開業規制はもう始まっているのか
2026年4月、外来医師過多区域で無床診療所を開くには6か月前の届出が要るようになりました。ただし起算点は施行日ではなく、都道府県が区域を指定した日です。候補9医療圏を抱える5都府県はまだ指定前。判定の手順と、要請に応じた場合の収支を一次資料で整理します。
執筆・監修 クリニックAIラボ 編集長(現役内科医)

- 公開
- 2026-09-19
- 更新
- 2026-09-19
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はじめに——「もう開業できないのですか」
開業を準備している先生から、この春に何度か同じ質問を受けました。都市部では開業が規制されると聞いた、自分の候補地はもう駄目なのか、という質問です。
結論から言うと、規制の対象になるのは全国でわずか9つの二次医療圏です。全国には約330の二次医療圏があります [1]。いまのところ国が候補として示したのは、東京23区の5区域と、京都・乙訓、大阪市、福岡・糸島、神戸の9つだけです [2]。
しかも今日の時点では、規制が動き出したことを示す公表は、どの医療圏についても見当たりません。届出が必要になるのは、都道府県が区域を指定して公表してからです。公示日から6か月後の開設分が対象になる、というのが東京都の示した読み方ですが、この起算点は条文に書かれたものではありません(後述します)。9医療圏を抱える5都府県のうち、指定を公表した自治体は確認できませんでした。
とはいえ、対象になったときの不利益は軽くありません。地域で不足している医療の提供を要請され、応じなければ、通常6年の保険医療機関の指定に3年以内の期限が付されることがあります [3]。期限が付けば、6年ごとの自動更新が外れます。開業後も3年ごとに指定の可否を問われ、改善が認められれば6年に戻る、という仕組みです [2]。
この記事では2つを整理します。自分の予定地が対象かどうかを判定する手順と、要請に応じた場合に自院の収支がどれだけ動くかです。
規制はまだ動き出していない
2026年4月1日、改正医療法が施行されました [4]。外来医師過多区域で無床の診療所を新しく開く場合、開設日の6か月前までに都道府県へ届け出なければならない、という規定です [5]。
ただし、施行日は号砲ではありませんでした。
改正法の附則第4条は、届出から通知までの規定(第3項〜第11項)の適用時期を定めています。施行日から6か月を経過した日以降に開設しようとする者から、です [6]。条文上の起算点は施行日です。令和8年4月1日施行のこの規定は、令和8年10月1日以降に開設する者から働きます。
その先の「指定の公示からいつか」は、条文が直接には答えていません。第3項は「指定を受けた区域において」「開設する日の6か月前までに」届け出よと定めているだけです [5]。指定の公示前に6か月前の期限が過ぎている開設には、そもそも届出のしようがない。この読み方を、東京都が設例で示しています。
例)東京都が令和8年10月1日に外来医師過多区域を指定した場合、6か月後の令和9年4月1日以降に開設する診療所が事前届出の対象 [7]
これは条文そのものではなく、東京都が示した運用の説明です。他府県が同じ読み方を採るかは、指定が公表された時点で確認が必要です。
設例のまま更新されていないのは、実際の指定日がまだ決まっていないからだと、私は読んでいます(見立て)。同じページには、都としての指定について「検討を進めております」とあります [7]。更新日は2026年4月24日。本記事の執筆時点でも、同じ内容のままでした。
候補となる9医療圏を抱えるのは、東京都・京都府・大阪府・福岡県・兵庫県の5都府県です。編集部でこの5都府県の公表資料を確認しました。その範囲では、2026年9月19日時点で過多区域の指定を公表した自治体は見つかりませんでした。東京都は検討中と明記しています。残る4府県は、外来医療計画のページが更新されていないか、医療審議会で次期計画の検討に入った段階でした。
公表資料から読み取れる範囲、という限定は付きます。そのうえで言えば、今日の時点でこの規制が適用されている診療所はありません。
何がどう変わるのか
過多区域の制度は、ゼロから生まれたわけではありません。2020年から運用されてきた外来医師多数区域の仕組みに、法的な義務と不利益を足したものです。名前が似た2つの制度が、どこで違うのかを並べます。
※表にある「標準偏差」は、各医療圏の値が平均からどれだけばらついているかを表す数字です。大きいほど平均から離れています。
| 外来医師多数区域(2020年〜) | 外来医師過多区域(2026年4月〜) | |
|---|---|---|
| 区域の基準 | 外来医師偏在指標が上位33.3% | 偏在指標が全国平均+標準偏差の1.5倍以上、かつ可住地面積あたり診療所数が上位10% |
| 該当する区域 | 全国の約3分の1の二次医療圏 | 候補9医療圏 |
| 開業時の手続 | 地域医療への協力意向の確認(任意の協力依頼) | 開設6か月前までの届出(法律上の義務) |
| 応じないとき | 不利益なし | 協議への参加の求め → 期限付きの要請 → 要請に応じなければ、この時点で厚生労働大臣へ通知(知事の義務)。開設後は医療審議会への出席の求め → 勧告 → 公表 |
| 不利益の中身 | なし | 届出違反に30万円以下の過料/要請に応じなければ保険医療機関の指定に3年以内の期限 |
| 根拠 | 外来医療計画のガイドライン運用 | 医療法第30条の18の6、同法施行規則第30条の33の20の2、健康保険法第68条の2 |

不利益は2つに分かれている
この制度の不利益は、届け出なかった場合と、要請に応じなかった場合とで別々に用意されています。
まず届出です。医療法第9章(罰則)第92条は、こう定めています。
(前略)第三十条の十八の六第三項の規定に違反して、届出をせず、若しくは虚偽の届出をした者は、三十万円以下の過料に処する [5]
