり記録時間 −16.0分、時間外は有意変化なし)
  4. 厚生労働省. (2025). 令和6 (2024) 年社会医療診療行為別統計の概況. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/sinryo/tyosa24/dl/gaikyou2025.pdf (2026-07-11 取得)(診療所の入院外1日当たり点数 734.7点)
  5. Tan JYE, Rafi IBM, Sng GGR, et al. (2026). Impact of an Ambient AI Scribe Among Clinicians and Patients: Real-World Prospective Observational Time-Motion Study. JMIR Med Inform, 14, e85580. PMID: 41915701. https://doi.org/10.2196/85580 (シンガポールの学術医療センター外来、169診察の直接観察。記録時間は減ったが診察時間・総所要時間は不変)
  6. Shah SJ, Garcia P. (2026). Ambient AI Scribes—What Is the Return on Investment? JAMA Netw Open, 9(1), e2553238. PMID: 41511777. https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2025.53238 (論評。利用料は臨床医1人あたり月200〜600ドル、医師1人の離職損失50万〜100万ドルとの記載)
  7. Afshar M, Baumann MR, Resnik F, et al. (2025). A Pragmatic Randomized Controlled Trial of Ambient Artificial Intelligence to Improve Health Practitioner Well-Being. NEJM AI, 2(12). PMID: 41625485. https://doi.org/10.1056/AIoa2500945 (医師・上級実践職66名・24週の stepped-wedge 型RCT。副次評価でカルテ記載時間 −0.36時間/日)
  8. Lukac PJ, Turner W, Vangala S, et al. (2025). Ambient AI Scribes in Clinical Practice: A Randomized Trial. NEJM AI, 2(12). PMID: 41497288. https://doi.org/10.1056/AIoa2501000 (UCLA・医師238名の3群RCT。1製品で記載時間 −9.5%、もう1製品は有意差なし。対照群にも自然減あり)
  9. Shin HS, Williams H, Braykov N, et al. (2025). The Influence of Artificial Intelligence Scribes on Clinician Experience and Efficiency among Pediatric Subspecialists: A Rapid, Randomized Quality Improvement Trial. Appl Clin Inform, 16(4), 1041-1052. PMID: 40675605. https://doi.org/10.1055/a-2657-8087 (小児専門外来23名のランダム化QI。時間・収益の差は有意でなく、体験と燃え尽きは改善)
  10. Ma SP, Liang AS, Shah SJ, et al. (2025). Ambient artificial intelligence scribes: utilization and impact on documentation time. J Am Med Inform Assoc, 32(2), 381-385. PMID: 39688515. https://doi.org/10.1093/jamia/ocae304 (Stanford・医師45名の前後比較。記録時間 −6.89分/日、電子カルテ全体 −19.95分/日)
  11. Harvey CJ, Morita J, Huynh W, et al. (2026). Ambient AI Scribe Implementation in an Ambulatory Setting in a Single Medical Group: Prospective Study. JMIR Med Inform, 14, e84104. PMID: 42337645. https://doi.org/10.2196/84104 (ハワイの医療グループ80名。使用率60%以上の医師で記載時間 66.24→52.63分/日)
  12. Lawrence K, Polet C, Malhotra K, et al. (2026). Implementing Artificial Intelligence-Enabled Ambient Documentation Technology for Ambulatory Clinicians: An Innovation Evaluation. J Gen Intern Med, 41(12), 3549-3552. PMID: 42225877. https://doi.org/10.1007/s11606-026-10448-w (NYU・97名、2製品の6か月評価。記録時間 −2.07分/日)
  13. Moura LM, Mishuris RG, Metlay JP, et al. (2026). Hybrid Ambient Clinical Documentation and Physician Performance: Work Outside of Work, Documentation Delay, and Financial Productivity. J Gen Intern Med, 41(5), 1294-1303. PMID: 41249645. https://doi.org/10.1007/s11606-025-09979-5 (AI下書き+人間スクライブ確認のハイブリッド型。時間外作業は10日目 +32.1%、50日目 −41.7%)
  14. Draper TC, Cox T, Lamb-Riddell K, et al. (2025). Clinical AI Scribes in primary care: accuracy, error severity and implications for clinical practice. BMJ Digit Health AI, 1(1), e000092. PMID: 42712320. https://doi.org/10.1136/bmjdhai-2025-000092 (市販7製品×模擬8シナリオ。エラーの83.8%が脱落、エラーゼロの製品なし)