過料は行政上の秩序罰で、刑事罰ではありません。前科にはなりませんが、届出を出さずに開業すれば、それ自体で金銭的な不利益が生じます。
もう一方が、届け出たうえで要請に応じなかった場合です。ここで効いてくるのは健康保険法です。
厚生労働大臣は、診療所の開設者又は管理者が医療法第三十条の十八の六第六項の規定による都道府県知事の要請を受け、これに応じなかった場合、同条第九項の規定による都道府県知事の勧告を受けた場合又は当該勧告を受け、これに従わなかった場合には、(中略)第六十三条第三項第一号の指定を行うに当たっては、三年以内の期限を付することができる [3]
保険医療機関の指定は通常6年で、期限が来れば原則として自動的に更新されます。期限が付くと、この自動更新が外れます(健康保険法第68条の2第2項)[3]。3年ごとに改めて指定の可否が判断され、そのたびに地域外来医療の提供状況を問われることになります。
中医協(中央社会保険医療協議会。診療報酬の内容を決める国の会議体です)の資料は、この間の措置をいくつか例示しています。公表、診療報酬上の対応、そして補助金の不交付です [8]。
なお、厚生労働大臣への通知の発動事由は3つあり、それぞれ独立しています。「要請に応じなかったとき」「勧告をしたとき」「勧告に従わなかったとき」です。しかも知事の義務とされています(第11項)[5]。勧告や公表を待たずに、要請に応じなかった時点で通知が行われます。
届出を怠れば過料、要請に応じなければ指定の期限。同じ制度のなかで、2つの不利益が別の場面に置かれています。
先生が候補地の都道府県の外来医療計画のページを最後に開いたのは、いつでしょうか。指定の公表は、そこにしか出ません。
——ここまでを自院に置き換えると、今日やることは1つです。開業を検討している都道府県の外来医療計画のページをブックマークして、指定の公表を待つ。制度上は、指定が公表される前に開設日が来る開業に、この規制はかかりません。ただし指定の時期は都道府県が決めることです。逆算で間に合わせる前提の計画は勧められません。
なぜ国は3年に短縮したのか
保険医療機関の指定期間は、診療所の存立そのものに関わる根っこの部分です。そこに手を付けるのは、制度設計としてかなり思い切った選択に見えます。なぜ国は、注意や勧告で止めずにここまで踏み込んだのか。
理由は2つあります。ひとつは、医師が都市に集中すると、在宅医療・初期救急・公衆衛生といった地域が抱える機能の担い手が足りなくなること。国が新規開業者に目を向けたのはここです。もうひとつは、前の制度が動かなかったことです。診療報酬の改定と違い、今回は医療法そのものの改正です。系譜は、厚生労働省の検討会 → 社会保障審議会医療部会 → 国会(衆議院修正と附帯決議)という順にたどれます。
前の制度は動かなかった
外来医師多数区域の制度は2020年に始まりました。多数区域で新しく診療所を開く人に、地域で不足している医療機能を担う意向があるかを届け出てもらう。意向がなければ協議の場で話し合う。そういう枠組みです。届出も協議も、応じなかったときの不利益はありませんでした。
令和6年度の実績が、厚生労働省の資料に載っています [2]。
多数区域での新規開業は3,578件。このうち都道府県が「地域に必要な医療機能を担ってほしい」と要請したのが2,631件で、全体の74%にあたります。そして要請に対して合意が得られたのは661件でした。

制度を設計した側の評価は、率直です。検討会の最終とりまとめは、こう書いています。
外来医師多数区域における新規開業希望者に対して地域に必要とされる医療機能を要請したもののうち、合意に至ったものは25%、協議の場への出席の要請対象となる新規開業希望者のうち、協議の場を活用した件数は17%、実際に出席要請を行った例はない等、必ずしも外来医師多数区域における一連の取組が進んでいるとは評価できない [9]
行政文書で「進んでいるとは評価できない」と自ら書くのは、踏み込んだ表現です。要請はした、協議の場も用意した、しかし4件に3件は合意に至らず、出席を求めた例はゼロだった。合意が661件あった以上、制度が空回りしていたとまでは言えません。ただし設計者が想定した水準では動かなかった、ということです(見立て)。
データの読み方 — 「合意率25%」の分母を見る
25%という数字は、要請2,631件を分母にしたときの合意割合です。分母を新規開業3,578件に取り直すと、合意は18%まで下がります。さらに、ここでいう「合意」は開業前の意向表明であって、開業後に実際にその医療を提供したかどうかまでは追跡されていません。率を読むときは、まず分母が何かを確かめ、次にその率が「意向」を数えたものか「実施」を数えたものかを確かめる。この2つを押さえるだけで、制度の実績報告の読み方は変わります。
規制と誘因、世界の到達点
では、不利益のある規制に切り替えれば偏在は動くのか。ここは日本より先に試した国があります。
私がここで見たいのは「どの国が成功したか」ではありません。規制型と誘因型のどちらを選んでも、分布の格差はそれほど動いていないという共通点のほうです。
ドイツには Bedarfsplanung(需要計画)という制度があります。地域ごとに保険医の定員を決め、定員を超えた地域では新規開業を認めない。日本の過多区域よりはるかに強い仕組みです。Ozegowski らは、ドイツ全域の郡単位のデータで、医療の必要度と実際の医師供給の地域差を集中度分析で調べました。この研究は「現行の医師計画メカニズムは、主に最適でない現状を保存している」と指摘しています [10]。横断分析なので「規制がなかった場合」との比較ではありません。それでも、20年近く運用した時点でなお需給のミスマッチが残っていた、という観察です。
逆に、お金で釣る側はどうか。
カナダのサスカチュワン州は2013年から、農村部で働く家庭医に直接お金を払う制度を導入しました。Sakib らは州内の農村部と都市部を差分の差分法で2009年から2021年まで追跡しました。両者の医師率の格差に、統計的に有意な縮小はなかったと報告しています [11]。制度が入った側と入らなかった側の変化の差を見て、政策の効果だけを取り出す手法です。2026年公表、編集部が確認した範囲では、この分野で最も新しい結果です。
オーストラリアの農村加算(2022年の改革)はどうか。行政データを使った準実験では、農村居住者の受診回数が2.7%、窓口負担ゼロの受診が9.0%増えたと報告されています [12]。動いたのは患者側のアクセス指標です。医師がどこに住むかは、この研究からは分かりません。
供給側がまったく動かないわけではありません。オーストラリアが2010年に農村加算の対象地域を変更したとき、新たに対象となった地域では一般医の数自体が増えたと報告されています [13]。ただし既存患者の待ち時間の短縮は確認されず、新規患者については弱い根拠にとどまります。日本の専攻医シーリングにも同じ向きの報告があります。医師多数県の採用数が抑制され、少数県と中程度県で採用者数が増えたことが「窺われた」とされています [14]。査読を経た論文ではなく研究報告の記述です。シーリングも、地域ごとに上限を置くという意味では過多区域と同じ cap 型です。cap 型が配分をまったく動かさないとまでは言えない、と私は読んでいます(見立て)。
台湾は3つ目の道を試しました。1995年の皆保険導入という需要側の介入です。1971年から2001年の時系列分析では、医師分布のジニ係数が西洋医学医師で0.365%、中医師で0.311%減少したと報告されています [15]。ジニ係数は分布の偏りを表す数字で、0に近いほど均等、1に近いほど偏っていることを意味します。方向は改善ですが、1%に満たない幅です。歯科医師ではより大きい1.248%の低下が報告されていますが、ここは医師の話に絞ります。

日本国内にも、参考になる自然実験があります。2004年の新臨床研修制度です。研修先を自由に選べるようにした結果どうなったかを、Sakai らが二次医療圏単位で分析しました。医師はむしろ、すでに医師密度の高い地域へ移動する傾向を示しています(p は 0.001 未満。偶然でこれだけの差が出るとは考えにくい、という意味です)[16]。前後比較なので同時期の他の変化との交絡は残りますが、「自由に任せれば都市に集まる」ことの国内での観察です。同じ制度改革を自然実験として扱った飯塚らの分析では、一部の農村部で医師供給が実質的に減ったと報告されています。それが病院の市場退出と患者アウトカムの悪化につながった、という結果です [17]。
医師の配置に手を入れる制度は、狙った方向以外にも力が働く。これは国内で一度経験したことです。
理論の側からも、同じ向きの指摘があります。鎌田と小島は2015年、地域ごとの定員で配分を縛るマッチング市場を数理的に分析しました。現に使われている仕組みが、効率性・安定性の両面で損失を出している。そういう結果です [18]。そのうえで、同じ制約を守りながらより良い配分方式を提案しています。制度の形ではなく、配分のやり方に改善の余地がある、という指摘です。日本の研修医マッチングの実データを使った池上らの分析も、定員規制より的を絞った補助金のほうが高い社会厚生を達成できるとしています [19]。査読前のプレプリントで、対象も開業ではなく研修先の選択です。
ここまでを整理すると、こう言えます。規制型にも誘因型にも、地域間の医師分布の格差そのものを大きく縮めた例は見当たりません。供給側の医師数が動いた報告はありますが、格差が縮んだという結果は限られています。決定打と呼べる政策は、まだどの国も示していない(見立て)。日本はいま、不利益のない要請型に、規制型を足そうとしています。
私はこの改正を、偏在対策の本命というより、前の制度の不発を埋める一手だと読んでいます(見立て)。指定期間の短縮は、要請に実効性を持たせるための最小の装置です。診療報酬の点数を動かすより副作用が読みやすく、対象も新規開業者に限定できる。2026年4月の内閣府ワーキング・グループの資料でも、医師の地域偏在対策は検討事項の一つに挙げられています [20]。そのなかで、いちばん手前にあった打ち手を取った、という順番に見えます。
そして、ここからは資料では言えないことです。外来医師過多区域の規制そのものの効果を検証した研究は、まだ1本も存在しません。2026年4月に施行された制度なので、当然です。ドイツやカナダの結果は、制度も医師の需給構造も違う国の話であり、効果の大きさをそのまま日本に持ってくることはできません。この記事でお伝えできるのは「どう設計されたか」までです。「効くかどうか」は、これから数年かけて実測されます。
——ここまでを自院に置き換えると、次の理事会や開業計画の場で確かめることは1つです。国の狙いは新規開業者に地域外来医療を担わせることにあり、その本気度は保険医療機関の指定期間という形で示された。つまり、この制度は「開業できるかどうか」ではなく「開業後に何を引き受けるか」を問うています。候補地を探す段階から、自院が引き受けられる機能を先に決めておくと、届出の場面で選択肢を持てます。
判定は3つの問いで済む
自院が対象かどうかは、3つの問いで決まります。順に答えていけば、今日のうちに判定できます。
問1 予定地は候補9医療圏か
国が候補として提示したのは、次の9つの二次医療圏です [2][21]。知事が指定するのは、この候補のうち「特に地域外来医療を確保する必要がある区域」です。実際の対象はこれより狭まる場合があります [5]。
| 都道府県 | 二次医療圏 | 該当市区町村 | 偏在指標が平均から標準偏差の何倍か | 可住地面積あたり診療所数(対全国値) |
|---|---|---|---|---|
| 東京都 | 区中央部 | 千代田区、中央区、港区、文京区、台東区 | 7.22 | 52.90倍 |
| 東京都 | 区西部 | 新宿区、中野区、杉並区 | 4.28 | 28.20倍 |
| 東京都 | 区西南部 | 目黒区、世田谷区、渋谷区 | 3.56 | 26.98倍 |