  15. 厚生労働科学特別研究「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」研究班, 厚生労働省医政局. (2017). 医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査 (新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会 資料2、2017年4月6日). https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000161146.pdf (2026-09-23 取得)(50代以下常勤医師の2016年12月14日1日分。医療記録93分)
  16. 中央社会保険医療協議会. (2025). 第25回医療経済実態調査の概要 (総-1-2、2025年11月26日). https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001599547.pdf (2026-09-23 取得)(一般診療所・医療法人の職種別給与。院長 平均28,978,974円・中央値22,800,000円、事務職員 平均3,388,640円)
  17. 厚生労働省. (2025). 令和6年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種 第1表 (2025年3月17日公開). https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tclass=000001225447&cycle=0 (2026-09-23 取得)(「医師」男女計・企業規模計。きまって支給する現金給与額1,025.9千円、年間賞与等1,069.3千円、所定内154時間・超過19時間)
  18. Holmgren AJ, Fenton CL, Thombley R, et al. (2026). Ambient Artificial Intelligence Scribes and Physician Financial Productivity. JAMA Netw Open, 9(1), e2553233. PMID: 41511775. https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2025.53233 (UCSF・医師1,565名の差分の差分法。受診 +0.80件/週、RVU換算で年3,044ドル/医師)
  19. Husa RA, Haggerty J, Nute AW, et al. (2026). Ambient Artificial Intelligence Use and Clinician Documentation Burden, Productivity, and Efficiency. JAMA Netw Open, 9(5), e2615762. PMID: 42213439. https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2026.15762 (Providence・1,547名の中断時系列分析。1日あたり受診数に効果なし)
  20. 株式会社アドバンスト・メディア. AmiVoice iNote 公式サイト. https://medical.amivoice.com/inote/ (2026-09-23 取得)(音声入力+業務共有型。料金は公式サイト上に記載なし)
  21. 株式会社メドレー. CLINICS AIアシスト 公式サイト. https://clinics-cloud.com/ai/ (2026-09-23 取得)(電子カルテCLINICSの機能。料金は個別プランニング制)
  22. 株式会社DONUTS. CLIUS 料金プラン. https://clius.jp/plan/ (2026-09-23 取得)(電子カルテ本体の料金。AI音声認識・SOAP自動生成機能単体の料金は明記なし)
  23. kanata株式会社. kanaVo 料金プラン. https://www.kanatato.co.jp/pricing/ (2026-09-23 取得)(kanaVoプラン年240,000円 [通常480,000円・先着200施設割引]、Lightプラン年120,000円、初期費用50,000円、10日間無料トライアル)
  24. 株式会社medimo. medimo 公式サイト. https://medimo.ai/ (2026-09-23 取得)(月額22,000円(税込)〜・初期費用55,000円(税込))
  25. 株式会社メディスマ. MEDISMA 公式サイト. https://medisma.jp/ (2026-09-23 取得)(AIクラークを含むクリニックDXサービス。料金は公式サイト上に記載なし)
  26. 個人情報保護委員会. (2023). 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について (令和5年6月2日). https://www.ppc.go.jp/news/press/2023/230602kouhou/ (2026-09-23 取得)
  27. 個人の情報の保護に関する法律 (平成15年法律第57号) 第28条 (外国にある第三者への提供の制限). e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057 (2026-09-23 取得)
  28. 厚生労働省. (2026). 個別改定項目について (令和8年度診療報酬改定、中医協答申 2026年2月13日). https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001655176.pdf (2026-07-11 取得)(医師事務作業補助体制加算の施設基準に生成AIを活用した文書作成補助システムの記載)
  29. 中小企業基盤整備機構. デジタル化・AI導入補助金2026 制度概要. https://it-shien.smrj.go.jp/about/ (2026-09-23 取得)
  30. Dutta S, Guan-Ting You J, Dunham L, et al. (2026). Medical Scribe and Ambient Artificial Intelligence Impact on Emergency Physician Documentation Burden and Clinical Productivity. Ann Emerg Med. PMID: 42283666. https://doi.org/10.1016/j.annemergmed.2026.04.022 (4病院の救急外来。記録時間の短縮は人間スクライブ3.3分/件・AI 1.6分/件、生産性に差なし)