| 京都府 | 京都・乙訓 | 京都市、向日市、長岡京市、大山崎町 | 2.54 | 8.52倍 |
| 大阪府 | 大阪市 | 大阪市 | 1.94 | 19.42倍 |
| 福岡県 | 福岡・糸島 | 福岡市、糸島市 | 1.86 | 5.95倍 |
| 東京都 | 区南部 | 品川区、大田区 | 1.82 | 15.37倍 |
| 東京都 | 区西北部 | 豊島区、北区、板橋区、練馬区 | 1.74 | 18.47倍 |
| 兵庫県 | 神戸 | 神戸市 | 1.58 | 5.73倍 |
※倍率と診療所数の比は、令和6年1月公表の外来医師偏在指標と令和5年医療施設静態調査に基づく値です [2]。
基準は2つあり、両方を同時に満たす区域だけが候補になります。外来医師偏在指標が全国平均+標準偏差の1.5倍以上であること。そして可住地面積あたりの診療所数が全国の上位10%に入ること(上位10%の水準は全国値の3.59倍です)[2]。この2基準は、医療法施行規則第30条の33の20の2第3項が定めています [22]。
先生の候補地は、この表にありますか。なければ、今回の規制の対象ではありません。
同じ23区でも、区東部と区東北部は候補に入っていません。両区域の外来医師偏在指標は、別制度である外来医師多数区域の基準(上位33.3%)を超えています [1]。それでも、過多区域の候補になるには上の2基準を同時に満たす必要があります。どちらの基準で外れたかは、公表資料からは特定できません(多数区域との違いは後述します)。私はこの制度を「都市部の規制」ではなく「この9つの規制」と読んでいます(見立て)。
問2 都道府県は指定を公表したか
候補に入っていても、それだけでは届出は要りません。都道府県知事が実際に指定し、公示して初めて制度が動きます [5]。
そして冒頭で見たとおり、2026年9月19日時点で指定の公表は確認できていません。確認すべきページは、開業予定地の都道府県の外来医療計画です。東京都なら保健医療局の外来医療計画のページに、指定の有無と地域外来医療の内容が載ります [7]。
指定が公表されたら、そこから6か月後に開設する診療所が対象になる、というのが東京都の示した読み方です。開設予定日が公示から6か月以内であれば対象にならない、という設例です [7]。ただし条文にその起算点が書かれているわけではありません。施行規則は「6か月前までに届出ができないやむを得ない事情」を知事が認定する道(第5項第三号)も用意しています [22]。公示直後の開設を予定しているなら、対象外と自己判断せず、都道府県の担当課に扱いを確認してください。
問3 無床の新規開設か
条文が対象にしているのは「診療所(医業を行う場所であつて、患者を入院させるための施設を有しないものに限る。)を開設しようとする者」です [5]。
無床診療所の新規開設に限られます。有床診療所と病院は対象外です。すでに開業している診療所も、条文上は対象になりません。国会の附帯決議で既存の無床診療所の実態把握を検討するよう求められていますが、今回の改正では義務化されていません [4]。
承継や移転が「開設」に当たるかは、省令に手がかりがあります。施行規則第30条の33の20の2第5項第一号は、診療所の廃止が予期されなかった場合を、6か月前届出の対象から外しています。その開設者以外の者が、同じ所在地で直ちに開設するときです。ただし知事が「やむを得ない事情がある」と認めた場合に限られます。しかも第8項第二号により、その者は「届出者等」として協議・要請のルートには残ります [22]。
裏を返せば、引退や譲渡のように廃止があらかじめ分かっている通常の承継は、第一号には当たりません。原則どおり開設日の6か月前までの届出が要り、間に合わない事情があるなら第5項第三号の知事の認定を取りにいく手続になります。条文上は、過多区域内への移転も、移転先で新たに開設する以上は同じ扱いです。
ただし届出様式や知事認定の運用は、指定が公表された時点で都道府県ごとに確認が必要です。

多数区域との違いを取り違えない
ここで混同しやすいのが、外来医師多数区域です。
外来医師偏在指標は、その区域の診療所医師数を住民数で割った値を補正した相対的な指標です。公表資料では人口10万人あたりの形で示されます。補正に使うのは、その地域の医療需要(人口構成と性年齢別の受療率)や、診療所が外来患者を診る割合です。医師の頭数そのものではありません。多数区域はこの指標の上位33.3%が該当し、全国の二次医療圏のおよそ3分の1が入ります。令和8年4月版の指標では、全国値が115.7、上位33.3%の閾値が111.71です [1]。神奈川県なら、9つの医療圏のうち5つが多数区域です。川崎北部(115.3)、川崎南部(130.4)、横浜(127.2)、横須賀・三浦(119.5)、湘南東部(113.9)。ただし、いずれも過多区域の候補ではありません。
多数区域で開業する場合に求められるのは、地域医療への協力意向の確認です。東京都は2020年7月から、新規開設者に協力意向の確認書の提出を依頼してきました [7]。依頼であって義務ではなく、提出しなくても不利益はありません。
自分の予定地が多数区域だと知って身構える必要はない、ということです。
データの読み方 — 「上位33.3%」は永久になくならない
多数区域は「上位33.3%」という順位で決まります。ここが重要で、順位で切る基準は、全国の医師が何人増えても何人減っても、常に全医療圏の約3分の1を多数区域にし続けます。絶対的な充足度を測っているわけではないのです。一方、過多区域の基準は「全国平均+標準偏差の1.5倍」という、値の散らばりに基づく基準です。そこに面積あたりの診療所密度を掛け合わせるので、条件が揃わなければ該当区域はゼロにもなりえます。順位で切る基準と、分布の形で切る基準。制度の統計を読むときは、この2つを見分けると、その数字が何を約束しているかが分かります。
——ここまでを自院に置き換えると、判定作業は5分で終わります。候補9医療圏の表に自分の予定地の市区町村があるかを見る。なければ、この規制は考えなくてよい。あれば、都道府県の外来医療計画のページを開いて指定の有無を確かめる。この2ステップで、自院が今後6か月以内に届出を迫られるかどうかが確定します。
応じると収支はどう動くか
要請に応じるかどうかを決めるには、応じたときに何がどれだけ動くかを知る必要があります。ここは推測で埋めずに、実際に何が要請されてきたかから始めます。
前の制度で合意に至った661件の内訳が、資料に載っています(複数回答、件数の多い順に7区分を抜粋)[2]。
| 合意した医療機能 | 件数 |
|---|---|
| 公衆衛生(産業医・学校医・予防接種等) | 451 |
| 在宅医療 | 226 |
| 夜間・休日の初期救急医療 | 206 |
| 包括的同意 | 146 |
| 介護認定審査 | 10 |
| 小児科診療 | 7 |
| 休日当番医 | 5 |
(このほか発熱外来3件、産婦人科診療1件、休日外来1件、特定健診1件があります)
要請の中身は、実質的にこの3つです。公衆衛生、在宅医療、夜間・休日の初期救急。4番目に多い「包括的同意」は特定の機能ではなく、地域から求められたものに応じるという包括的な意向表明です。順に、自院の数字がどれだけ動くかを見ていきます。
在宅は桁がいちばん大きい
在宅は、引き受けたときの収益の動きが最も大きい機能です。効くのは在宅時医学総合管理料(在医総管)で、在宅療養支援診療所を届け出ているかどうかで点数が変わります。
比べるのは、3条件をすべて満たす場合の点数です。①患者が単一建物に1人(=別々の家に住んでいる)②月2回以上の訪問診療 ③別表第八の二に掲げる状態(末期悪性腫瘍や難病など)。機能強化型以外の在宅療養支援診療所なら4,585点、届出のない診療所なら3,435点 [23]。差は1点10円として、患者1人あたり月11,500円になります。
3条件が揃った患者を10人受け持てば月115,000円、年間では約138万円の差です。ただし別表第八の二に該当しない患者では点数帯が下がり(同じ条件で3,685点)、差は縮みます。
単一建物に1人、月2回以上、別表第八の二。この3つが揃う患者は、先生のいまの在宅リストに何人いるでしょうか。
機能強化型(病床なし)まで届け出れば4,985点になり、差は月15,500円に広がります。機能強化型のうち「病床あり」の区分は病床を持つ医療機関向けなので、本記事が対象とする無床診療所は該当しません。
ただし、届出には条件が付きます。
- 24時間の連絡体制
- 24時間の往診体制
- 24時間の訪問看護体制
- 緊急時の入院病床の確保
- 意思決定支援の指針の策定
機能強化型の単独型なら、これに常勤医3名以上が加わります。すべての類型で、業務継続計画の策定と定期的な見直しも求められます [24]。
1人で開業する先生にとっては、24時間体制が点数以前の壁になりがちです。他院と組んで体制を分担する連携型という形もあります [24]。
公衆衛生は実入りが小さい
いちばん多く合意されている公衆衛生は、収益で見ると別の世界です。
学校医の報酬は自治体の条例や要綱で決まっています。板橋区の総合指導校医(内科)は月額53,600円で、年額にすると643,200円 [25]。上三川町は1校あたり196,800円に、児童生徒1人あたり450円を加える方式です [26]。児童300人の学校なら年331,800円になります。特定健診の委託単価は、埼玉県の個別健診で1件9,740円です(税込)[27]。
どれも、年単位で数十万円の桁です。在宅の138万円と比べると小さい。合意件数がいちばん多いのは、引き受けたときの負担がいちばん軽いからだ、と私は読んでいます(見立て)。学校医は年間の健診日程が決まっており、24時間の拘束もありません。
初期救急に国の運営費補助はない
夜間・休日の初期救急は、診療報酬の側に加算があります。初診料の時間外加算85点、休日加算250点、深夜加算480点 [23]。1件あたり850円から4,800円の上乗せです。診療所には夜間・早朝等加算50点という区分もありますが、これは時間外・休日・深夜加算とは併算定できません [23]。表示する診療時間の内か外かで、どちらを算定するかが決まります。
一方で、自治体の事業として参加する場合の補助を調べると、意外な事実が出てきます。休日夜間急患センターへの国の補助は、施設整備と設備整備が対象で、運営費は国庫補助の対象になっていません。在宅当番医制に至っては、救急医療対策事業実施要綱の補助対象事業に項目自体がありません [28]。運営費の原資は市町村の一般財源と、医師会への委託料です。
自治体から初期救急への参加を要請されたとき、その自治体が出せる金額は国の基準額で決まっているわけではない。地域ごとに違います。要請を受けたら、地元の医師会か自治体の担当課に出務1回あたりの委託料を先に聞いてください。

実際に儲かっているのか
点数の差は分かりました。では実際の決算ではどうなのか。医療経済実態調査(第24回、令和5年度決算)に、在宅療養支援診療所だけを取り出した集計があります [29]。
| 令和5年度決算 | 一般診療所 | 在宅療養支援診療所 | 差 |
|---|---|---|---|
| 個人立・医業収益 | 年9,698万円 | 年10,963万円 | +13.0% |
| 個人立・損益差額 | 年3,191万円 | 年3,657万円 | +14.6% |
| 医療法人・医業収益 | 年18,485万円 | 年18,232万円 | −1.4% |
| 医療法人・損益差額 | 年1,578万円 | 年2,670万円 | +69.2% |
医療法人では、医業収益がわずかに低いのに損益差額が69%高く出ています。
この数字の読み方には注意が要ります。これは同じ年度の平均を横に並べた横断比較であって、「在宅を始めたら利益が増えた」という前後比較ではありません。もともと患者数や人員に余力のある診療所が在宅療養支援診療所を届け出ている可能性を、この表からは排除できません。サンプルも調査に回答した施設(個人64施設、医療法人230施設)で、届出施設の全数ではありません。ここまでは「在宅をやっている診療所の平均は、やっていない診療所の平均より利益が大きい」と言えます。ここからは「先生の診療所が在宅を始めれば利益が増える」とは言えません。
もうひとつ、個人立の損益差額には院長自身の報酬が含まれていません。調査の原文にも「開設者(院長等)の報酬に相当する部分が、費用に計上されていない」と明記されています [30]。個人立の3,657万円を手取りと読むと、判断を誤ります(この定義は医療経済実態調査の読み方で詳しく扱っています)。
——ここまでを自院に置き換えると、届出の前にやることは1つです。3つの機能のうち自院が引き受けられるものを選び、その1つだけで月の収支がいくら動くかを自分の患者数で計算しておく。在宅なら受け持てる人数、公衆衛生なら学校数、初期救急なら年間の出務回数です。その金額を損益分岐点の計算に足せば、「外来であと何人ぶんに相当するか」という形で自院の言葉に変換できます。要請の場で迷わないための準備は、それだけです。
落とし穴は6か月前にある
対象だと分かったとき、いちばん効いてくるのは金額ではなく日程です。
開業の準備は、物件の賃貸借契約、融資の実行、内装工事、医療機器の発注、スタッフの採用という順で進みます。最も後戻りしにくいのが物件と融資です。そして届出の期限は、開設日の6か月前 [5]。物件を押さえて融資の話が動き出す頃には、もう届出の期限が目の前に来ています。
届出を先に出す、という順番になります。
回答しないと「応じない」になる
届出を出した後の流れにも、時間の罠があります。
届出で地域外来医療を提供しない意向を示した場合、協議の場への参加と理由の説明を求められることがあります。求めるかどうかは知事の裁量で、参加と説明は届出者側の努力義務です [5]。その説明を踏まえてやむを得ないと認められなければ、期限を定めた要請が来る。この期限について、検討会のとりまとめはこう決めています。
新規開業希望者が要請に従わない場合は保険医療機関の指定期間が短縮されることがある旨を周知した上で、原則として1〜2週間程度の回答期限を定めて要請を行うこととする。また、期限内に回答がない場合、または地域で不足する医療機能、医師不足地域での医療を提供する意向ありと回答しない場合は、要請に応じないものとして、厚生局へ保険医療機関の指定期間を3年に短縮することの通知、都道府県医療審議会への出席及び理由等の説明の求めを行うこととなる [9]
1〜2週間です。そして期限内に回答がなければ、拒否したのと同じ扱いになります。これは条文や省令ではなく、検討会のとりまとめが示した運用方針です [9]。私がこの制度でいちばん事故が起きやすいと見ているのは、この1〜2週間です(見立て)。開業3か月前の2週間に、都道府県からの封書を開ける時間は確保してあるでしょうか。
開業直前の1〜2週間は、内装の最終確認や保健所の立入、スタッフ研修が重なる時期です。郵便物を開ける余裕がないまま期限が過ぎると、それだけで厚生局へ通知が行く。ここは知っているかどうかで結果が変わる箇所です。
届け出るのは10項目
届出の記載事項は、医療法施行規則第30条の33の20の2第7項が10項目を定めています [22]。届出者の住所・氏名、開設者が別人ならその住所・氏名、診療所の名称と開設予定の場所、診療科目、従業者の定員、開設の予定年月日。そして地域外来医療を提供する意向の有無、提供するならその内容、提供しないならその理由です。
前の7つは開設届と重なります。判断が要るのは、後ろの3つだけです。
作業そのものは重くありません。重いのは時期です。開設の6か月前という早い段階で、「自院は地域外来医療を担うのか、担わないならなぜか」を言語化して提出することになります。
なお、届出を出さなかった場合でも、同条第8項第一号により、その者は「届出者等」として扱われます [22]。届出を飛ばしても、要請の手続から外れるわけではありません。過料は届出義務違反への制裁であって、届出義務そのものを消すものではない、ということです。なお協議参加の求めは、地域外来医療を提供しない意向が示されたときに発動する建て付けです [5]。
3年は固定されない
指定期間が3年になったとしても、それが続くわけではありません。
厚生労働省が医療部会に示したフローによれば、指定期間が3年とされた医療機関には、開業3年後から毎年1回、協議の場への参加が求められます。改善していれば指定は6年に戻ります。改善していなければ、再び3年(またはそれより短い期間)です [2]。
一度きりの処分ではなく、更新のたびに問われ続ける仕組みです。
多数区域の書類と混同しない
もうひとつ、実務で紛れやすいものがあります。
多数区域で提出を依頼される「地域医療への協力意向の確認について」は、2020年7月から運用されている別の書類です [7]。任意の協力依頼であり、過多区域の事前届出とは根拠も効果も違います。開業コンサルや自治体の窓口で「届出は出しましたか」と聞かれたとき、どちらの話をしているのかを確かめてください。
やむを得ない場合の例外
条文には「やむを得ない場合として厚生労働省令で定める場合を除き」という除外が置かれています [5]。この「省令で定める場合」は、医療法施行規則第30条の33の20の2第5項が3つ挙げています [22]。
- 過多区域内の診療所の廃止が予期されなかったもので、その開設者以外の者が同じ所在地で直ちに開設することに、やむを得ない事情があると知事が認める場合
- 都道府県その他の行政機関の求めに応じて開設する場合で、6か月前までの届出ができない事情があると知事が認める場合
- 1・2のほか、6か月前までの届出ができない事情があると知事が認める場合
3つに共通しているのは、いずれも「都道府県知事が認める場合」だということです。例外は自動的には働きません。承継案件で急いで開設する場合も、知事の認定を取りにいく手続になります。
そして第1号に該当した者は、同条第8項第二号により「届出者等」に含まれます [22]。第2号・第3号に該当した者も、知事が届出が必要と認めれば第8項第三号で同じく「届出者等」です。6か月前の届出は外れても、協議の場への参加の求めと要請の対象には入るということです。

——ここまでを自院に置き換えると、必要なのは開業スケジュールへの1行の追記です。開設予定日の6か月前に「事前届出の期限」、その3か月前に「地域外来医療を担うかの意思決定」。物件を決める前に、担える機能を決めておく。この順番にしておけば、1〜2週間の回答期限に追われることはありません。
3年後に見直し条項がある
この制度には、期限の付いた宿題が付いています。法案審議の過程で衆議院が加えた修正が、そのまま改正法の附則に入りました [9]。附帯決議ではなく、政府に検討と措置を義務づける条文です。
政府は、(中略)の施行後三年を目途として、第一条の規定による改正後の医療法第三十条の十八の六第一項の指定を受けた区域において、新たに開設された診療所((中略)医業を行う場所であって患者を入院させるための施設を有しないものに限る。(中略))の数が廃止された診療所の数を超える区域がある場合には、当該区域における新たな診療所の開設の在り方について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする [6]
条件が2つ、はっきり書かれています。指定を受けた区域であること。そして無床診療所の新設が廃止を上回ること。この2つが揃った場合に、開設の在り方そのものを見直す。今回の組み合わせで診療所の数が減らなければ、次はもっと直接的な手段を検討する。そういう予告です。
裏を返せば、指定が1つも行われなければ、この条項は起動しません。
3年後の判定に使われる統計も、すでに公表されているものです。医療施設動態調査は、一般診療所の開設と廃止を毎年集計しています。令和5年10月からの1年間では、開設7,035件に対して廃止6,501件でした [31]。ただしこれは有床を含む一般診療所全体の数字で、附則が対象とする無床診療所に限った集計ではありません。方向の参考にとどまります。そのうえで、診療所の集中する過多区域でも新設が廃止を上回る可能性は小さくないとみます(推定)。
私はこの条項を、制度のサンセットではなく、次の規制の予約票だと読んでいます(見立て)。施行前から「効かなかったときにどうするか」が条文に書き込まれている制度は、そう多くありません。
既存の診療所はどうなるのか
もう1つ、附帯決議に含まれた一文があります。こちらは附則と違い、政府への政治的な要望であって法的拘束力はありません。
(前略)外来医師過多区域における新規開設者のみならず既存の無床診療所についても、現に診療が行われていることや、地域の医療提供体制の確保に留意しつつ、改正後の医療法第三十条の十八の六に規定する届出事項に準ずる事項に関する実態を把握するための必要な環境整備の検討を行うこと [4]
いま対象なのは新規開設者だけです。ただし国会は、既存の無床診療所についても届出事項に準ずる実態を把握する環境整備を検討せよ、と求めました。義務化ではなく、「実態把握の環境整備の検討」です。
すでに開業している先生にとって、この附帯決議は「いまは対象外だが、視野には入っている」という意味を持ちます。
いま自院が地域で引き受けている機能を、届出事項の後ろ3つ(提供の意向の有無・提供する内容・提供しない理由)の形で書き出せるでしょうか。
診療報酬でも決着していない
指定期間が3年に短縮された医療機関を、診療報酬の側でどう扱うか。この論点は中医協に持ち込まれています。2025年12月24日の総会資料は、「中央社会保険医療協議会における議論が必要な事項」として、こう挙げました。
外来医師過多区域における診療報酬上の対応 地域で不足している医療機能等にかかる医療提供の要請に応じない等の理由により、保険医療機関の指定が3年以内とされた医療機関の診療報酬上の対応 [8]
論点として立っている、という段階です。何をどうするかは、この資料には書かれていません。
ここは、決まっていないことを決まっていないと書くべき場所です。要請に応じなかった診療所の点数を下げるのか、下げるとして対象を加算に限るのか基本診療料にまで及ぼすのか。加算を1つ取れないのと、すべての患者の初診料・再診料が下がるのとでは、経営への影響は桁が違います。この設計が決まるまでは、指定期間の3年短縮が実際どれだけ重い不利益なのかは確定しません。
編集部の先読み
指定期間の短縮だけでは診療所の分布は大きくは動かず、2029年前後の見直しで論点は「届出の強化」から「保険医療機関の指定そのものの扱い」へ移るとみる。ドイツが定員超過地域で新規の保険医契約を認めない形をとっていること [10] を踏まえると、日本でも次に検討されるのは要請の実効性ではなく指定の可否の側だと読む。根拠: 衆議院修正が「新設が廃止を上回る区域がある場合」という発動条件付きで開設の在り方の再検討を政府に求めており、実効性が出なかった場合の次の一手が条文上あらかじめ用意されている [9]
——ここまでを自院に置き換えると、いま判断に効くのは1点です。この制度は3年後に必ず点検される設計になっており、いまの届出・要請の枠組みが最終形ではありません。2029年前後に開業を考えている先生は、「新設が廃止を上回れば強化される」という前提で候補地を見ておく。すでに開業している先生は、届出事項に準ずる実態把握がいつ動き出すかを、次の外来医療計画の改定時に確かめておけば足ります。
おわりに——「担える機能」を先に決める
外来医師過多区域の規制は、開業できるかどうかを決める制度ではありません。開業した後に何を引き受けるかを問う制度です。対象は9医療圏に限られ、そのいずれについても、指定の公表は本記事の執筆時点で確認できていません。
要請される中身は、前の制度の実績が教えてくれます。公衆衛生、在宅医療、夜間・休日の初期救急。この3つのうち自院が担えるものを、物件を決める前に選んでおく。それだけで、届出の場面でも要請の場面でも、自分の言葉で答えられるようになります。
クリニックAIラボでは、制度が動いたときに何が変わるかを一次資料から追い続けます。この制度についても、候補9医療圏を抱える5都府県の公表を継続して確認し、指定が出た時点で本記事を更新します。
参考文献
- 厚生労働省医政局地域医療計画課. (2026). 外来医師偏在指標(令和8年4月版)(二次医療圏別). https://www.mhlw.go.jp/content/001705059.pdf (2026-09-19 取得)(全国値115.7、上位33.3%の閾値111.71。自院の医療圏を引く一次表)
- 厚生労働省. (2026). 医師偏在対策について. 第123回社会保障審議会医療部会 資料1-2. https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/001634535.pdf (2026-09-19 取得)(過多区域の基準・候補9医療圏の表・手続フロー・令和6年度の要請実績)
- 健康保険法(大正十一年法律第七十号)第六十八条の二. e-Gov 法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070 (2026-09-19 取得)(要請に応じない場合に保険医療機関の指定へ3年以内の期限を付せる根拠)
- 厚生労働省. (2025). 医療法等の一部を改正する法律の成立について(報告). 第122回社会保障審議会医療部会 資料4. https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/001606327.pdf (2026-09-19 取得)(改正の全体像と施行期日(令和8年4月1日)、衆参の附帯決議)
- 医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第三十条の十八の五・第三十条の十八の六・第九十二条. e-Gov 法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205 (2026-09-19 取得)(過多区域の指定・事前届出・要請・勧告・公表を定める条文と、届出義務違反の過料)
- 医療法等の一部を改正する法律(令和七年法律第八十七号)附則第二条第一項(検討)・第四条(経過措置). e-Gov 法令検索(医療法 附則). https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205 (2026-09-19 取得)(施行後3年の見直し条項と、届出規定を施行日から6か月経過後の開設者に適用する経過措置)
- 東京都保健医療局. 東京都外来医療計画(外来医師過多区域に係る無床診療所の開設について). https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/iryo/iryo_hoken/kanren/gairaikeikaku (2026-09-19 取得)(指定の検討状況と、指定日から6か月後という起算点の設例)
- 厚生労働省. (2025). 医療法等改正を踏まえた対応について. 中央社会保険医療協議会 総会 総-2(令和7年12月24日). https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001620461.pdf (2026-09-19 取得)(指定期間を短縮された医療機関の診療報酬上の扱いを議論入りさせた資料)
- 厚生労働省 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会. (2026). 医師確保計画の見直し等に向けたとりまとめ. https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/001680332.pdf (2026-09-19 取得)(検討会段階の届出事項案・回答期限1〜2週間・施行後3年の見直し条項(衆議院修正))
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- 埼玉県医師会. 令和8年度 特定健康診査・特定保健指導 委託単価. https://www.saitama.med.or.jp/doctor_9.html (2026-09-19 取得)(特定健診の個別健診・集団健診の委託単価と事務代行手数料の実額)
- 厚生労働省. 救急医療対策事業実施要綱(岡山県公表の同要綱 PDF で別表まで確認). https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/1026721_9921692_misc.pdf (2026-09-19 取得)(休日夜間急患センターの国庫補助は施設・設備整備のみで運営費は補助対象外)
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- 厚生労働省. (2025). 第25回医療経済実態調査の概要. 中央社会保険医療協議会 実-1-2. https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001599547.pdf (2026-09-19 取得)(直近の損益率。個人立の損益差額に院長報酬が含まれないことの原文注記)
- 厚生労働省. (2025). 令和6(2024)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/24/dl/11gaikyou06.pdf (2026-09-19 取得)(一般診療所の開設・廃止件数。新設と廃止の差を見る基礎統計)